微笑む月
4話
屋上の上の生徒
「おい、ついに学校だぜ」
「ああ、あの野郎どんなツラしてくるだろうな」
葉束に喧嘩をふっかけた二人組―――久矩津島と鹿原真御は勉強のストレスや日ごろの楽しみのなさで怒りに満ちていた。
「俺たちの学校は私服で恵まれてるけどよ。昔は全員生徒服とか信じられるかよ。でも強制勉強設計……こんな学校、俺やめようかなー」
「ああ、恵まれてるとは思うんだけど、何かが違うんだよな。なんか」
歩いていると。
「あれ葉束じゃね……?」
「マジで……?」
「私たちの学校は、ついに文化祭まで9日以内となった!! 明日のために今日はある!! 粉砕! 玉砕! パン祭りィ!!」
………………
「勘違いかよおい」
「んだよ脅かすなよタコが……」
――――――
「佳鳥良かったのかよ、ほんとにその服で……」
「えへへ……どうしてもノリに乗りたくて……」
『『「「!?」」』』
メイドと葉束。その光景を見た二人はかなり怪訝だった。
なぜ”彼女持ち”だと。それも、あんなに派手な。
「おい」
「これは審議しかねえな。あの葉束に、んな華があってたまるかよ」
殺意に満ちた、玉砕の前触れ……
◇
メイド服で朝早くの学校に着いた。私は、私服を持っていることから、私服にしようかメイド服にしようか迷い中だった。……感覚が、完全に麻痺してるのを通そうとしてるけど……
更衣室で鑑に向かい半下着になっていると、ちょっとした直感から派手に決めることにし。即座に私はメイド服に決めた。……いつも通りの、無口で。
あの二人組のことは気になるけど、私と葉束くんが付き合ってる……? ことは誰にも知られてはないし、保険として二人は私たちより遠くの席だし。仮に何か言われたとしても、私が意見すれば何とかなる……はず。
私も、前より強くなったんだ。どれだけ待ち構えていても、受け止めなきゃ。私は、メイド兼ゲーマー目指しとして生きるんだから。
ゲーム機。αCSも、ある。起動はしてない。ロッカーに入れ、鍵をかける。
ザッ
「え」
「あれって……」
「メイド!?」
きらびやかな歓声、三人の女子生徒が、私を気にかけていた。
「誰……」
「いまのって……」
「え、誰だろう……」
私は少し笑顔で、強気な面持ちで自分の席を目指す
クラスに葉束くんはいなかった。まだ、何か準備……? をしてるのかな。何をしてるかはわからないけど、待たないと。
先に、何となく屋上へと私は向かった。
◇
私がいない間に、三人が鉢合わせしていた。
「よお葉束。相変わらず不機嫌そうな顔だな」
「俺達見ちまったぜ~? 何だよあのメイドは」
「……」
三人、立ち尽くす。
先に、葉束から切り出す。
「あいつは俺には関係ない人だ。……クラスにメイドが来る予定もない。俺には遠い女だ」
「ほお」
「そいつはいいなぁ」
…………。
「用がないなら先に行く。もう話しかけてくるな」
「ふんっ」
「今日のテスト……一夜漬けとはいえきっちりしてきたからな。覚悟しとけよ」
………………
(テスト、か……)
内心、勝とうとも思ってはいなかった。点数では。……
葉束は、占い師やゲーマーを目指そうとこの機に及んで思っていた。
そのための、勉強や学校だと。二人の事も、もういいと。
この日、葉束は謎の体力失調で勉強を宿題すら一つもしていなかった。
―――
屋上に、着いた。
後ろには誰も居ない。
メイド服で、朝で、学校。
(なんだか、新しいな……)
安心感に浸っていると。
教科書とノートを持ったあの因縁の二人組が、屋上へと来た。
「……!? おい」
「なんか居るな」
(あ……!?)
まずい。何事かと思われる。一人で、何をしてるのかと。
こんな近距離で……それに
(この二人とは、そんなに接触はないんだけど、……?)
多分、あっちも驚いているはず―――!?
