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レグルスの里

 アパートまで着いた。よし、鍵もある。

「ここだよ。待ってて」

 すぐ2階の3号室に行く。けど、ある違和感があった。

(? ……)

 声が、ない。音が聞こえない。いつもそれなりにあるはずだけど。

 鍵を開けた。つもりだった。

(!?)

 鍵が、掛かっている……?

 すぐ開け、中に入った。

(え……?)

 誰も、居ない……。

 本当に居ない……。

 いつもあるはずのゆったりな母さんの声。父さんの姿。ない……。

(どうして……?)

 私が二日ぐらい居なかったから……? それにしても、なんで……?

 あまりに静かなアパートに一人、立ち尽くしていた。

 異常事態のため、気を確かめなおす。

 まず、自分の部屋を見た。すべてそのままで、跡があるとするなら冷蔵庫だった。どうやら、電気と水道は通ってるみたいだ。

 どこに……。

 とにかく、葉束くんのいる外へ戻った。

「おう」

「あ、あの……」

「……? どうした」

「居ない……」

「居ない……て」

「部屋、入ってください」

 葉束くんは少し驚いていたけど、すぐ察したのか私に着いてきた。

 ドアを開け、ただ二人で呆然とする。

「居ない……、佳鳥の親がか。偶然じゃなくて、本当にか」

「うん……、鍵も開いてた」

「……マジか」

 私達は辺りを見渡し、少し狭い廊下の前にあるリビングを見ていた。食器がある。

「なあ佳鳥」

「え?」

「占ってみようぜ」

「え……?」

 葉束くんは、手頃な食器がないかと私にたずねた。

「色は多分真っ黒がいい。茶碗だ。木であるおわんもいるな。今ある物でなんとか予測するんだ」

 私は言われるままに、昔おじいちゃんかおばあちゃんが使っていた黒い茶碗と木のおわんを出した。

「うん、いい感じだな。どこを見ても置けば真っ黒だ。おわんはとっておこう。麻雀サイコロを三つ投げると良いと思う。確率は……」

 6×6=36。

 ゾロ目が出る確率。それが、三つ同じになる。36分の1。ところが。

 葉束くんは、いくらかサイコロをふり、確率の検証から入っていた。

「36分の1。と思うだろ? ×6で望んだゾロ目。けど、今分かった事があった」

 葉束くんが狙っているのは、赤い一の目だった。それを50回振って、一の目が2つ揃うのは体感で12分の1だと。

 つまり。

 ”体感”でいう12分の1に6をかける……と。

 72分の1。

 これで親が帰ってくるかどうかを、108回まで余分に振って1のゾロ目が出なければ、帰ってこないかもしれないという。

 そういう、ぶっつけな占いだった。

「元々運が無いと劇的な変化は訪れない。それすらも関係ないとして、体感ってのはかなり人的で役に立つんだよ。普段のゲームでも。ローリスクに216回振るんじゃあ、効き目もねえだろ」

 72回以内に1のゾロ目が出れば、早い程確定で戻る。108回までの余り36回間は、部分的に当たるかもしれない。大方75%と葉束くんは言った。

「じゃ、投げるぞ」

「ちょっと待って」

 葉束くんは手を止めた。

「確率をもう一回数えよう」

「いや、佳鳥の分がある」

「え?」

「全て俺頼みという訳でもないから、何回かはそもそも佳鳥が振る権利も使命もある。と、いうより個人的にこの占いは俺の分としてはかりたくもある」

 え……?

「興味本位でな。だってそうだろ? むしろ俺の興味が邪魔になるかもしれない。よく考えねえと」

 数字じゃ、ないんだと思った。

 葉束くんの言うことには何か、真理のようなものがあった。それは確かに確実に、尊厳すべきと。

 これまでの人生を投げ打つのが。

 それが、占いなんだ。

「一回目は私が投げる」

 うなずいた葉束くんはサイコロを私に託した。

 1投目。

・1:4:5

 ……? 1は一応、でた。

「1が出る確率自体は単純的に2分の1だ。それを1投目で引いたということは、少なくとも勝機ありかもだな」

 はじめが肝心なんだろう。

 10投までは私がする必要があると思い、投げた。

 1が出た回数。7回。

 10回消費し、残り62回。

 なんだか……。

(不安になってくる……)

 脳内が彷徨う感じがある。

「恐れるな」

 !

