30話
「本格的ですね」
地図を横から覗いたVの率直な感想。騎士団や建築関係の人間、あと冒険者くらいしか使わない精密で詳細な地図だ。
「これ順番はどうなってるんです?」
「普通は最初に指定された場所から的を撃ってスタート。残りの的を好きな順番で狙って、最後にもう一回指定された場所から的を当てたらゴールって形だな。ただこれは5つめは中間地点として指定されてるから、1の的をまず撃って開始、2.3.4を好きなように狙って5つ目の的が中間地点の折返し、でまた3つの標的を回って最後に9つ目の的を指定の場所から狙う形かな」
「はい。5つ目の標的到達までのタイムが遅いと足切りが入るんです」
訓練ではそう言った物はないが、今回は大会。進行上の都合というものがある。
「そうなるとルートの設定も大切ですね」
「私たちは大会が用意した推奨ルートを選ぼうと思ってるんですが、どうでしょうか?」
後輩がいう「どうでしょうか?」という質問は一番困る。そもそもこの大会、何をどうするべきなのかもよく知らないのだ。
「具体的なルートは?」
「これです!」
それでも何かしらコメントをしておくのが義理だろう、という事で Vはそう答え、後輩は素早く別の用紙を出す。
先ほどの地図と同じような物だが、こちらはもう少し簡易化されたもの。替わりにいくつかルートが示されている。
学生の大会でなおかつ初回。なのでルート設定の仕方もわからない学校も多いだろうという大会運営側の考えで、大会側が設定した参考ルートを参加者に配っている。
大体のチームはこれをベースに、多少遠回りながら平坦なルートを選ぶなどしている。
しかしそれを見たVは
「これはやめた方がいいですよ」
と地図をみて答えた。
帝国において地図はだれでもアクセスできる公的な情報として位置づけられており、国営事業の一角に「地図の制作」も含まれている。
「防衛の観点から非公開、という国も多いなかでなぜこのような体制を取っているのか」
と役所で問えば帝国の栄光を云々、とよくわからない返答が聞けるか警備役の騎士団につかまれて追い出される。
その返答を解読する無駄な時間を省くために簡単に答えてしまえば
「公開したほうが利益が大きい、というかそうしないといろいろメンドクサイ」
という理由。
考えてみてほしい、帝国の広大な土地には諸民族はもとよりドラゴン、モンスター、吸血鬼にエルフ、ドワーフ、巨人etcといったモンスターすら共存している。
そうなると「ここからこっちは人間の村、その山はドラゴンが住んでいる。山を越えるには一晩かかる」という説明をするのも苦労するわけだ。
巨人が考える「山」と人間が考える「山」は違うし、吸血鬼の「一晩」と人間の「一晩」は意味が異なる。
そこで諸民族や上級モンスターとのトラブル回避の観点から、正確な地図やそれに伴う単位の制作は国策の一つとなっているのだ。
また測量がしっかりとしており地図が正確なら貴族の統治や帝政もしやすい、商人は各地を回って商売がしやすい、農民は農業がしやすいというメリットもある。
まぁ、どっちが主な目的かは今となってはどうでもいいことだ。




