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収束

【トウドウ視点】


 ――地面が何度も波打った。

 ――鼓膜が破れるほどの振動が幾重にも押し寄せた。


 それが一体何分続いただろうか。

 おそらくそう長い時間ではなかった。


 ただ、人智を超えた戦いが起こっていることだけは理解できた。

 そして音が止み、決着が着いたことも分かった。


「……アトラスは倒せたのだろうか」


「心配はいらン。私が未だ【預言者】であるということは、ヤマダ様はご健在ダ。すなわちヤマダ様が勝利した可能性が高イ」


「……そうか」


 …………預言者?

 正直なところ、何を言っているのかいまいち分からない。だが、黒騎士が勝ったと言うのだから勝ったのだろうと思う。


 振り返り、アンタレスの死体を見る。

 その胴体には大きな穴が開いていた。


 あの固い外殻を一撃か。

 ……確かにあの魔石が負けるとは考えられない。


「ところデ」


「ん?」


 黒騎士が馬を止め、空を見上げた。


「どうやら私の役目はここまでのようダ」


「……は?」


 どういう意味かと問おうと口を開きかけたところで、空に何か浮いているのに気が付いた。


 あれは……?

 ウルティメオじゃないか。


「お、おいっ! 黒騎士!」


 そのウルティメオが震えた声で叫ぶ。

 パタパタと翼をはためかせてホバリングしながら、器用にも空中でガクガク震えている。


「そっ、そいつを解放しろっ」


 どうやら私を連れ去っている最中か何かと勘違いをしているらしい。まあ無理もない。黒騎士はアンタレスと同じ神王獣。とんでもない化け物というのが共通認識なのだ。


 しかしそんなウルティメオの声にも、黒騎士は落ち着いたままだった。


「夢魔の少女ヨ。後を任せル」


 そう言って黒騎士は私の腰を掴んで持ち上げる。

 そしてストンと地面に降ろされた。


「では私は行ク」


「ま、待ってくれ。黒騎士、いや、ゴー・ブーリン殿。この恩は生涯忘れない。どうか礼をしたい」


「気にする必要はなイ。為すべきことをしたに過ぎン」


「だが……それでは私の気が収まらない」


「む……。では次に会う時に美味い茶を一杯、馳走してくレ」


「……! ああ、必ず。世界一美味い茶を用意しよう……!!」


 私の言葉に満足したのかは分からないが、フルフェイスの黒い甲冑の奥で笑った気がした。


「ああそれと私のことは内密に頼ム。……ではナ」


 その言葉を残し、黒騎士は馬にムチを入れて風の如く駆け出した。


 静かにその背を眺める。

 私もいつか、あそこまで強くなれるだろうか。


 そんな思いで見つめていた。

 と、突然背中にドンと衝撃が来た。

 ウルティメオだ。


「だ、大丈夫かっ!?」


「……問題ない」


「問題ないって……ボロボロじゃないか! とりあえずほら、HPポーションだ!」


 ウルティメオが小瓶の蓋を開け、私の口にねじ込もうとして来る。下手に抵抗すると逆にHPが減りそうなので潔く飲まされることにした。


「んっ……んっく……」


「まだあるからな! たくさん飲め!!」


「いや、一本で充ぶ――んぷっ」


 手で制しようにも腕が上がらない。

 結果、小ビンを咥えさせられる。

 ……まるで赤ん坊みたいでさすがに恥ずかしいんだが。


「もっ、もう……大丈夫だ。大丈夫だから」


「そうか。それならいいんだ。それより黒騎士に何かされなかったか?」


「それも大丈夫だ。彼は敵じゃない。詳しいことは後で話そう」


「…………そう、か」


 まだ聞きたそうな顔をするが、言葉を飲み込んでウルティメオはポーションをバッグにしまう。


 と、私の身体がふわりと浮いた。


 浮いたのではなく抱き上げられたのだ。

 しかしこれは……

 これはいわゆるお姫様抱っこなのだが。


「あの……ウルティメオ?」


「まかせておけ」


「いや、そうじゃなくて、もうちょっと恥ずかしくない抱き方うおっ!?」


 私の言葉が終わるより早く、空へと飛翔する。

 少し目線を上げるとウルティメオのキリッとした顔がある。


「ボクの翼なら街までひとっ飛びだ!」


「……それは良かった。だが、その……」


