6日目 13 死者の居場所
◇
野ウサギと木漏れ日亭の食堂。
黄土色髪のドルイド僧オーツーと緋色髪のヘソ出し女ヒナが精霊の森の奥、樹人の元へ向かうのを見送ったオレたちは、また食堂に戻った。
一体、一日に何度出たり入ったりすりゃいいんだ?
そもそもオレらは帰ってきたばかりでいい加減休みたいんだが……。
「でさ、あんたたち何してたのさ?」
「え?」
しれっと自室に戻ろうとしたが、背後から声がし、間の抜けた返事をしてしまった。
振り返ると橙色髪の給仕オレンが腕組みをしている。
「アヤメたちは昨日のうちに峠に連れてこられてんだから、あんたらも……いや、アッシュは部外者だからいいとして、ラストは昨日のうちに帰ってくるもんだろ? ……心配すんだろうが」
同じく腕組みをして壁に寄り掛かって訊くのは生土色の髪を一つ尾結びにまとめ白い調理服に身を包んだ料理人のローシェン。
あのー、もしもしお姉さんがた?
もしかして怒ってらっしゃる?
「主代行は負担がとても大きい」
あーはいはいオレが悪ぅございましたー!
帰ったらすぐに問い詰めたかっただろうことを、状況が落ち着くまで待っていてくれたことに感謝したい。
言うわないけど。
「アア、ソウカ。済マナカッタ。私ガ引キ止メタンダ。片付ケト弔イニ少々手間ドッテナ……」
「姉さん!?」
オレの代わりに詫びを口にするのは料理人ローシェンの姉、土気色の肌に焼けた土色の髪を持つ墓守で死人のバンシェン。
「墓守の館が荒らされていてな…………ジーナが連れ去られたときのモノらしいんだが、酷い荒れっぷりでな。その片付けと……、……ウチの副隊長の埋葬もしたんだ」
前後逆に椅子に跨り背もたれに両腕を乗せる灰色髪の騎士アッシュ。
……今は騎士とは名ばかりで平服しか身に付けていないが。
「弔い……そうだったのね」
「聖都まで運んで向こうで葬式すりゃいいんだろうけどな、死に方がアレだから名誉を守るためにここでやったほうがいいと思ってな。どこにでも噂はついて回るだろうし。……ほら、ここは聖都と王都の中継地点で、特定の宗教に属さない緩衝地域と認められているだろ? 樹人がいるからなんだろうけど……」
「いいや、樹人は名目で、本当はあのバカのワガママだな」
「ワガママ?」
「整備された街道とはいえ、目的地まで安全が保障されるわけでもないだろ? 魔物、野盗、自然災害。旅の途中、志半ばで命を落とす者も少なくない。そんな奴らを道端に放っておくのは見過ごせないんだとよ。……苦しむ彼らの魂に居場所を与えてあげたい。その為にどんな信仰の者でも分け隔てなく弔うことができる場所が欲しい……って願って、形にしたのがあの墓地であり、そのための墓守だ」
なんでオレはこんなことをべらべら喋ってんだ……?
「そういう事情があったのね」
給仕オレンは表情を和らげた。
納得はしたようだ。
「だから、まぁ心情的には聖都まで連れ帰ってやりたいわけだが、大騒ぎだろうし下手すりゃ聖都の騎士団本体が現地調査にやって来かねないだろ」
「アッシュがそう言うからな……、穏便に済ませられそうな方法を選んだわけだ」
「タダでさえ、俺、騎士隊絶賛ほったらかし中だからな」
職務放棄野郎はむしろ今すぐ首根っこ掴んで聖都に突き出してやりたい気分だが……。
「ソレト、意外ナモノノ発見モアッタシナ」
「発見?」
何のことやらさっぱりの料理人ローシェンと給仕オレンを尻目に
無表情無感動が基本の墓守バンシェンが俺の方を見て嬉しそうににやける。
お前ですらそんな顔すんのかよ……
アッシュは当然ぶん殴りたくなる緩み切った顔をしているのがムカツク。
あとで覚えとけよお前……。