義兄弟の誓い
友情を確かめ合っていた二人だったが、突然ゴー・ブーリンが胸を押さえてうずくまった。
「うッ……ぐうぅ……ッ!」
「どうしたブーリ――――うぐッ!!」
続いてゴブルィンも地面に伏す。
二匹とも息が荒い。尋常じゃなさそうだ。
日本なら確実に119を押されているだろう。
『お、おい! 大丈夫か!』
「うっ――――ぐああああああッ!」
「うおおおおおッッ!!」
メキメキと身体が軋んでいる。
時折、ゴキンッ、と骨がどうにかなっている音さえなっている。
そして、
「「うっ……ふぅ」」
二匹そろってスッキリした顔になった。
どうしたんでしょうか……?
○精したんじゃないだろうな。
心なしか、さっきより身体が大きくなっているような。
診断もかねて【看破】してみる。
種族:ハイゴブリン
名前:ゴー・ブーリン
年齢:5
レベル:22
HP:1000/1000 MP:1000/1000
筋力:120
耐久:112
敏捷:98
魔力:76
魔防:48
《スキル》
剣術【G】 槍術【G】
啓示【B】
《称号》
預言者
――――――
種族:ハイゴブリン
名前:ゴブルィン
年齢:6
レベル:21
HP:950/950 MP:950/950
筋力:78
耐久:64
敏捷:91
魔力:130
魔防:101
《スキル》
弓術【G】 剣術【G】
《称号》
なし
進化してる……!
種族がゴブリン→ハイゴブリンになっている。
レベルもステータスもかなりの上昇率だ。
ワイバーンを倒した経験値が二匹にも入ったんだろうか。
そう考えるとこの結果も納得だ。
「こ、この身体は……!」
「ルィン、我らはゴブリンの壁を突破できたらしい! なんと喜ばしい!」
グギャグギャと歓喜する二匹。
微笑ましいね。
そんなこんなで、彼らは俺を持ってルンルン気分で村に帰ったのだった。
* * *
縄文人の集落――というのが率直な感想だった。
原始的ではあるが、確かな文化を持っている。ゴブリンの村はそんな感じだった。
「ワイバーンを倒したとあらば、みな喜ぶのである」
「然り。さすれば我々はさながら『竜殺し』か?」
ゴー・ブーリンが冗談めかして言う。
一方のゴブルィンは相槌を打つように「ふっ」と笑う。
コイツら、擬人化したらホントにイケメンになりそうだよな。
「あっ! 戦士たちが帰ってきたぞ!」
「ルィン様ー! きゃーっ!」
「ああ……ブーリン様……麗しい……」
何匹かのゴブリンがゴー・ブーリンとゴブルィンを出迎える。
人気だなぁ、二匹とも。
出迎えゴブリンの中から適当に何匹か【看破】してみる。
種族:ゴブリン
名前:ゴブリナンド
年齢:7
レベル:3
HP:50/50 MP:50/50
筋力:24
耐久:40
敏捷:19
魔力:29
魔防:15
《スキル》
なし
《称号》
なし
――――――――
種族:ゴブリン
名前:グブリン
年齢:3
レベル:2
HP:25/25 MP:30/30
筋力:13
耐久:20
敏捷:11
魔力:21
魔防:9
《スキル》
なし
《称号》
なし
――――――――――
種族:ゴブリン
名前:リンゴッブ
年齢:9
レベル:3
HP:55/55 MP:60/60
筋力:30
耐久:11
敏捷:41
魔力:32
魔防:37
《スキル》
なし
《称号》
なし
どれもゴブルィンとゴー・ブーリンが進化する前のステータスよりも低い。やっぱりこのイケメンゴブリン二匹は精鋭だったみたいだ。
たくさんのゴブリンが二匹に群がる。
みんな嬉しそうだ。みんな笑顔である。まあゴブリンの笑顔ってちょっと怖いけど。
『おや……?』
そんな傍らで一匹だけ輪に参加していないゴブリンがいた。
腕を組み、壁に寄りかかっている。
種族:ゴブリン
名前:シリウス
年齢:4
レベル:5
HP:80/80 MP:80/80
筋力:53
耐久:42
敏捷:33
魔力:56
魔防:20
《スキル》
剣術【G】
《称号》
なし
なんでお前だけ名前カッコいいんだよ!
