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5日目 17 アヤメとジーナ④ 光の法力と闇の魔法

  わたくしは詠唱に集中するべく、両足を肩幅に開き、靴底で地面を踏みしめ安定させます。


 ギョロ目男は自身の上司であるアッシュさんを痛めつけることに夢中で、こちらの動きには気づいていない様子。

 好機チャンスですわ……!


 両手を胸元で握り天を仰ぐと、雪をちらつかせていた雲が渦巻きはじめ、冷たい風が吹き荒れてきます。

 これまでのいざこざでとうに乱れ切った私の腰まで伸びる長い髪は、風に乗り踊り狂っています。



『神の名のもとに


 我が敵を打ち払い給え!


 聖なる雷(ホリーサンダー)!!』



 上空の黒雲より発せられた稲妻が、大勢で太鼓を打ち鳴らすような轟音を伴ってギョロ目男に向かい堕ちます。


 命中……?

 立ち昇る砂煙で落雷現場が見えません。


 煙が少し晴れてくると不敵な笑い声が、その姿を見せるより先に聞こえてきました。



「ふははははっ! 神の加護を受けた聖騎士に、同じ神の力を使った法力など通用せぬわ!」



 ギョロ目男が右手を私に向かってかざすと、掌から私が放ったのと同じいなづまが発せられました。



「きゃぁっ!」



 防御する間もなく直撃。

 私の体はたやすく飛ばされ、地面に叩きつけられます。



「うっ……!」


「おねーちゃん!」


「焦らずとも、この邪魔者を始末したらすぐに可愛がってくれるわ! そこで黙っていろ!」



 倒れたままの私に向かって今度は光の矢が放たれるのを辛うじて開いた薄目の視界で捉えました。


 このままでは……っ!


 危機を察知していても、大地に叩きつけられた体はすぐには動きません。



 この男、無詠唱で……、どんな力を使っているのか存じませんが、法力を打つ間隔が短すぎますわ……っ!



触手たち(テンタクルズ)っ!」



 聞こえたのはアヤちゃんの声。

 矢が到達する直前、私の目前に覆いかぶさるよう現れたのは、粘液でぬめった複数本の大小さまざまな触手。

 私の盾となって矢を受けると、触手さんは断末魔の奇声を上げ消滅してしまいました……。



「今度こそボクが相手になってやる! こいっ!! 首無し騎士(デュラハン)!」



 私とギョロ目男の間に割って立つアヤちゃん。


 アヤちゃんがかざした掌の前に浮かぶ、青白い魔法陣。


 その中心から現れたのは全身鎧フルプレートの騎士……ではなく、その甲冑の一部。

 持ち主の居ない金属塊が地面に落ちてゴトリ、と鈍い音が鳴ります。


 馬上騎士の所有する、長い柄と同等の長さの円錐形をした先端を持つ突撃槍ランスと、鈍く光る漆黒の籠手こて



「こんなのくれたって持てないじゃんよぉ」



 珍しく泣き言を言うアヤちゃん

 眉をハの字に下げたちょっと情けない表情が、私にはたまりません。


 しかしこのままでは。

 丸腰に向けて電や矢を放たれてはひとたまりもありません。



「フハハハハっ! 勇み足だったな、情けないな悪魔め‼ 頼みの部下に裏切られたか! その絶望のまま死ねぇ!」



 いとも容易く、五連の光の矢を放つギョロ目男。



「アヤちゃん!」



 避けられないことを感知してか咄嗟に顔を守るアヤちゃんの両腕に、ひとりでに籠手が装着され、その手には円錐槍ランスが握られていました……!


