劉がささやき
「勝てれば一千万円です。佳鳥メイド部長、将棋の経験は」
「将棋……?」
「ほら、先手は佳鳥だ。時間は無制限な」
いきなり、こんな展開……。何が何やら、錯乱してきた。「一千万円」……?
(勝つのは葉束くんなんだろうけど)
ともかく、私は記憶を辿り”最善”を見つけるために考えた。もちろん、経験はある程度しかない。どうしよう―――
☆将棋☆ ルール
駒である歩、桂、香、銀、金、角、飛、玉、8種を両者20枚、全てで40枚使い、9×九―――計81マスの陣地で駒を取り合いながら王を逃げれずにして且つ攻撃したほうが勝利する。
1・このゲームはターン制であり、一ターンに一回しか駒を動かせられない。
2・王に攻撃を仕掛けることを、王手という。王手をしたとき、必ずその攻撃を防ぐ何かしらの行動(逃げる、塞ぐなど)を取らなければならない。例えば、王手をされながら他の駒を動かし、王に攻撃が行き渡ったままだと負けが確定する。
3・相手からとった駒は、一部を除きどこにでも打てる。歩は自分の縦列に1つ存在するかぎり、新たに打てない。桂は、盤上の一二陣八九陣でない限り新たに打てる。歩、香も一陣九陣(進めないところ)には新たに打てない。
4・敵陣3マス以内は駒が覚醒、裏返ることができる。これを「成る」という。裏返った駒は金の動き以上になり、ほとんどが金である(歩は「と」、桂は「成桂」、香は「成香」、銀は「成銀」で4つとも金と同じ動きになる)。角と飛は成ると王の動きが追加され、8方向へ行けるようになる。
5・自分が動かした腕や手、服などで動かそうとした駒以外の駒が動いた時、即座に直さないと負けとなる。
6・負けが確定したことを詰みという。降参は駒台に手を置いてしばらく経つとなりたち、それを投了という。勝負が付いたあと、「あのときああすれば」などの感想戦を両者の同意によって行うことができる。
7・敵陣3マスに駒が入るとき&居ながら他に動くとき、裏返せる。
駒を駒台から使うときは、置く瞬間に成ることはできない。
以上が、将棋のルールである。駒の動かし方は、何となく察してほしい。
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私たちはひたすら、駒を動かした。一手目だけ、葉束くんは私に言葉を投げた。
「初手4二玉か。佳鳥らしいな」
「いきなり定石みたいなものを外してきましたね」
「……え?」
”私らしい”……?
1手目:4二玉(奇数の手番:佳鳥)
2手目:7六歩
3手目:3二玉
4手目:5五角
5手目:7二飛
6手目:7八飛
7手目:1四歩
8手目:5八金
9手目:5二金
10手目:3六歩
11手目:8二銀
12手目:8八銀
13手目:9四歩
14手目:9六歩
15手目:7四歩
16手目:7七銀
17手目:3四歩
18手目:2二角成
19手目:同銀
20手目:6六銀
21手目:7三銀
22手目:3七角(手番:葉束)
23手目:6四歩
24手目:7九金
25手目:6二飛
26手目:4九王
27手目:3三銀
28手目:1六歩
29手目:5四歩
30手目:7五歩
31手目:3一金
32手目:7四歩
33手目:8二銀
34手目:7五銀
35手目:9三銀
36手目:6四銀
37手目:同飛
38手目:同角
39手目:2五銀(打)
40手目:7一飛(打)
41手目:4二金
42手目:8一飛成
43手目:3六銀
44手目:2八銀
45手目:2二玉
46手目:3七歩(打)
47手目:3七銀不成
48手目:同銀
投了
負けた……。
正直、悔しかった。私だって本気だったし、何よりこれは将棋だし、負けると反射的にかなり、堪えた。
「アンチスのことが分かった。と思う」
「え……」
「どういうことですか」
