恋する(?)サムライガール
俺とアテナの入れ替わりはすぐに戻ってしまった。というか、【憑依】を解除されたら強制的に戻された。
そのあと、検証としてもう一度【降臨】中に【憑依】してみたがやはり入れ替わった。いまいち仕組みはわからないが、入れ替わりの原因はこのスキルの同時使用らしいことがわかった。
そして残念ながらもう入れ替わりはしてくれなくなった。
……まあ俺が勝手にアテナの身体で遊びに行ったせいだが。
――ヤマダ様はすぐ暴走するんですからじっとしててください! めっ!
……的なことを言われた。
そりゃあ謝ったさ。
捨てられたくないからね。
しかしそんなことがあったのはもう数日前のこと。
いまはそれよりもホットなニュースがあるのだ。
今聞いても信じがたいことだ。
本当に疑わしいことなのだが……
――――タマに好きな人ができたかもしれない。
* * *
タマの部屋に行く途中。
アテナとルミナスは雑談をしながら廊下を歩いていた。
「タマの様子がおかしい?」
「そうなんだ。昨日、ボクが工房に遊びに行った時もずっとお茶を淹れる練習ばかりしているんだ」
――タマに好きな人ができた。
その情報のタレこみはルミナスからのものだった。
「いつも刀を研ぐか鍛えるかしかしてないアイツがだ」
「確かにタマらしくないね……」
「しかも『お茶を出すからには一緒に菓子も出すべきだろうか?』って聞かれてね」
「お菓子?」
「クッキーを焼いたりタルトを作ったりしてるんだよ」
「そんな……!?」
お菓子作りをしてここまで驚かれるのもかわいそうな気もするが……。
だが以前のタマからすれば考えられない行動だ。やはり本当に好きな人ができて、手作りスイーツを送ろうとしているのかもしれない。
しかしそうなると相手はだれだ?
「タマがお菓子をあげたい人……フェイル君とかかな?」
フェイルとはヴィクタスの家名だ。
確かにヴィクタスはあり得る。
イケメンであるのは事実だ。
だがタマはヴィクタスのことを異性として見ているカンジはなかったんだがなぁ。急に心変わりしたんだろうか。
「いや、ヴィクタスじゃないと思う」
ルミナスがヴィクタス説をきっぱりと否定する。
「ボクはギリアム先生あたりじゃないかと思うね」
「ギリアム先生?」
意外な人物の名にアテナは目をぱちぱちとさせる。
ギリアム……確か前衛科の先生だ。
剣の腕は確かだが、いつも気だるげでやる気がない先生だ。まだ若いのにすごくくたびれた人だと思った印象がある。
「ギリアム先生は意外と女子人気も高い。あのダウナーさが良いらしい」
「そうなの?」
俺の中でギリアムの評価が大きく下がった。
「ああ。それに剣士だからタマとも相性がよさそうだ」
「あ~……なるほど」
なんてこった……。
なんだろう、この喪失感は。
……だが。
タマが本気なのだとしたら……
俺は涙を飲み、笑顔で送り出そう。
それが友人としてできることなのだから。
そうこうしているうちにタマの工房に着いた。
ルミナスがドアを開けると、
「……む、来たか」
タマは黄色のエプロンに三角巾をしていた。
似合わねえ……。
申し訳ないが家庭科の授業中の中学生にしか見えない。
「さっそくだが、コレの味見をしてほしい」
そういってタマはお皿を持ってくる。
その上には黒っぽいものが乗っていた。
あれはなんだろうか。
「チョコレート?」
「いや、チーズスフレだ」
「へぇ~、おいしそう!」
待て。
俺の知っているチーズスフレはあんなに黒くない。
怪しい、怪しいぞ。
タマは料理ベタキャラである可能性が非常に高い。
見るからにスフレではないそれをアテナはひょいと口に放り込む。
――ガリッッ、ゴキィッッ!!!
「ん~、もしかしたら砂糖が足りないかも」
「そうか、参考になる」
い、いやいやいや!
おかしいおかしい!!
今めちゃくちゃ変な音したぞ! まるで牛の骨をかみ砕くような音だったぞ! 何で出来てたんだあの自称チーズスフレは!?