他のゴブリンたちの名前って“ゴブリン”をちょっともじっただけのお手軽なヤツだったのに……。
そのシリウスというゴブリンは二匹を一瞥すると、自分の家と思われる小さな小屋の中に消えていった。
その後、ワイバーンを打倒しハイゴブリンとなった彼らは村の英雄として称えられた。もっとも二匹とも「私はそんな器ではない」とか「小生には過ぎた評価である」とか言ってたけどな。
そして俺には新たな住居として小さな祠が作られた。
ゴー・ブーリンから村の皆にも俺のことは説明され、俺はゴブリンたちの守り神になったってわけだ。
一応、俺が神じゃないって事はゴー・ブーリンに言ったんだが、「はは、お戯れを」とか言われて相手にされなかった。
このゴブリンの村。
今は小さな集落だがここがまさか巨大な王国になっていくなんて、他称・神である俺には想像もついていなかったのである。
………………
…………
……
時は流れ――
ゴブリン村に来て一年がたった。
この一年でいろいろと分かったことがある。
まずブーリンだけが俺の声を聴ける理由。
これはブーリンの持つ【啓示】というスキルの効果だ。
【啓示】:Bランクスキル。神格を持つ存在と意思の疎通が可能となる。
そしてもう一つわかったのは俺のスキルの追加方法だ。
俺はスキルの対象にされることでスキルを覚えることができるようだ。攻撃魔法なら攻撃の対象になることで、バフ系ならバフをかけられることで習得できる。
さて、そんな俺は今何をしているかというと、
『ブーリン、今日はこのくらいでいいんじゃないか?』
「そうですね」
俺はルィンとブーリンと共に狩りに出ていた。
俺もこの村にだいぶ馴染んだ。
ブーリンが親指を立てて、クイクイ、とルィンに手で合図を送る。
引き上げる時に送るハンドサイン。この一年ですっかり見慣れた光景だ。
ふぅ、と一息つきながらルィンがこちらに向かって歩いてくる。
そんな時だった。
「うわあぁあああぁあっっ!?」
――ゴブリンの声だ。
「ルィン……ッ!」
「であるッ!」
二匹は一斉に悲鳴のした方向に駆け出す。
縫うように木々を抜け、颯爽と現場に向かった。
「狩りは我々戦士が役目……なぜ他の同胞がこの危険な森に……?」
「考えるのは後である!」
軽やかに岩を飛び越え、倒木を躱していく。
「むっ、あれは!?」
俺たちの目に巨大な熊の姿が映る。
そしてその熊の前で尻もちをつく一匹のゴブリン。
あのゴブリンには見覚えがある。
「シリウスッ!?」
「なぜこのような場所にいるのであるかっ!」
――ザザッ。
二匹が熊とシリウスの間に入り、熊と相対する。
「ル、ルィンさん、ブーリンさん……!」
「立つのだ。そしてゆっくり下がれ」
ブーリンが背中のシリウスに命じる。
皆、額に汗している。
本来、熊はゴブリンが相手できるような相手ではない。
「俺、俺……ッ!」
シリウスはガチガチと歯を鳴らし、目には涙がたまっている。
種族:フォレストベア
名前:マイケル
年齢:16
レベル:21
HP:2200/2200 MP:100/100
筋力:330
耐久:289
敏捷:301
魔力:56
魔防:78
《スキル》
スラッシュ【G】
《称号》
なし
ガチガチの物理特化だな。
ま、なんでもいいよ。
『【サイレントバイト】』
「グオァッ!?」
《フォレストベアに勝利しました》
気分的にもう帰宅モードに入っていた俺はこんな熊に付き合ってやる気はない。
熊には早々に弾けてもらった。
「おおっ! さすがヤマダ様!」
『いいってことよ。それより、シリウスを見てやった方がいいんじゃないか?』
「む、そうですね」
未だ身体を震わすシリウスに二匹が肩を貸す。
「シリウス、なぜここにお主がおるのだ」
「す、すみません……。自分の力を……試したくて……」
消えるような声でシリウスはつぶやく。
「無謀である!」
「まあ待てルィン。……シリウス、お前が戦士になりたがっているのは知っていた」
ブーリンが静かに語る。
確かにシリウスはゴブリンの中じゃ強い方だ。
ルィンやブーリンを除けば一番強いといっても過言ではない。
だからこそ、自分がゴブリンの戦士を任されないことに不満があったのかもしれない。
まぁ強いって言ってもあくまで『ゴブリンの中では』だからね。
ルィンとブーリンのように他の魔物と渡り合う力はまだない。
しかしブーリンの口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
「シリウス、明日から我らとともに狩りをせぬか?」
「えっ?」
「ブーリン! 何を言うのである!」
ルィンを手で制し、ブーリンは言葉を続ける。
「お前が望むならば、私は手を貸そう」
「ブーリンさん……ッ!」
感極まったように目頭を押さえるシリウス。
それを見てルィンも反対する気をなくしたようで、「であるか……」と小さく漏らすだけだった。
* * *
その夜。
熊を倒したことでシリウスはハイゴブリンに進化した。
そして三匹はゴブルィンの家に集まり、樹液を飲み交わしていた。
「シリウス、戦士の道は険しいものである」
「はいッ!」
「ふふ、頑張れよ」
同じハイゴブリンだけど、シリウスだけ幼さが残ってるな。歳はあんまり違わないはずだけど。
「そうだ、小生ら三匹で兄弟の契りをするのである」
ゴブルィンは突然そんなことを言いだした。
他の二匹も樹液の入った木のコップを片手にそれに賛同する。
「我ら三匹、生まれし時、場所は違えど願わくば同じ日、同じ場所で死なん」
三匹はコツンとコップをぶつけあう。
これがのちにゴブリン三勇士と呼ばれる三匹の伝説の始まりだった。




