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ゴブとの遭遇

「グギ、ギャギャ?」


 ゴブリンの一匹が俺を拾いあげた。

 不思議そうな顔で俺を眺めている。


『よう。ただの石(おれ)なんか見てどうしたよ』

「ギャッ!?」


 俺を持っていたゴブリン、名前でいうとゴー・ブーリン?が驚いて俺を落とす。どうしたんだ?


『いきなり落とさないでくれよ。割れたらどうする』

「ギャー! ギャー!」


 ゴー・ブーリンが俺の周りを小躍りしながら回り始めた。その様子をもう一匹のゴブリン、『ゴブルィン』という名前の奴が変な目で見ている。


『おーい……?』

「ギギッ!」


 踊っていたゴー・ブーリンが急にグイッと首をこっちに向ける。と思ったら、土下座を始めた。

 ゴブリンがただの石に土下座し始めたのだ。


「ギュアアッ」


 さすがにその奇行を見るに見かねたのか、ゴブルィンがゴー・ブーリンの肩をたたく。そして静かに首を横に振った。

 

 なんだか、あのゴブルィンの方が理知的な雰囲気がある。

 

 しかしゴー・ブーリンは邪魔しないでくれとばかりにゴブルィンに何か言い始めた。さらにそれにゴブルィンが反論っぽいことを言う。

 

 とうとう二匹は言い争いを始めてしまった。


 互いに暴力は振るわないものの、熱くなっているみたいだ。


『なぁ、喧嘩してるとこ悪いけど、どっちか俺を持って行ってくれないか?』

「グ? グゲゲ!(承知いたしました!)」

『え?』


 ゴー・ブーリンがこっちを向いて敬礼した。

 いや、え?

 俺の言葉が聞こえたのか? 今までそんなことは一度もなかった。

 さらには俺もゴー・ブーリンの言っている内容がわかった。不思議だ。


《ゴー・ブーリンを預言者に登録しました》

《ゴブリン語を習得しました》


 そんなメッセージが流れた途端、ゴブリンたちの会話がまるで日本語のように聞こえてきた。


「いったいどうしたのであるか。ブーリン、小生にはお前の言うことが理解いたせぬ。見たところ、あまり質の良くない魔石のようであるが……」

「ルィン! なぜ分からんのだ! この御石(みせき)はご神体だ。御神が宿っておられるのだ!」

「しかしであるな……」


 言葉がわかると、彼らは思いのほか理性的であることがわかった。っていうか、普通に頭よさそう。


 ゴブルィンがやれやれと肩をすくめる。


「ふぅ、小生の負けである。魔石ならばあって困ることもないであろう。好きにするが良いのである」

「そ、そうか……!」


 ゴー・ブーリンはそっと俺を持ち上げる。それはもう、高級な陶器でも扱うかのように。


『お前は俺の声が聞こえているんだよな?』

「はい。この耳が御言を確かに受け取っております」

『聞こえてるのはお前だけか? そっちのゴブルィンには聞こえていないのか?』


 ゴー・ブーリンは顎に手を当てる。「ふむ」と小さく呟き、思案顔を作っている。

 しばしの間をあけたのち、ゴー・ブーリンはゴブルィンに問うた。


「ルィン、貴公は(まこと)に御神の言をお聞きできておらんのか?」

「であるな」


 ゴブルィンは怪訝そうに眉をひそめる。

 まだゴー・ブーリンの言うことが信じられないのだろう。まぁ普通は石に意思があるとは思わないよな。


「申し訳ありません。ルィンにはお言葉が届いていないようで……」

『いやまあ、お前が聞こえてるだけでも助かったよ』

「ありがたきお言葉。……して、恐縮でありますが御神のご尊名をうかがってもよろしいでしょうか?」


 いちいち仰々しいな。

 俺は別に神ではないんだがな。

 (あが)められるのは悪い気はしないが、騙してるみたいでちょっと罪悪感がある。


 まぁそれは後で説明するとして、名前ね。

 かっこいい偽名を名乗りたいところだがこれ以上騙すようなことをするのは心が痛む。


『山田だよ』

「ヤマダ様、ですか? このゴー・ブーリン、そのご尊名確かに心に刻みました!」

「ブーリン、その一人芝居もそろそろ終わりにするのである。もう村に帰る時間である」


 横に目をやると、ゴブルィンが太陽に手をかざしている。

 日の傾きから時刻を推測しているようだ。ホント、頭いいな。人間並みだ。


「これは芝居などではッ……! ……いや、しかしそうだな。村の者も腹を空かせていよう」


 ゴー・ブーリンは俺を手に包み、俺に「しばしご辛抱を」とつぶやくとゴブルィンと共に歩き出した。

 

 ゴブルィンはさっき倒した鳥を引きずりながら歩く。あれがゴブリンたちの今日のご飯になるのかな。


「しかしブーリン、今日はやけに森の魔物たちが静かであるな」

「そうだな……。どうにも嫌な予感がする。気を引き締めた方が良いだろう」


 二匹ともキリッとゴブリンとは思えない凛々しさを見せる。

 妙にカッコいいんだよな、このゴブリンたち。俺の中のゴブリンに対する認識がひっくりかえった。


 しかしそんなフラグみたいな事言って大丈夫か?