葉束くんは、途中経過を説明する。
「俺は正直、序盤は危ないと思った。佳鳥が将棋をここまでやるとは、思ってなかった」
葉束くんは、勝負が終わった後の駒をバラバラにし並べ、局面の説明をしていた。
「3手目。佳鳥は、自分の世界をまず固めた。自分を動かしたんだ。これには、かなりの自由度と様々な隙が生まれた」
葉束くんが言うには、まず角道の先の歩をあけたり、飛先の歩をあけたりするのが先決だと言っていた。そして、その定石は時に形によって無力とも。
「俺は佳鳥はそこまで上級者じゃないと思ってたし、俺の詰め将棋一段の実力で、オリジナル三間飛車のあの方法で突破できると思っていた。だが、佳鳥はその先を読んだように三間飛車に先にしてきたし、銀や四間飛車のシフトで俺の角を防いできた。つまり初っ端から泥仕合化し、正攻法を使ってきた」
そこが素晴らしい、と柊さんから賞賛された。
「これまで葉束と将棋をしてきた人を何人も見てきましたが、あの三間飛車をあんな風に防いでくる人は初めて見ました」
二人が言うには、どうやら初めて自分達と将棋を打つ人には、三間飛車を必ず通すということだった。そこを、私が先に三間飛車にしたことによって、意表を突かれたと。
「アンチスだが、おそらく他に居る。誰かが」
「……え?」
「誰か、ですか?」
「ああ」
盤の金のありどころを説明される。
「佳鳥は序盤、金二枚で正しい囲い方をした。対する俺は、正直初心者狩りの方法。初め意表突かれたのが原因で、変な打ち方になった。俺は飛車の下に金を移動させ、飛車が動いても角を打てないよう囲ったが、正直勿体なかった。そこをスルーして攻撃したかったし、王も動かしたくなかったけど一応動かして、こっちも泥仕合をしようとも思った時、もう一つの金が佳鳥側の玉に寄った。つまり、そのもう他のアンチスの仲間は、は大きな運、なんらか、玉に従って、忠実になった。と思う」
「なぜ将棋から分かろうとするんです?」
柊さんは腕を組んでいた。
「どんなゲームでも動きが出て察せれるが、パケフルは戦生中、乱数によって技がランダムに表示されるからだ。技名から察してもいいが、佳鳥の場合どうなるか分からなかった。だから、まだ未経験そうで確実に分かる将棋を選んだ」
「なるべく僕が作ったゲーム、パケフルでしてくださいよー!!」
「すまん柊。だが、将棋は形に出て勘でいろんなことを察せれるし、パケフルとは全然気を使わなくていいからそうしたんだよ」
「……そうですか」
柊さんは少し残念そうだった。
「続けるが、佳鳥の運であるアンチス側は角を残しながら降参した。つまり、四方向への手段をまだ持ってるってことだ。油断するなよ佳鳥、柊」
私は、葉束くんがおこなっているこの行為のことの名を、なにか知っている気がした。確か、これは……。
(なんだっけ……)
思い出せないでいると、盤は片付けられ、駒もなくなった。二人はチョコチップクッキーを食べながら、私にも渡した。
「とりあえず集中したあとは栄養補給な。ありがとな、佳鳥」
「あ、うん……!」
チョコチップクッキーを食べると余計思い出せなく、今はいいと思った。
おなかがすいていたため、これは助かった。でも本当はオレンジでも食べたい気分だったけど、今はなかった。今度買わなきゃ。
「ま、強くなっときゃいくら改造でも対抗できるだろう。日々の材料集めや素材足し、箱の鍛錬を怠らないようにしないと」
「ですねー、僕も仕事があるため、子供の時ほど自動式の鍛え方じゃないとパケフルできないですが、アンチス達のことを考えるとそろそろ今の将棋みたいに一手、加えてもいいかもしれませんね」
(私も、パケフルしたい……!)
私達はゲーム機に向かい、パケフルをした。
あ、でも、もうお昼だしポテトサラダを作って鯖を焼かなきゃ。
昼は過ぎた。