1日目 12 エルフと百合
話の切り替え回、短めです。
後日加筆予定です。
食事部分にパンを追加しました。
「と、いうわけで現在に至るのですわ」
ジーナが話を締め、手にしたエールのグラスを傾けて喉を潤す。
その隣で話し続けたアヤメは、散々待てを食わされた犬のように食事にがっつき――レンズ豆スープの器を両手に持って喉を鳴らし勢いよく飲み、ぷはぁ、と満足そうに息をつく。
「エルフが最初は優しくて良かったよねー」
と手の甲で口を拭いながら、懐かしそうに言う。
最初は、とわざと引っかかる言い方をするのは突っ込み待ちか。
「あら、アヤちゃん。ほっぺにお豆がついてますわ」
ジーナがそう言うと、アヤメの頬に残った橙色の豆をつまみ取り、ぱくっと口に入れた。
「えへへ」
「ふふふ」
仲睦まじい、何物にも割り込むことができない二人だけの空気。
アンタは見惚れてほっこりしている。
アサギはふぅ、とため息をつく。
「ああ、そうだな。あの人ならこの空気を感じただけでご機嫌だろうなぁ」
「あー、それー……」
普段察しの悪いヒナでさえも同意している。
「エルフの性癖に合ってたからよかったんだろうな」
不思議そうな顔をするアンタへのフォロー。
オレは暖炉に薪を並べながら説明的に話す。
「森のエルフに以前、『エルフは百合とびーえるでできているのよ!』と豪語されたことがある。エルフが人間との接触を好まないのは性欲盛んで男女でやたらめったらまぐわうし、それだけに留まらず異種族とも平気で混ざり合うのが気持ち悪いからだと。ゴブリンやオークと同じ目で見る気持ちらしい」
「なにそれ……」
ヒナがげんなりした表情を見せる。
アサギもジーナもかなり引いている。
パクパクとナッツを頬張るアヤメは例外。
「長命なのに数が少ないのはそのせいだと言ってたな。ごく一部、男女どちらもイケる奴が子供をつくるらしい。または女王だけが産卵をするとか」
「嘘だろ!卵なのかよ!」
すかさずアサギの鋭いつっこみが入る。
「まぁ、種族としての真相はともかく、あいつが百合なのは事実だな」
言いながら暖炉に火をつける。
「だから気に入った、と言ってらしたのですね……」
ジーナが納得しながらも困惑し顔を赤らめる。
ん? アンタも一度お会いしてみたいって?
樹人に会うなら避けては通れないが……やめといたほうがよさそうだがな。
「エルフっ子ならそろそろ来る時期だろ?」
できあがった料理をテーブルに運んできた料理人が話に混ざる。
「この辺りは毎年冬になると雪が深くてね、遭難者が出ないように収穫祭が終わると峠と一緒に森も封鎖するんだよ。だから冬から春までの間エルフっ子はここで寝泊まりするのさ」
「そうそう、去年もずっといたよ!」
時期、ですか? というアンタの疑問に料理人が答えヒナも同調、アサギもそうそうと頷く。
え? オレがそのエルフと仲がいいかって?
まぁ、古い付き合いでな……。オレは歯切れのよくない返事をしてしまう。
「まぁ話をするのもいいけど、せっかくの料理だ、温かいうちに食べな!!」
料理人の言葉で空気がすっかり変わり食事態勢、テーブルにずらりと並んだ料理に視覚と嗅覚を奪われ誰しも頬が緩む。
いい香りが鼻から体いっぱい満たすような、五感を満たすような料理。
「「「「いただきまーす」」」」
全員が一斉に唱え、料理をよそい始める。
季節野菜のサラダ、白兎のソテー、ひよこ豆の煮込み……シンプルで素材の良さが味わえる料理。
ごまかしがきかないから素材と料理の腕が良くなくては美味しく作るのは難しい。
それだけ腕の立つ料理人。全幅の信頼を置いている。
「ちょっと、アサギ。お肉とりすぎじゃない?」
「たくさんあるんだからいいだろ、誰かさんに散々こき使われたから腹ペコなんだよ」
「むっ! なによー!」
「おいおい、今日はやめておけよ」
オレはすかさず止めに入る。
このやりとりには慣れたもの。
アンタはひよこ豆の煮込みを匙で掬って一口。
ほくほくの食感とやさしい塩加減がエールビールの軽やかさによく合うだろ。
つまみにはもってこいなんだ。
各々夢中になって食べる。
「ほら、パンも焼けたよ!」
料理人が今度は、焼きたてのパンが詰まったかごを持ってきた。
まだ湯気の立つような焼きたて。
汗をかいた額に前髪がくっついているのを気にも留めないで、皆が食べる様子を満足げに眺める。
「あつっ!!」
早速パンを手に取ろうとしたアサギが、予想外の熱さだったようで飛び上がる。
「食い意地張ってるからよ」
ヒナが目線さえ送らず冷たく言い放つと、笑いが巻き起こる和やかな空気。
アンタはかごをのぞき込む。
ここらでは馴染みのある茶色い全粒粉パン、黒いライ麦パンのほかに、あまり見かけない白いパンも入っている。
「お、白パンがあるじゃねぇか。奮発したな」
「せっかくの歓迎会だっていうからね。あんた、白パン食べたことあるかい?」
問いかけられたアンタが首を横に振ると、皿に白パンを載せずい、と差し出されて目を丸くする。
「せっかくだから食べておきな! このパンは日持ちしないからあまり出回らないんだ。ふわふわの食感でほんのり甘くて美味しいよ!」
お言葉に甘えて、と程よい温度になったパンをアンタは早速つかみ、一口サイズにちぎり頬張る。
触り心地が明らかにほかのパンと違い、口に入れても独特の綿のようにふわっふわの感触。だろう?
