騎士へ
封印されし山田、一周年!
――翌朝。
「世話になったな。またいつでも来るがいい」
「ありがとうございます」
俺たちは荷をまとめて馬車に乗り込んでいた。
クッションやらの内装が豪華な、いい感じの馬車だ。
ラザロスの屋敷の前、見送りを受けている最中である。
「……以前、お前の父について『名を聞いたことがある程度』と言ったがあれは嘘だ」
「え……?」
まるで楽しい思い出を語るかのようにラザロスは言葉を続ける。
「アレスには何度か依頼をしたことがあってな」
「そう、ですか……」
「まあ平凡な男だったよ」
「……はい。お父さんは普通の、どこにでもいるような優しいお父さんでした」
言うアテナは寂しそうだった。
きっといい父親だったのだろう、と。アテナを見ているとそう思う。
「うむ、確かにどこにでもいる凡夫のように見える男ではあったな」
どことなく誇らしげにラザロスは続ける。
「しかし奴は頭が良く切れた。ステータスこそ平凡だったが、いかなる窮地でも脱してみせる力があった。事実、どんなに危険な任務であれ奴の仲間は誰一人として死ななかったと聞く」
――絶対に死なず、かつ味方も死なせない。
勝てるとは限らなくとも絶対に負けはしない。
故についた異名は『不死身のアレス』。
ラザロスはそう語った。
アテナパパ、結構すごい人だったんだな。
しかし……。
アテナはその『不死身のアレス』の死の謎を追っている。
皮肉のような二つ名だ。
「お前の父は偉大だった。それはこの私が保証しよう」
「……ありがとう、ございます」
伏し目がちだったアテナは顔を上げ、ラザロスに深く礼をする。
「少しでも戦吏としての父を知れて良かったです」
「…………ふむ」
ラザロスは顎に手を当て、目を閉じた。
何か考えているのだろう。
「お前はアレスの最期について調べていると言っていたな」
「はい。そのために戦吏になりました」
「……そうか」
そして「少し待っていなさい」と一言いうと屋敷の中に入っていった。
いったい何を思いついたんだろうか。
と、ラザロスは5分もしないうちに戻ってきた。
そしてその手には一通の手紙のようなものが握られていた。
それを御者を務めるリロに手渡す。
まあ依頼の完了報告の書類とかそういうのだろう。
なんてこの時は考えていた。
だがこの手紙の意味は数日後に分かることになる。
それから2日後。
俺たちは行きと同じ道をたどって、無事に帝都に帰還していた。
ちなみに、案の定ルミナスは馬車で死んでいた。
この世界には酔い止めとかないんだろうか?
いやまあ、そんなことはどうでもいいんだ。
事件はこのあと起こったのである。
帰宅して何日か遊んだり勉強したり。
以前の学院生活に戻りかけていた最中のことだった。
――アテナが王城に呼び出されたのである。
* * *
――謁見の間にて。
突然の呼び出しにガクブルしながらアテナは跪いていた。
煌びやかな玉座に鎮座するおっさんがアテナを見下している。
そのおっさんの側にはオールバックのおっさん。
おそらく皇帝と宰相なのだろう。
「面をあげよ」
ガチガチと震えながらアテナが顔を上げる。
「貴公がアテナ・ヘカテイアだな?」
「はっ!」
「うむ。では早速ではあるが、儀式を執り行うとしよう」
言うなり、皇帝が椅子から立ち上がる。
そしてやけに装飾の豪華な剣を衛兵の一人から受け取り、アテナの方に歩み寄った。
「……っ!? ……!?!?」
一方のアテナは大混乱である。
が、皇帝の御前であるがゆえ口を開くことは許されない。
なにをする気だ?
雰囲気からして刑罰とかではなさそうだが……
などと考えているうちにも皇帝が剣を鞘から抜き、高々と振り上げる。そしてゆっくりと振り下ろし、
「っ!?」
ポン、と剣の腹をアテナの右肩に置いた。
さらにもう一度剣を持ち上げて今度は左肩へ。
『これはまさか……?』
皇帝は剣をしまい、衛兵に渡す。
「以上をもって――」
そして宣言した。
「アテナ・ヘカテイアに騎士爵を奉ずるものとする」
『「!?」』
な、なんだと!?
困惑する俺たちをよそに宰相らしき人物がなにやら文書を読み上げる。
「貴公は類まれなる才気と剛勇をもってアンタレスと黒騎士を誘導し、我が領土への侵略を試みたエウクトラ軍を撃退してみせたものである。この結果、我が国の多くの同胞の命は救われ、領土は守護されることとなった」
よく通る声で宰相の口からいろいろと語られる。
なるほど、そうか。
今回のことはそんなふうに認識されていたのか。
というかこの世界の情報の伝達が思ったより早い。
まだこっちに帰ってきて数日だぞ?
もうオルト伯爵領での出来事が皇帝にまで伝わってるなんてな。
「よって此度の貴公の比類なき功績とその忠義を称し、報奨を与える」
「も、もったいなきお言葉に存じます!」
なんとかアテナが応じる。
けどまだ震えが止まってない。
ちょっと気の毒な感じになっている。
でもなぜだろう。
アテナはこうやってアワアワしてる姿が一番しっくりくる。
「このたびの叙勲はオルト伯爵とゴリアテアス公爵の推薦によるものだ。後で礼を言っておくが良い」
「はっ!」
オルト伯爵の推薦?
まさかあの時の手紙ってこれのことだったのか?
しかもゴリアテアスって、アカシア校長の家名だった気がする。あのマッチョおばさんも推薦してたのか。
ううむ、なかなか掴みどころのない校長だ。
まあともかく出世したってことだよな。
こんな感じで謁見は終わり、アテナは騎士爵の称号を得たのだった。
………………
…………
……
――アテナが去った後、謁見の間にて。
宰相と皇帝は先ほどの少女について考えていた。
「……さて、ひとまずこれで様子を見るべきか」
「左様ですな。しかし陛下は本当にあのような年端もいかぬ娘が神と繋がっているとお考えなのですか?」
「わからん。だがその可能性を示すものは多くある」
皇帝は先日の巨人のことを思いだしていた。
アトラスの巨躯はこの帝都からでも見えるほどに大きかった。さらにいえば、大地に突き立った槍は今もなお見えている。
アトラスは人智を超えた力を振るい、オルト伯爵領を襲った。
そしてアトラス降臨とほぼ同時刻、別の神の出現が神官たちにより確認されている。その数分後、アトラスが消滅した。
これらの情報から『神同士の争い』が起きたのは明白だった。
「正体不明の神が降臨したのはこれで2度目だ」
「……ええ」
「神官曰く、どちらも降臨地にはあの小娘がいたことが分かっているらしい」
「あの娘を拷問でもして調べられたら簡単なのですが……」
その宰相の言葉に、皇帝が強い口調で釘を刺す。
「間違ってもそのようなことはするな。万が一にも神の怒りに触れればこの国は滅ぶ」
「え、ええ。存じております」
神の存在は水面下で広まっていた。
そして多くの思惑が動き出していた。
しかしその事実に本人たちはまだ気づいていなかった。
2章はあと一話だけ続きます。




