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6日目 17 アサギとサキ 此処に居る理由

「ふぅ……。無事に、届けたよ」



 野ウサギと木漏れ日亭の二階。

 ゆるく毛先が内巻きになった紫髪に黒の法衣ローブを身に付けた魔術師ソーサラーフジムラが息を弾ませて、寝台ベッド上に上半身だけ起こした俺がいる寝室へ戻ってきた。


 部屋の入り口脇には魔術師フジムラと共に行動している僧兵モンクの寡黙な長身男がいる。

 年頃は俺やフジムラ、ヒナと同じくらいのはずだが、その身長と鍛えた筋肉のためいかつく、そこに居るだけで威圧感がある。

 フジムラが出て行った間、こいつと二人っきりで気まずかったぜ……。

 すぐ戻ってくれて助かったよ。



「悪いな、ありがとうフジムラ……」


「お安い御用だよ。今日の私は、アサギ君のお世話係なんだから!」



 おでこに浮いた汗を拭う魔術師フジムラ。やけに張り切っているように思える。

 女の(この)体になったばかりにろくに動けない俺に代わり、渡しそびれていた贈り物(プレゼント)を舞剣士ヒナに渡してきてもらったのだ。

 本当は直接渡したかったが……。

 舞剣士ヒナ(あいつ)は今、俺が元の姿に戻る方法を探しに、精霊の森の奥なんて危なっかしいところへ行くわけだから。

 お守り代わりになるようなもの、渡したかったんだ。



「……ん? アサギ君?」


「あ、ああ。悪ぃ。ぼーっとしてた」



 魔術師フジムラが問いかけていたのを考え込んで気付かなかった。



「次は何しようか? 汗かいてない? 体拭く!?」


「い、いや、いい! 待て待て! なんでそんな食い気味なんだよ! 汗かいてるのフジムラのほうだろ!」



 どこから取り出したのか桶と布巾を持ち、身を乗り出す魔術師フジムラ。



「……おい、アサギとか言ったな、ちょっといいか?」



 腕組みをし壁にもたれかかったまま、象牙色の短髪を持つ長身の僧兵が口を開いた。



「なんだ? ……あーっと……」


「アイボリーだ」



 俺が言い淀んだのが名前だと分かったらしい。勘のいい奴だ。



「そうそう。アイボリー。珍しいな、あんたから話しかけてくるの。この姿を笑いたいのか? 遠慮なく笑ってくれよ。あ、でも体拭いてるとこ見られるのはちょっと……」


「そうだよアイボリー君。女の子同士のヒミツなんだよー」


「そんなことはせん! 貴様に言いたいのは、俺たちが野ウサギと木漏れ日亭(ここ)に来た理由だ……」



 顔を赤らめムキになって言葉を返す僧兵アイボリー。



「ちょ、ちょっと、アイボリー君。それは……」


「いいだろ、サキ。遅かれ早かれ耳に入れることになる。先に知っておいた方が心構えができるだろ。それに……お前は古い知り合いだから、こいつに情が沸いてはっきり言えないんじゃないか?」


「な、なんだよ、どういう……」



 はっきり言われ図星を突かれたのか、魔術師フジムラがむくれて僧兵アイボリーを一度睨む。



「言いにくいのだろうから俺から言おう」


「ま、待って……! わ、私から言わせて……」



 魔術師フジムラは一度俯くと、意を決したのか顔を上げ俺に向き直る。



「あのね……私たち、ヒナちゃんを聖都に連れて帰らなきゃいけないの……」


「え…………?」



 言われた言葉に理解が追い付かない。

 やっと言ったか、と言わんばかりに僧兵アイボリーの溜息が聞こえたが、目線をそっちに移す余裕はない。

 俺の瞳を覗き込むよう真っすぐ見つめる魔術師フジムラを見返すので精いっぱいだ。

 瞼が開くいっぱいに目を見開いているのが自分で分かる。



「私たちの師匠……ううん、ヒナちゃんの育ての親であるアカネさんからの依頼なの」


「な、なんで……」



 消え入るような、音になっているかも怪しい、声帯をほんのわずかにだけ震わせただけのか細い声しか出なかった。



「それは貴様は知らなくていい」


「な……」


「ごめんね、アサギくん……。内密に済ませろってお達しだったけど、そうもいかないなって思って」



 遮ってきた僧兵アイボリーだけでなく、魔術師フジムラも言えないようだった。



「その話、ヒナのやつは……」


「ううん、まだ。……ちょっと切り出す(タイミング)無くってね……」



 申し訳なさそうに言うサキ。



「……ヒナちゃんが森から戻ってきたら話そうと思うの」


「貴様、変な気を起こすなよ?」


「な……」


「例えば貴様がヒナを連れて何処かへ逃げたとする。結果、サキや俺にも……いや、この街全体に害が及ぶかもしれん。その責任をお前が取れるか?」



 部屋の端と端、ゆうに五歩分は離れている距離から、鋭利な刃物のように鋭く、それでいて重く問いかける僧兵アイボリー。



「そんな大袈裟なっ……」


「起こり得るから言っている」



 なんとか絞り出した反論も、打ち砕かれる。



「聞いて、アサギ君。あのね……。ヒナちゃん……、狙われているの」



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