6日目 37 勇者シャルトリューズ②~竜と勇者の時を駆ける追いかけっこ~
封印の受け皿となっていた巫女ルベルが死に――肉体が滅んだことで、竜の魂は再び封印から解放された。
そしてまた、さまざまな時代と場所で、竜とおいらの追いかけっこが始まったわけ。
御伽噺にあるように仲間を伴って旅をしたこともある。
時代が過ぎるにつれ、おいらの末裔――おいらが子を産んだことは無いから本当の末裔では無いんだろうけど――そこにいるチトセみたいな耳長の一族も現れるようになった。
ヒトはもとより、熊髭、獣人、小人、巨人、魔族なんかも居たかもね。
もちろん、ルベルの――火の巫女の末裔とも何度も旅をしたよ、ヒナ=シャルラハラート。
君の親代わりでもあるアカネ=シャルラハラートもね。
「アカネおばさんも……? ラストのおじさんやローシェンさんたちだけじゃなかったんだ……」
「オレたち全員がひとつの旅仲間だったな」
ま、そこの思い出話は今は要らないんじゃないかな。
ヒナ=シャルラハラートは見れば見るほど、おいらの愛したルベルによく似ている。
緋色の髪は燃え盛る炎のようで内に秘める情熱が溢れ出ているんじゃないかと思うくらい。
ただ、同じ緋色なのに、その瞳を見れば見るほど吸い込まれるようで何か違う力が働いているんじゃないか。
それはそうと、ルベルより背が高いのにお胸の発育は随分と後れを取っているようだけれど?
「なによ?」
ぎろりと宝石みたいな瞳で睨まれた。
何も言ってないのに感づかれたみたいで、察しのいいところはルベルそっくりかもねぇ?
「御伽噺ではそのあと竜との和解を願う言葉で締めくくられていますが……」
耳長チトセの弟子という黄土色の法衣に同じ色の癖毛をした女の子が小さな声で呟いた。
この子、そういえばヒナ=シャルラハラートと一緒に樹人のところに来てたね。
見覚えがある。
「そうだね。巡り逢ったうちの何度かは対話を試みたよ。結果はまちまちかな。ただ結局竜は命を絶やすと記憶を失って新たな地でまた暴れるものだから、ね……」
竜もまた寿命がある。
人に憑依しようものなら尚のこと短い生になる。
「じゃ、じゃあ……、七年前あたしを火事から救ってくれたのは……」
あれは、ほーんとたまたま偶然。
通りすがりでアカネ=シャルラハラートに顔を出そうと思って寄っただけなんだよね。
「では、今代の竜は……?」
まだ見つかってないんだよね。
そこを探すところから旅が始まるわけなんだ。
「勇者様との、旅……」
俯いたヒナ=シャルラハラートが何か呟いたようだったけど、おいらには聞き取れなかった。
話すのに夢中だったから料理人ローシェンの拵えたレンズ豆吸い物は冷めきっていたけれど、ほどよい塩味に小粒豆独特の男爵芋に似た旨味の染み出た汁は旅の途中、野営で味わった懐かしい味そのままだった。
一方で同じく時間が経って気の抜けた麦酒の味は……、……うん、まぁ、酷いもんだ。