 絶対なんか起こるじゃんね。


 俺の心配をよそに、二匹は森の中をザッ、ザッと踏み鳴らし歩いていく。

 ゴブルィンが前方、ゴーブーリンが後方を警戒しながら進む。


「ギャァァアオオオァァオォォッッ!!」

「ッ!?」

「ルィン! 上だ!」


 その声につられ、俺も空を見上げる。


――ドラゴンだ!


 全長5メートルくらいだろうか。

 黒い小型のドラゴンがバサバサと翼をはためかせ、ホバリングしている。


『【看破】!』


種族:ワイバーン

名前:グレッグ

年齢:16

レベル:13

HP:700/700 MP:500/500


筋力:121

耐久:95

敏捷:150

魔力:131

魔防:92


《スキル》

飛行【G】 ウィンドカッター【F】


《称号》

なし



 雑魚じゃん。

 ジェイコブの足元にも及ばない。ビックリして損したわ。


 しかしゴブリンたちは慌てに慌てた。

 ステータス的にはゴブリンの倍以上だし当然か。


「くそっ……! ワイバーンとは運がないな……。ルィン!」

「承知しているのである! 機を見て身を隠すしかないのであるっ!!」

『まあ待て』


 ゴブリンたちと温度差を感じながら、俺はゴー・ブーリンに語り掛ける。


『俺をワイバーンの方にかざすんだ』

「は?」

『いいからいいから』


 腑に落ちない顔をしながらも、ゴー・ブーリンは素直に言うことを聞いた。

 すっ、とワイバーンに向けられた俺。


「ギャゥォッ!!」


 鋭利な爪を立て、急降下するワイバーンは、


『【サイレントバイト】』


 バシュン、と爪と一部の鱗を残して砕け散った。

 これでも相当加減した。


 そっと醤油を一滴だけ垂らすような気持ちで【サイレントバイト】を撃ったのだ。普通に撃つとオーバーだからね。


 落下した爪が地面に当たり、カランカランと乾いた音が鳴る。


「なんと……!」

「ま、まさか……である……ッ!」


 ゴブリンたちは目を見開いている。

 ふふ、驚いてる驚いてる。

 ただの小石にかかればこの程度、造作もないのだよ。


 と、なぜかゴー・ブーリンが俺を地面に置いた。

 そして、


――ズザザッ!


 二匹そろって俺に向かって土下座した。


「神の御業をこのような矮小なる身を救うためにお使いくださりっ、なんとお礼申し上げればよいか……っ!!」

「ブーリンに並び、お礼申し上げるのであるっ!!」

『大げさな……別にいいから俺も村に連れてってくれよ』


 ゴー・ブーリンは「はっ!」と言うと起き上がる。

 一方、ゴブルィンの方は俺の声が聞こえないのでキョトンとしている。


「神はなんといったのであるか?」

「我らの村へお越しいただけるようだ」

「そうであるか」


 ごほん、とゴブルィンは咳払いをする。

 そして気恥ずかしそうにポリポリと頬を掻く。


「あー、ブーリン? 先のワイバーンを一振りで屠る御業、確かに神にしかなせぬ事である。確かにその魔石はご神体であるようだ。ブーリンの言を妄言であるかのように申したこと、深く詫びるのである」


 ゴブルィンは頭を下げる。

 潔い、さもすれば美しいとさえいえる謝罪だ。


 さっきの俺の【サイレントバイト】をみて、俺の存在を認める気になったらしい。

 これには当のゴー・ブーリンもほほ笑んだ。


「頭を上げるのだ。私は腹などたてておらん。ルィン、我らは同士だ。そうだろう?」

「ブーリン……!」


 なんかなぁ。

 戦国時代の武将でも眺めているかのようだ。

 

 二匹は固く手を握り合った。


 いいけど早く村に連れてってね。

突然ですが残念なお知らせです。

わたくし、銀野は――――奴隷に堕ちてしまいました。




ただ今春休み。

ということで久々に親に顔を見せたほうがいいだろうと帰省する旨を伝えたところ、


「ならその間旅行行くから猫の世話しといて」


とのお返事をいただきました。

というわけでにゃん吉の奴隷となってしまいましたが毎日更新は続けますので……。


次話もよろしくお願い致します。

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