1日目 9 アヤメとジーナ③ 廃村と悪魔召喚《前》
諸事情により投稿ができなくなりそうです。
その前にと、粗削りですが最新話お送りします。
※過激な表現あります、苦手な方は読み飛ばしをお勧めします。
「なによ、ノロけ話じゃない」
「不満そうだな」
「別に……」
ちいねーちゃんがエールの木製グラスを音を立てて置く。
宿のおじさんが突っこむとそっぽむくのがかわいいなぁ。
おねーちゃんと二人でニヤニヤしちゃう。
「というか、アヤメって……」
「ええ、恐らくは魔族……淫魔の類ですわ」
おにーちゃんがためらいがちに聞くのを、おねーちゃんがボクの代わりに答えてくれる。
「ただ、噂に聞くような角や翼、尾のようなものが見当たりませんので……少し違うのかもしれませんわ」
「まぁ、怪しいとは思ってたけどな……。召喚って言いながら、出してくるのは異形の怪物みたいなのばっかだし……」
「ほんとよね! 今日だって酷かったじゃない! 触手を召喚したと思ったら、あたしたちに向かってきて!」
「そうですわね~。ヒナさん以外みんな捕えてしまうんですもの……。あのぬるぬるした感触でまさぐられるのは、何とも言えない快感でしたわ」
おねーちゃんは頬を赤く染める。
「あれは勘弁してくれ……」
「そうよ! なんでジーナとアサギは捕まって、あたしは見向きもされなかったわけ⁉ って、どーしてジーナ赤くなってんのよ!」
「いやー、かわいこちゃんに反応する子だからー」
ボクは適当に誤魔化す。
あれは想定外だったんだよなー。
「納得いかないわ!! 今度あたしを襲わなかったら焼き払うわよ!!」
「味方に襲われたがってどうする……」
「ヒナさんが無事だったお陰ですぐにみんな解放されましたのよ。みなさん捕らえられていましたら大変でしたわ~」
「ほーんと! さすがちいねーちゃんだよねー!」
興奮するちいねーちゃんを鎮めるのにおねーちゃんと目配せしあっておだてる。
「そ、そう? あたしのおかげ? ま、あのくらいできて当然よ!」
「(チョロすぎるな)」
「何か言った⁉」
「いや何も」
「なんだいなんだい、盛り上がってるね!」
ボクらが騒いでいるところに一層元気な声が割り込んできた。
「さぁ、スープができたよ! 冷めないうちにどうぞ!!」
大きな寸胴鍋がまだ食器の少ないテーブルに置かれた。
その重さに軽い地響きが起こる。
調理場のおねーさんが、話し込んでいたボクたちを気遣ってわざわざスープ鍋を運んできてくれたんだ。
おねーさんの体より太い鍋、両手にミトンをはめて抱えるようにしているけど鍋の側面は熱いから腕の力だけで持たなくちゃいけなくて。
重いだろうに。
ありがとー、おねーさん。
おかげで話もすっかり逸れて突っつかれなくなりました。えへ。
「この地方の特産、レンズ豆を使ったスープさ」
自信たっぷり胸を張る、少し汗ばんだ額ととびっきりの笑顔。
歯並びのいい輝くような白い歯が磨き抜かれた鉱石のような爽やかさ。
おねーさんのご飯はなんだっておいしいんだけど、レンズ豆スープは看板メニューのひとつでとびきり。
ボクもだいすき。
つけ置いたレンズ豆とトマト、香草を一緒に煮込んで塩で味付けるだけだって。
シンプルなレシピだからこそ素材の味が引き立つって言ってたっけ。
ズシリと置かれた鍋からはいい匂いがしてくる。
ボクは食物を通した食事は必要ないみたいなんだけど、美味しいものは幸せになるよね。
おじさんがお皿に取り分けてくれている。
おねーさんは他の料理があるってすぐ厨房に戻っちゃった。
お料理きたけど、もうちょっとだけ話を続けるねー。
◇
目を覚ますと、ボクは干草の上で横になってたんだ。
ふかふかなんだけど、素肌だと針のむしろのように刺さってくる。
おねーちゃんはいない。
ボクが裸だからか、おねーちゃんの着てた黒い外套がボクの体にかけられてた。
やさしーなぁ。
意識が戻ると厚手の布地でできた外套からはおねーちゃんのいいにおいがする。
たまらなくて鼻を押し当てて深く呼吸しちゃう。
すー……はー……あぁ。