「これはあくまで占いだ。当たるも八卦、当たらないも八卦だ」

 彼の表情は険しかった。

「”当たらなかったら犯罪”……そう思ってるだろ」

 う……。

 鋭い……。

「楽しんでけ。ゲームみてえに」

 楽しむ。―――そうか。

 これは、占いというゲームだ。

 お気楽で、いいんだ。それこそが占いの醍醐味。

「確かに俺達は占いを本気中の本気で当てようとしてるがな。当たったら良いな」

「うん……。私、72回まで振る。喜んで」

 結局、1のゾロ目は出なかった。他のゾロ目も出なかった。

 それを見た葉束くんは、器にあるサイコロを手に取って言った。

「残りの回数は俺に振らせてくれ」

 85投目。

・3:3:3

 揃った……。

 3……?

「やっと出たか。1じゃないから、お目当てとはかなり違うはずだけど」

 3。といえば。

 何となく、「黄色」や「安定」を想像する。

「残りも投げるか」

 その後、1のゾロ目が出ることはなかった。

「……そうか。戻ってくることはないのか。しばらくは」

(しばらく……?)

「え……葉束くん、しばらくって……」

「この108回という方法は俺が編み出したやり方だから、そもそもが本流じゃない可能性がある。出たゾロ目が”3”だから、絶対に意味はあるはずだけど」

 理論的に言うと、75%で「3」という意味合い。

(どういうことだろう……?)

 よく考えると、85回で出たということは確率の節である72回目からのそれ以降、つまり葉束くんが引き当てた意味は13で3という節になる。

 その、13がなんの数字かも知る必要がある。

「俺はあんまりどういうことかわかんねえな。大体察してるんだけど」

「私は少し分かった……と思う」

「マジか」

「うん……」

 私は、さっき思っていた13の節のことを説明した。

「なるほど。13は俺が振った回数であり、屈強な意味合いを持つのか」

「屈強……?」

「なんというか、きつい考えを俺はゲームには持ってるから。で、3てことは占い界ではどんな意味なんだろ」

「安定、と思う……」

 その言葉に対し、葉束くんは。

「佳鳥の親ってシャイな中でもその度合いが高いんだな」

 いきなりずばり言い当てられ、何となく気恥ずかしさでなにかの衝動に駆られた。

(なんでシャイて、……?)

「ともかく、俺のやり方ではなにかが足りな……」

 私は反射的に、一投投げた。

 ……!?


 そこで出た出目。

・1:1:1

 うそ……なんで……。

「佳鳥……?」

 葉束くんは、不可思議にしていた。

 反省を、していた。

「やっぱ俺のやり方、方法は間違ってたんだって。俺の方法を用意すること。それが、不正解だったんじゃ―――」

「違う!」

「!」

 言われた彼は、怯えているように見えた。少し。

「葉束くんは私にいくつも素敵なものをくれた。過去にあなたが居てくれなかったら、私は終わっていた。……”私は一投目で1ゾロを出した”ということ。確かに平凡な学校生活は退屈してた。けど、今の占いは本当に覚真に迫るみたいで―――」

 黙っていると、葉束くんは諭したように、言ってくれた。

「人が変わったようだな……。それはお前の持ってる力の確かであり、俺はその力に、気付いていただけだ。今ので確信に変わった。俺は、こんなすごい奴と会えたことが、良かった」

 …………。

 泣いていた。私が。

「昔の佳鳥はドジで見てられなかったけどな。俺もあんま人の事言えねえけど。俺たちは通ずるところが、あったんだ」

 ……そう。……。

「前を向け佳鳥。俺たちはもっと強くならねえといけねえんだ」

 私はたまらなくなって、彼に言う。今まで生きてこれたのは、絶対……。

「私は葉束くんが居てくれてよかった。心の底から、強い人とは結ばれたかった」

 ……葉束くんは黙っている。

「付き合ってください」

 ……? 何か、違和感が……。

「……すまない、考えさせてくれ」

 え……。

 ふ、……。

 フラれた!?