「どうした?」


「……いや、なんでもない」


 ……。

 …………。


 まあこうして動けない私を拾いに来てくれたわけだし、文句を言うのは筋違いだな。 






 * * *







【ヤマダ視点】


 無事にアトラスを退治して、俺の意識は再び石の中に入っていた。

 ……けど。


『この状況は一体……?』


 屋敷の中。

 アテナ、リロ、ラザロスによって一人のジジイが壁際に追い詰められていた。


 どうやら一同は馬車から屋敷まで移動していたらしい。


 そしておそらく、今回の黒幕を追い詰めている場面なのだろう。


 追い詰められたジジイは息を荒げ、汗をかいている。その容姿はラザロスによく似ている。コイツが例のラザロスの双子の弟、だったか?


 確かコイツがアトラスと手を組んで、領主を暗殺しようとしたんだ。そんで自分が領主になろうと画策していたとか。


「レイジス! もう逃げられんぞ!!」


 ラザロスが声を張り上げる。

 貫禄のあるジジイが怒鳴ると迫力が違うね。


 その声にもう一人のジジイ、レイジスは「ひっ!?」と息を飲む。


 だが怯んだのも一瞬、レイジスはニタニタと笑い始めた。

 まだなにか奥の手があるのかもしれない。

 その反応を見てアテナも警戒を強める。


「クク……クハハハッ!!」


「なんだ! 何がおかしい!?」


 


「私の協力者があの槍の男だけだと思っていないか?」


「なに……? どういう意味だ……!?」


「ふふ……先日の暗殺者を覚えているか?」


「ああ、お前が手引きしたんだったな」


「そうだ。奴はエウクトラ共和国の諜報部隊の者だ。この意味が分かるか?」


「まさかっ……貴様!!」


「そうだ!! 俺はエウクトラと内通している! 既にギムル山脈の(ふもと)にはエウクトラ軍が展開している。この混乱に乗じてこの地を征服するためにな!!」


 レイジスは高らかに笑う。

 勝ち誇ったように屋敷中に声を木霊(こだま)させる。


「だが心配はいらない。今すぐにでも私を領主にしろ。そうすれば私がエウクトラと話を付けようじゃないか。少なくとも市民の安全は保障できるぞ」


「このッ……!!」


 ラザロスは顔を赤くするが言葉が続かない。

 

 しかしながら俺には気になることがあった。


『なあ、ギムル山脈ってどこにあるの?』


「えっ? えっと――」


 俺の空気を読めていない疑問にもアテナは文句を言うでもなく、答えてくれた。


「ここから北西方向の、あそこに見える――――あれ? 山脈がない……?」


 窓の外、アテナはアトラスが斬った山を指差した。


 ……やっぱりな。


 この辺に山ってアレしかなかったし。

 その麓に展開してたって……

 さっきあの辺で戦ったんだけど。


『アテナ、その山があったあたりは俺とアトラスでぐちゃぐちゃにしちゃったんだが……』


「ええっ!? ……ということは」


『そのエウクトラ軍ってのはヤバいかもなぁ……。無事だったとしても地割れがひどいし、飛べないとマグマにダイブすることになるぞ』


「…………」

『…………』


 チラリとレイジスを見る。


「フハハハッ! 私の時代だ! 私の世が来るぞお!!」


 …………。


 う~ん。

 一気にレイジスが滑稽に見えてきた。


 アテナはそっとラザロスに今の内容を伝える。

 聞くなり、ラザロスはカッと目を見開く。


 そして矢継ぎ早に衛兵に命令を飛ばす。


「おい、この者を牢に入れておけ!」


「フハハッ……え? ま、待てッ! いいのか? 街が滅ぶかもしれんのだぞ!」


 とかなんとか文句を言う間にも、あっという間に拘束されて連行されるレイジス。


 (わめ)くレイジスには目もくれず、ラザロスは早くも外出の準備をする。


「リロ、馬を出せ。エウクトラとの国境を見に行く」


「は、はいっ」


 







 このあと、リロとラザロスによって多数の深く幅の広い地割れが確認された。行軍などできるはずもないほどの地割れだったそうだ。


 さらに2週間後、エウクトラ遠征軍壊滅の報が世界を巡るのだった。

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