それを難なく食うアテナもアテナだ。
そのうち石炭とか食わないか心配だ。
アレをルミナスにも食わせる気なのか……。
気の毒に。
と、思ってルミナスを見ると、
「~~~~ッッ!?!?」
めちゃくちゃ震えていた。
肩を抱き、まるで生贄にされる村娘のような顔をしている。
「ご、ごめん。その、ボクはチーズが苦手なんだ……」
「そうか。それは仕方ない」
ルミナスはなんとか回避成功する。
だがタマとて一段構えではなかった。
「ならばこのシュトーレンを食べてみてほしい」
トウドウが新たに持ってきた別の皿には黒い何かが乗っている。
いやそれチーズスフレじゃねえか!
さっきアテナが食べたのと同じ見た目だぞ!
ああいや、チーズスフレでもないんだけど。
謎の黒い物体なだけなんだけども。
逃げ場を失ったルミナスはおそるおそるそのブラックなマテリアルを手に取る。そして意を決して口に放り込む。
「あれ? 意外とおいし――――ん゛ッ」
ビクンッ、とルミナスが震えた。
かと思うと、フラフラと身体の力が抜けていった。
そして倒れ込むように椅子に座ると、それっきり動かなくなった。
「……ルミナスはどうしたのだ?」
「たぶん、疲れてたんだよ」
二人がルミナスを不思議そうに眺める。
けど、不思議なのはルミナスじゃなくてお前らだからな?
ルミナス、かわいそうに……。
あとで頭を撫でてやろう。
「と、ところで聞きたいことがあるんだけど……!」
少し頬を赤く染め、アテナが口を開く。
その前に真っ青なルミナスをどうにかしてやってほしい。
「タマはその……ギリアム先生が好きなの!?」
「……はあ?」
タマは本気で驚いていた。
図星をつかれた、という顔ではない。何言ってんだ?って顔だ。
しかし……ということはタマの好きな人はギリアム先生じゃなさそうだ。ちょっと安心した。
「まったくもってギリアム先生のことは意識していない。なぜそんなことを?」
「最近タマがお菓子作りをするようになったから、好きな人に送るつもりなのかなと思って……」
「いや、私に恋慕する相手はいないのだが……」
……!
これは朗報だ!
「じゃあなんでお菓子を?」
「これは……恩のある相手に礼をしたくてな。私を助けてくれた誇り高い騎士だ」
「へぇ~」
「いつかその騎士に世界一美味い茶と菓子を馳走したいのだ」
「そうなんだ。喜んでくれるといいね!」
「うむ」
どこぞの騎士さん……お気の毒に。
あの謎の黒い物体を食わされる運命が決まってしまうとは。どこの誰なのかわからないが同情してしまう。
ともあれ、こうしてタマに好きな人ができた疑惑は解決されたのだった。
* * *
その帰り道。
アテナと俺は自分の部屋に向かって歩いていた。
すると向かい側から一人の男が歩いてきた。
ヴィクタスだ。
「あ……へ、ヘカテイア!」
「……? はい、なんでしょう?」
なぜかヴィクタスがそわそわしている。
しかも顔が赤い。いったいどうした?
「今日はお淑やかな口調なんだな……。だが、その、俺の前では……素のままでいてくれていいんだぞ?」
「えっと……? 私はいつもこんな感じですが……」
「隠さなくてもいい。本当のお前はもっと男っぽい口調だっただろ。女らしくないという者もいるだろうが、俺はそんなことで軽蔑したりはしない」
「???」
アテナがすごい混乱してる。
これは……うん、俺のせいだな。
「いや、それは今はいいんだ。それより渡したいものがあってな」
そう言ってヴィクタスはきれいにラッピングされたプレゼントらしきものをアテナに渡す。
「……ありがとうございます?」
「その、用件はこれだけだ。……じゃあ、な」
それだけ告げるとヴィクタスは走って去っていった。
突然のことに呆気にとられるアテナ。
「なんだったんでしょうか……?」
『さあな……』
困惑しつつもアテナはプレゼントを開けてみた。
「えっ……」
『うわ……』
中には白いビキニが入っていた。
正直ドン引きである。
いきなり仲いいわけでもない女の子にビキニ送るとか、何を血迷ったんだヴィクタス。
さすがにイケメンでもこれは無理だろ。
そんな奇妙なこともありつつ……
まあなんというか。
かなり刺激的な一日だった。
こんな扱いをしていますが、ヴィクタス君のことは結構気に入っています。