 光の矢は円錐槍に弾かれて霧散します。



「れれ⁇」



 状況をよく把握できていないアヤちゃん。


 判るのは、私でも取り回しに苦労する円錐槍が重く感じられる様子が無く、ぶんぶん振れるということ。

 籠手に込められた魔力によって、筋力が補強されたのでしょうか。



「おおお」



 自分で槍を持ち上げられていることに感動し、目を輝かせて騎士槍を見つめるアヤちゃん。



「分不相応な!」



 アヤちゃんが騎士の武器を携えたことに露骨な不快感を表し、歪んだ表情で電を発射、騎士らしからぬ行動ばかりするギョロ目男。


 放たれた雷光に向け円錐槍をかざすことで防ぐアヤちゃん。

 避雷針の役割か、電は槍の先端に吸い寄せられていきます。


「へへーん。暗黒金属でできた槍には、神の力を使った法力なんて効きませーん。悔しかったらかかっておいで~。おしりぺんぺ~ん……って、できないや。べろべろべ~」


「ふ っ ざ け るなぁ~~!!」


 お尻を叩いて挑発しかけ、籠手を嵌めているために舌を出しておどけた表情をするに切り替える機転の利き方は生粋の悪戯っ子ですわ。


 それを見て怒り心頭、先程までの勝ち誇った顔はどこへやら、湯気を上らせて憤るやせっぽっちのヒョロヒョロ男。

 怒りに任せて、一度に五本の光の矢を、何度も連射。



「わ! わわわわわわ!」


「アヤちゃん!」



 槍を円状に回すも捌ききれず数発喰らい、アヤちゃんは鮮血を吹きながら仰向けに倒れてしまいます。

 私が寝転がっている場合ではありませんわ!



 私は立ち上がり、アヤちゃんの元へ寄ってきたギョロ目男の前に乱入します。

 睨みつけると、ギョロ目男は血走った目そのままに立ち止まります。


 決め手のはずだった『聖なる雷(ホーリーサンダー)』が効きませんでしたわ。

 であれば力技でねじ伏せるしかありません。



「仕方ありませんわね。人を相手に得物を向けたくはありませんが……」



 両手を広げ静かに呼吸を整えて。本来は瞼を閉じたいところですが、そこまで無防備にするわけにもいかず、ギョロ目男を睨んだします。します。



『父なる神の御使いの。

 

 罪を滅ぼす鉄鎚よ。


 我が手元へとおいでませ!


天使の戦鎚エンジェリック・ウォーハンマー】』



 髪色に似て淡く黄色がかった、白に近い輝きを放つつちの長い柄が猫が甘えるように私の手にそっと収まります。


 穂先を下に向けギョロ目男に駆け寄ると、またも光の矢を放つギョロ目。

 今度は見切って避け、得物の戦槌を振り上げざまに脛を目掛け、白い金属鎧ごと打ち抜く勢いでぶつけます!


 鍛えられ洗練された私の身のこなしは、事務方上がりの名ばかり騎士に敵うものではありませんわ。



「ぐぁぁぁぁ……っ!!」



 膝をつくギョロ目の側頭部にもう一撃見舞います!


 むき出しの頭に先程の半分の力でぶつけ、脳震盪を誘いましたが……。

 思惑は外れ、うずくまっただけでした。


 一思いにやってしまってもいいのですが、情報も得たいですからね。

 鎚の反対、鉤になった側を鼻先に突き付けます。



「大人しく聖都にお帰りになるのでしたら、命を奪うことはしません」



「このクソアマがぁ! 甘いんだよぉ!」



 軽蔑する冷たい目を向けましたが、ヤケクソなのかまるで効果なし。


 ギョロ目は鎧の隙間から細い筒――大きさは私の親指から小指程度――を取り出しました。


 先に針が付いている硝子ガラス製のような透明容器の中には、粘性のある茶色く濁った液体。

 何を思ったかその先端の針を自分の首筋に突き立てました。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」



 ギョロ目の血色の悪い色白の肌が、みるみるうちに海老茶色に染まっていきます。


 体も異様に伸び、大きさの合わなくなった全身鎧プレートメイルが、次々に地面に落ちて乾いた音を立てます。


 そこに在るのは背丈が倍ほどになり、微動だにしなければ枯れ木と見間違うほどの、骨と皮ばかりの蜥蜴トカゲのミイラにそっくりな二足歩行のバケモノでした。



「なっ⁉」


「あ、あれは……!」



 この至近距離で怯んではやられる、と鎚を打ちつけましたが、脆そうな見た目と裏腹に硬く、私ごと弾かれてしまいました。



「効くかよォォォ!」



 長くなった腕を無造作に振るう乾燥蜥蜴。


 私の真横の地面に腕がぶつかり、大地が大きく抉れました。

 その風圧も大変なもの。



 力が、身体能力が向上しているようですわ……。


 曲がりなりにも神の加護を受けた騎士であるため、ギョロ目男に法力は効かない。


 表面は退魔術を施しているため、闇の魔法も効かない。



 となると手段は……。


 どうにか隙を突くしかありませんわね……!



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― 新着の感想 ―
[一言] アヤメとジーナ、なんとか追い詰めつつはありますが、なにやらギョロ目、強化フォームになってしまったようで…はたして大丈夫なのでしょうか。ハラハラします。
2023/07/18 17:50 退会済み
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