初めて味わう食感に贅沢な味わい。
食わなきゃ損ってもんだ。
ひとしきり食事を楽しむと、アンタは少し遠慮がちに口を開く。
「ん? さっき聞き忘れた? ああ。オレの職業は何かって?」
アンタの質問にアサギは少し迷ってから口を開こうとするが――。
「おにーちゃんはドロボーさんだよー」
質問に答えようとしたアサギをアヤメが横から遮り、その言い方にアサギはテーブルに顔を打ち付ける。
「こら! 盗賊だ!」
「……同じよね」
ヒナが呆れたように言う。
「それなりのプライドってもんがあるんだよ! それにいきなりドロボーなんて言ったら警戒されるだろうが!」
「あら、それなら警戒されないよう、正直に女性の下着専門ですとおっしゃったらいいではありませんか~」
ジーナはこういう茶々を入れるのが上手い。頭の回転が早いのだろう。
「誰が女性の下着専門だ!」
「あら、男性のものも興味がおありでしたの? それは存じませんでしたわ~」
ジーナが頬に手を当ててコロコロと笑い、横でアヤメがエール片手にあははーと大笑い。
「寝言でパンティは男のロマンだ! と叫ばれていたのはいつでしたっけ~?」
「言ってねぇよ!」
「え……。ちょっと。なんでアサギとジーナが一緒に寝てるのよ」
呆れていたヒナが一変、声が本気だ。
「反応するとこそこかよ! 寝てねぇよ!」
声のトーンに気付いたのか、アサギも必死だ。
蹴り飛ばされたばかりで身の危険を感じているよう。
「あら、ヒナさんやきもちですの~?」
「ちぃねーちゃんやきもちー」
「ち、違うわよ!! 別にやきもちなんか妬いてないわよ!!」
標的が変わった。
2対2、いや、2対1対1のやりとりがしばらく続き、アンタは料理に舌鼓を打ちながら眺めてその連携の妙、仲の良さに顔がほころんでいる。
「おにーちゃんもちぃねーちゃんも面白いよねー」
「そうですね~、アサギさんもヒナさんもからかいがいがありますわ~」
一通り弄って二人が満足し、収束したようだ。
え? ヒナさんとアサギさんは仲がいいのですねって?
率直な感想を口にすると、二人の頬がわかりやすく赤く染まる。
「あ、べ、別にやましい関係じゃないからね!!」
「やましい関係ってなんだよ……そういう言い方をするから誤解されるんだろうが。ヒナには借りがあるから、それを返すために旅に同行してるんだ。いつまでかかるかわからねぇけどな」
そんな言い訳を聞くと、じゃあ今度はお二人のお話が聞いてみたいですねって、アンタもなかなか乗せるの上手いなぁ。
「それならあたしが喋る!!」
「いや、オレが喋るからいいよ。ヒナは補足があったらよろしく」
前のめりのヒナを遮ると、アサギは一度エールをあおって話し始めた――。
エルフは百合とやおいでできていますキリッ(`・ω・´)
ずっとあたためていたこの一言を言いたいがための回ですw
とんでも設定にしてしまいました。
個人的な設定のつもりですが種族としてそうでもいいかなーと考え中です。