襟、首があたってたところ。
特に強くにおいがする。
くんくん、と嗅いじゃう。
とまんない。
心臓がどきどきしてきちゃった。
おねーちゃんそのものじゃないのに。ただの上着なのに。
切なくなってきて、外套を顔に押し当てて繰り返し匂いを嗅ぐ。
手のひらにある布をぎゅっと握りしめる。
手汗の匂いが付いちゃいそうだと一瞬よぎる。むしろつけちゃえと瞬間に打ち消す。
すー…… はー……ん……。
すーはー……すーはー……
最初はゆっくりだったけど、どんどん欲しくなってきて抑えられなく香りを貪る息が荒くなる。
忙しく鼻で吸ったり吐いたり繰り返す。
すーはーすーはーすーはーすーはー……。
おねーちゃんの匂いと、自分の息や唾液の臭いが混ざってむせかえりそう。
甘い香りと異臭の混合がくせになりもうやめられない。
そこに実体はないのに残り香だけでおねーちゃんの存在を感じてしまう。
コートを握る手が両手から片手になり、もう片方の手は無意識に自分の体の下のほうへなぞりながら下りていく。
目当てのところにたどり着くと、
「んっ……」
ちょっと声でちゃった……。
誰もいないのに、恥ずかしさを感じる。
始まったらとまらない。
「おねーちゃん……」
激しく匂いを嗅ぎながら、おねーちゃんを想いながら、
ボクは―――。
……はぁ……。
……………………おねーちゃんの匂いを――その存在を――目一杯楽しんだ。
……。
余韻に浸って呆けてしまう。
……って、いつまでもこうしちゃいられない。おねーちゃんを捜そう。
あの{人}(・)とは離れちゃいけない気がする。
干草から降りて立ち上がる。
ボクが眠っている間に体も拭いてくれていたみたいでベタベタは無くなっていた。
体に張り付いた草を手で払うけど、湿っていてうまく落ちなかった。
少し不快感あるけど諦めて。
何も着てないじゃ無防備だし目立ちすぎるから、ねーちゃんの外套に袖を通して立つ。
ぎりぎり地面にこすらない。
前を閉じれば見えない、いい丈の長さ。
これ以上は汚さなくて済むかな。
おねーちゃんどこだろう。
ところどころ穴の開いた粗末な木の扉を開けると、雨だった。
大きな粒がひっきりなしに地面に叩きつけられていて土がえぐれるような降りっぷり。
夢中だったから気付かなかった。
少し躊躇ってから、立ち止まっていてもしょうがないと雨の中を歩き出す。
うわぁ、すごいぬかるみ。
うーん。どうやって捜したらいいかな。
外套を羽織って頭巾も被ってるけど、素足で歩くから雨の冷たさが直接伝わってくる。
せっかくおねーちゃんに温めてもらったのにな。
しばらく歩いてみたところ、ニンゲンの集落みたいだけど人影がない。
人影どころか人の気配がない。
ん?気配?
……そっか。自分が無意識に魔力でニンゲンを探していることに気付いた。
生き物は多かれ少なかれ魔力を体内に帯びていて、ボクはそれが感知できるんだ。
ということは――。
少し弱まった雨のに打たれながら目を閉じ、外套に残ってるおねーちゃんの残り香に集中する。
手がかりがあれば追跡できるかも。
甘い香りにまた体がむずむずしてくるけれど、今は我慢。
体中に染み渡らせて、感覚を研ぎ済ます――。
いた!……気がする。
とにかく行ってみよう。
急ぎたくてもぬかるんだむき出しの地面に足を取られて、思うように進めない。
歩きにくいなぁと思っていると、ふっと体が浮いた。
無意識に魔力で体を浮かせたんだ。
そっか、そういうこともできたんだっけ。
どうも色々忘れてる……。
ボクはおねーちゃんの気配らしいものを感じる集落のはずれのほうへ飛んでいく。
歩きに比べてはやいはやい。ひゃっほー。
多少弱まってきたものの、降り続く雨の中をしばらく飛んでいると……幾人もの人影を見つけた。
そこは崖際だった。
全員がボクに背を向け崖のほうを見て不自然に立ちすくんでいる。
その先に――いた!
次回の投稿がいつになるか、まったく未定です。
またも戻って来た際にはよろしくお願いいたします……!!!!
とか何とかいって結果割とすぐ戻ってきたので大袈裟でしたね。