近寄ってくる。
「おいお前、今日の朝、葉束と一緒に居たろ」
「そうだぜ。こんな場所で遭遇すんのも何かの縁だぜ。どういうことか説明しろや」
………………まずい…………
「おい黙ってんじゃねえぞ」
「俺達が葉束にキレてんのはお前も関わってるかもしれねえからな」
う……ちょっと、気分が悪くなってきた。
「んだよ無反応かよ、そりゃ白けるぜ」
「そうだ。こいつの写真一枚撮ろうぜ。葉束に恥かかせるには材料が要るからな」
(ま、まずい……この感じは……)
脅迫だ。私は、言葉すら出せないなんて……
迫られたときこんなに間合いがないなんて、一つも考えてなかった
パシャパシャと写真をとられる。
「ひひっ、撮られてる姿、結構シビアだぜ」
「ああ、なんかビビってるようにも見えるな」
「…………」
うう……なんで、こんなに良い気分のときに、思い出の場所でこの二人は……
というより、私服の方がインパクトがなくて危なかった説もある。それとなく避けれたかは微妙だと思う……というか
(どうして、葉束くんと私が登校してたの、バレたんだろう……?)
偶然見られたから……? それが、私の持ち運だったというの。…………
「そろそろ戻ろうぜ」
「ああ。あばよ」
! そんな
キーンコーンカーン
もう、チャイムが……遅刻……
(助けて、葉束くん……)
葉束くんは、やってこなかった。
………………
酷い…………
私が、メイドなんかに浮かれてなければ、思い出の場所といって、寄せられていなければ。
(どうなるんだろう……? ……)
心配が心を惑わせた。
「困ってそうだね。君」
!?
誰……
「僕はこの屋上の掃除係。この屋上が好きで、そこの屋上部屋の部室の部員でもある。びびって、僕も手は出せなかったけど」
「……」
背は私より少し大きいぐらいで、ちょっと小柄で。
男子生徒は、名乗った。
「僕は流園零理ながれそのれいり。あの二人、初めて見たけど結構いかついね。写真まで撮ってさ―――て」
私がショックで放心状態なのを、見破られた。
「落ち着け。まずは心を取り戻すことからさ。まだ君は、絶望じゃない」
「……。はい」
ちょっと、元気が出てきた。
「……やれやれ。この部室の部員はあとちょっとでホームルームを通り越してくるから、早く行ってくれたまえ。幸いを祈る」
私は、言われたまま教室へ戻った。良い人だった……。
………………
心に突き刺さる鋭利な冷たさが、ほんの些細な一人の気遣いですこし溶け、不安は教室に向かうごとに、結局戻った。遅刻により。
◇
「佳鳥、遅刻……と」
教室へ少し遅れて来た先生が出席欄に丸付けをし終えた。
「今日の遅刻は……佳鳥だけだな。どこにいったんだ……?」
二人は、遅刻回避やメイドの正体によって笑いで悪魔と化していた。
『おい、マジかよ』
『あのメイド、よく見りゃ佳鳥だぜおい』
葉束は、占い師目指しとしての悪寒を感じていた。悪い予感しかないと。が……
(屋上かどっかで、なんかあったのか、……佳鳥)
察していた。大方、あの二人に目を付けられたんだと。
明らかな笑いで。
(……俺は学校を辞めるかも知れない)
あまり格好のつかない別れ方だな、と葉束は思った。正直、葉束は予感するのには慣れていて、悲しんでいた。
【なんとかするには、どうしたらいいんだ】
ガラッ
………………
教室のドアに現れた生徒。
佳鳥埜結。
「うぃ~! 遅刻してしかも鬼のプリントだなー! メイドちゃんよ」
「ひひっ、こりゃおったまげたあー!」
「…………」
北条ほうじょう先生は、私の姿を見るやすぐさま私に説いた。
「佳鳥。なんだその恰好は。ここは遊びに来る場所じゃないぞ。佳鳥らしくもない」
「……はい。……」
「……」
『ひひっ』
『度肝冷やされてやんの』
否、佳鳥は少し楽しんでいた。
佳鳥とは、そういう月のもと生まれた人間だった。
なんとかしなくても、一人で自分の心を耐え貫こうする。それが、佳鳥の本性。独りが辛かったのは、本当は遠回しな虐めがあったから。
変える。
私は、もっと
ささやかな
力を
優しさを
その対価に見合うだけの心、与えを
知ってほしかったから
第4話 微笑む月 終わり