 顔面蒼白になる。

「いや、……。ちょっと待て。なぜか胸に穴が開いて」

「え、……」

「いや、……」

 お互い蒼白になる。

「や。違うんだよ」

「……」

「佳鳥は悪くないんだよ」

 へ……。

「でも、……なぜか佳鳥が……。俺は、分からないんだ」

 え。え……。

「だから考えさせてくれといった。俺は……」

 彼は頭を抱えていた。

「……いってえな……。何がどうなってるっていうんだ」

 私は、状況を理解しようと思った。葉束くんの頭痛。なにが……。

 サイコロを振っても、わからなかった。

「すまない……。俺は、自分より凄い奴に会うと……こうなるのかもしれない」

 へ……。

「え…………。そんなことないよ。私は葉束くんが好きなだけなの、なんで……」

「…………」

 私は、明らか違うと分かっていて、理不尽な不満を彼に押し付けた。

「昔から好きだったの、一目惚れだったの、なんで、どうして、私じゃダメなの、どうして……」

 葉束くんは、サイコロを何故か振った。

「いや、……サイコロでも分からなかった。これは、多分―――」

 心霊現象。

 とも違う。体に異変が起こるということは、心霊現象に何かが重なっているんだ。……根拠は、ないけど。

「俺と佳鳥は、結ばれないのかもしれない」

「………………」

 最悪、だった。

 結ばれないと考えるだけで、放心状態になった。

「何がいけなかったの」

 その時。

 ガチャッ。

「埜結、本当にどこいったの……?」

「もう戻らないのかもしれな……、ん」

 親が、帰ってきた。

埜結やゆい!! どこ行ってたの!! それに、どうして友達と……」

「待て。そうか。友達なのか、詳しく聞いた方がいい。きっと今まで友達が居なかった埜結の友達? が、何かしてたんだ」

 ……本当に帰ってきた……。それも、想像よりも早く……。

 ……今は、そんなことより……。

 ダメだ、状況が絶対に悪い方に転ぶ。

 私は無理やりにでも、親への弁解をした。

「あ、……その……この人は、私の憧れで、屋敷でメイドにもしてくれて……」

 …………………………。

 何言ってるの私!?!?

 母さんは、不審そうに私を見ていた。

「え……、埜結……、つまり、その人は、埜結の彼氏ってこと……?」

 錯乱に歓喜、混乱、滅茶苦茶になって、冷静に対応するために頭がおかしくなりながらも説明していた。

「いや、あの……」

「それは良かったじゃないか埜結!」

 親の声は少し震えていた。

 葉束くんが、まずそうにしていた。

(……まあ、いいか……)

 内心、葉束は謎の頭痛にある確信を持っていた。その確信が、のちに落とし穴になることも知らず。

「名前は? 埜結に彼氏だなんて、すごいじゃない! この家…………ここには何も無いけど、埜結は良い子だから、大切にしてね」

 いきなりの頭痛、唐突の彼氏彼女成立、占いの的中、一言も交わさない葉束と親。そもそもが、ここに居る4人にとって新鮮かも分からない状況だった。

 というより、この空間は違和感だらけにして、四人は通常的に過ごしていた。

 日常を、楽しんでいた。

「俺は……、葉束はづか。一ノ宮葉束という、プロゲーマーです。佳鳥をメイドにしたのは、俺じゃな―――」

「こんなかっこいい人彼氏にするなんて、埜結を見込んでただけあるわ! やっぱり私の娘は強いのね!!」

「あ、あの……」

「プロゲー……マー…………。すごい……いや、わからんが……どうやら、埜結にもバイト先が見つかったんだな」

 なんでわかったの……。

 あ、私がメイド服だから……かな。

(緊張……というか、……)

 錯乱。どう考えてもすごい状況。


(辛い……)


 頭がおかしくなって、私は倒れた。いきなり。

「埜結!?」

「どうした!?」

「佳鳥……?」

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