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【閑話】バレンタイン~借金返済大作戦~

季節ものです。

久しぶりに四人のわちゃわちゃをお楽しみください。

 人々が行き交う、交易盛んな主要路である街道沿いの宿場街――の外れにある、ちょっと古びた宿「野ウサギと木漏れ日亭」


 そこを拠点にする四人の冒険者は苦境に立たされていた。

 重くのしかかるのは長期間に及ぶ滞在費と、度重なる自損による宿の修繕費。

 四人が総出で働いて、ひと月で支払い終えられるかどうかの額だ。



 平時であれば地道な労働や依頼の報酬などにより稼ぎ出せるのだが、このところ事件ばかりが続きロクに働けないでいた。


 その結果の借金苦である。


 その上、今は真冬。

 雪に閉ざされては本業である冒険がままならないため、お宝による一攫千金の望みも薄い。



「そういうわけで、本日のわたくしたちは異世界からもたらされたお菓子『ちょこれーと』の売り子ですわ~」



 サラサラの長い黄色髪をしたお姉さん風の少女が、誰にともなく説明する。

 宿の主がツテで貰ってきたという大量の菓子。

 綺麗に包みに包まれリボンまであしらわれた、見るからに価値のありそうな品。


 仕入れはただみたいなもんだから、と宿の主談。

 これを売りさばいた利益は自分たちの収入にしていいとのお達しだそう。



「わーい、おもしろそー。ねーねーそこのおにーさん、ひとつ買っていかない? 今なら大サービスで、ボクが口移しで食べさせてあげるよー?」



 背中のぱっくり開いた袖無しの服(ノースリーブ)を着た少女、こちらも黄色髪だが両端結び(ツーサイドアップ)の髪型にしている。



「あら~? アヤちゃん、そういうことはみだりにしてはダメですわよ~。 わたくしにしかしてはいけませんわ~」


「まーまー、おねーちゃん。売れるんだから固いこと言わないー」


「あ、アヤちゃんの唇は私だけのものですものっ」



 アヤちゃんと呼んだ脳天気な少女の過激な行動に対し、おねーちゃんと呼ばれた、やや長身の少女はおっとりした口調の中、わずかに焦りの色が出てしまっている。



「えー? だって、こう言うとお客さんいっぱい来るよー?」


 言いながら口移しで買い手の男性にチョコレートを渡すが、渡したと同時に客は意識を失い地面に倒れ込んでいる


「チョコを与える代わりに生気奪うなーっ!!」



ツッコミを入れるのは肩までの長さの青緑色髪をもつ少女。



「えへー。おにーちゃんも、口移しで食べる?」


「要るかっ! お前に生気吸わせた結果、女の(こんな)体になったんだ。次こそ命の保証ないだろ!」


「……ほほふはほほ(戻るかもよ)?」


「根拠のないこと試さすな! って、咥えながらこっち向くなぁ!」


「……なによ、イチャイチャしちゃって……」



 両端結びの黄色髪少女にたじろぐ青緑髪少女の後ろで、緋色髪の少女が不満げに呟く。



「ん? ヒナ、なんで怒ってんだ?」


「うっさい! 怒ってなんかないわよ!」


(……怒ってるだろ……)


「なんでこんな寒い中、露店出して売らなきゃいけないのよ!」



 ヒナと呼ばれた緋色髪少女は意地を張って本音を言えず、怒りの矛先はよく分からない方へ向かっている。



「仕方ないだろ、借金あるんだから……。つーか、なんで俺まで駆り出されるんだよ、俺は男だろうが……そもそもヒナが扉蹴破ったり床板踏み抜いたり術で内装焦がしたりしなきゃこんな額には……」


「全部あんたが悪いのよ! アサギ!」


「なんでだよっ! つーか、さっきから喋ってばっかで一つも売ってないじゃねーか。手ぇ動かせよ」


「嫌よ! どうして見ず知らずの男にチョコあげなきゃいけないのよ!」


「は?」



 緋色髪ヒナの予想しない発言に、思わず固まる青緑髪アサギ。



「だって……、ば、バレンタインのチョコレートって……、想い人に渡すものなんでしょ……?」



 呆れる言い訳に青緑髪のアサギは大きくため息をつく。



「あのなぁ、これは仕ご「どんな理由があっても嫌!」



 青緑髪アサギが言い終える前に緋色髪ヒナが遮る。



「あらあらヒナさんは想い人が居らっしゃるんですの~?」


「えー? ちぃねーちゃん誰に渡すのー?」



 話を聞きつけ、持ち場を離れニヤニヤとヒナに迫る黄色髪二人



「いや、その、あの、そういうわけじゃ……」


「心に決めた相手が居なくては、気にすることではないですわよね~」


「えー? 誰かなー? 気になるなー?」



 わざとらしく追い打ちをかける黄色髪の姉妹。



「え? それって……」


「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」


「ちょ、こら暴れるなっ!」


「あんたのせいなんだからっ!」



 かける言葉に聞く耳持たれないばかりか、青緑髪アサギに迫る緋色髪ヒナの拳。



(な、殴られるっ!)



 ……ポス。


 弱々しい握り拳が、左の鎖骨に触れた。



「え……?」


「こ、こんなかわいい女の子、殴れるわけないじゃない……。そ、それに……は、早く男に戻んなさいよね……!」



 自身の緋色髪以上に顔を赤くしたと思えばすぐそっぽを向き、ヒナはそのまま宿に向かって走り去る。



「って、おい! 働けよ!!」



 呼び止める声も空しく、緋色髪の少女は行ってしまった。



「は~い、このチョコレートは洗礼受けていますから男神様のご加護がありますわ~。冒険安全不老不死商売繁盛何でもご利益ありますわ~」



 怪しげな客寄せにも群がってくる客。



「ジーナぁ! いい加減なこと言って売るなぁ!」


はひ(はい)ほひーはん(おにーさん)♪」



 懲りずに口移しを続ける黄色髪|両端結びのアヤメ。



「アヤメは死体の山を作るなぁ!!」


「まぁまぁアサギさん。こんなに皆さんお待ちなんですから、アサギさんからも配って差し上げてくださいませ~」


「あのなぁ! 俺は男だっつーの!」


『ねぇねぇおねーちゃん! 早く売ってくれよ!』


「って、いつの間にこんな行列!? もういい! 後は野となれ山となれーーっ!!」


 ~このあとヤケクソになったアサギの営業スマイルで完売しました~

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