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神vs神

 背を山に打ち付けたアトラスはすぐに立ち上がった。

 そしてその槍を山脈に向かって(・・・・・・・)横に薙いだ。


「まさか……」


 ――ガガガガガッッ。


 斬る、という音ではなかった。

 まさしく大地をえぐり取る離れ技。いや、あんなもの技と呼んでいいのか。


 アトラスは大地から切り離された山を掴み、


「オオオオオオッッ!!!」


 ――投げた。

 ただの投擲。それを数千メートル級の山でやったのだ。


「【アステリックブレード】」


 光の剣で山を切り刻む。

 無数の岩となったそれは大地に降り注ぐ。


 アトラスをここまで蹴り飛ばして正解だった。市街や村があるような場所だったらいったい何人巻き込まれていたことか。


「【看破】」



種族:神族

名前:アトラス

年齢:2306

レベル:1523

HP:10,000,000/10,000,000 MP:10,000,000/10,000,000


筋力:3,000,000

耐久:3,000,000

敏捷:3,000,000

魔力:3,000,000

魔防:3,000,000


神様指数:108,992


《スキル》

天球視【C】 衝天【B】

久地瞬視【B】 ゴーディアスブラスト【D】

神通力【B】 ティタノブレット【C】 


《称号》

なし




 HPとMPが一千万。それ以外の能力値は三百万か。そんなバカげた能力を持つ破壊神アトラスは俺に眼光を飛ばす。


「ガアアッ……グオァアアア!!」


 踏み込み、アトラスは全体重を乗せた突きを放つ。百km近い体高が持つ大質量を乗せたのだ。


「おっと……!」


 躱せば遥か後方の雲がかき消える。

 尋常ならざる威力を目の当たりにしながら、それでも俺は思った。


「――今のはたいした攻撃じゃないな」


 それが素直に思ったことだった。

 ――これ以上ないほど単調な動き。

 まったくもって脅威ではない。


 ただし、それは今の攻撃に限っては、である。


「とても理性があるようには見えない。だが……」


 逆に言えば単調でない洗練された技であれば『たいした攻撃』なのだ。


「――見惚れそうになるほど美しい構えだな」


 今の突きを躱した途端、アトラスはわずかに距離をとって構えたのだ。


 両足は地を掴み、全身で風を読んでいるように見えた。身体に染みついた技術は当人の意識を超えて現れる。武術に疎い俺でもそれを理解してしまった。


 不意に、まるで息をつくようにアトラスの槍が飛来する。

 が、対応できない速さじゃない。

 【神通力】で飛翔し、躱す。


 躱したところですぐに次の斬撃が迫る。


 あの大きさで器用なものだ。

 まったく無駄のない軌道で槍が俺を狙う。


 ――だがその程度で俺が斬れるはずもない。


「【アステリックブレード】」


「グオッ……!?」


 光の剣で槍を弾く。

 続けて【アステリックブレード】の刃渡りを伸ばし、横一文字に斬り払う。


(これで終わりだな)


 正直に言おう。

 ――この時、俺は勝ちを確信していた。

 思いのほか余裕だったな、と。


 あの巨大な図体で避けられるわけがない。

 この瞬間の俺はそんな常識的なことを考えてしまったのだ。


 だから、


「ガゥアッ!!」


「なッ!?」


 体操選手並みに跳躍したアトラスに対し、大きな隙を作ってしまった。


 あまりに綺麗な体術に気を取られる。

 しかしその間にもアトラスの攻撃は次のフェーズに移行する。


 頭上から突き下ろされる槍は既に回避不能な距離まで迫っていた。


「うッ……ぐおおおッッ!!」


 槍の切先を両手で受け止めるも、アトラス共々地面に向かって落下していく。


「ぐぬううおおおッッ!!!」


「ゴアアアアアッッ!!」


 落下といえる速度じゃない。視界に入るすべての大気が燃え上がっている。


 そして一秒とかからず、否、一瞬の間も置かずに地面に激突する。

 が、なおも勢いが止まらない。


「な、なんつう馬鹿力……ッ!」


 地面をゴリゴリと削り、地中を進んでいく。

 真っ暗な中に火花が激しく散っている。

 そして徐々に背中が熱くなるのを感じた。

 ――マントルを突き抜けたのだ。


 冗談ではなく、星を貫通する勢いだ。

 これ以上はさすがにマズい。 


「はあああああッッ!!」


 純粋な筋力で槍をいなす。

 さらにカウンターでアッパーを放つ。


 ――加減なしの全力でだ。


「ゴッ……!?!?」


 アッパーによって逆方向に飛んで行くアトラス。

 吹き飛ぶアトラスにさらに【神通力】による飛翔で急迫する。


「もう一発!!」


 膝蹴りを叩き込む。

 結果、アトラスはさらに加速度を増し、ついに地上へ飛び出す。


 ……ふう、地中のマグマに沈められかけるとかちょっとビビった。


 地上に出て周囲を見渡すとあちこちに地割れが生じ、至るところの山が崩壊している。相当な衝撃が伝播していたらしい。


 ……なるほど。


 今ので学んだ。

 戦い方を間違えたらマジで人類が滅亡する。


 バジリスクやらリヴァイアサン、帝都を襲った魔族とはスケールが違う。このアトラスは本当に数時間あれば大陸の一つや二つ壊滅させられるほどの力があるのだ。


「アア……アアア……」


 アトラスは機を伺うようにこちらを睨み、攻め時を見計らっている。

 俺は地に立ってそんなアトラスを見上げる。

 終始白目剝いた状態のくせに卓越した武術を有するアトラス。


 長期戦をしていたら影響が広がる。

 一気に高火力で決めよう。

 ――もう終わらせる。


「ガアアアアッッ!!」


 アトラスが槍を振り下ろす。


「【大烈斬】」


 アトラスの槍に対抗し、スキルを撃つ。

 【大烈斬】の斬撃はアトラスの槍を彼方まで弾き飛ばし、その腹部に直撃する。


「グォアッ!?!?」


 斬撃にさらに魔力を込め、威力を増幅させる。

 大幅に破壊力を増した【大烈斬】はついにアトラスの腹を貫いた。


 身体の真ん中に大きな風穴をあけたアトラスは膝から崩れ落ちる。


 口からも血を吐き、もはや虫の息だった。

 だがそれでも――


「ゴアア……ッ!!」


 アトラスは拳を振り上げる。


 死に際でもなお戦い続ける。その姿は武神の名に恥じぬものだった。


「【石化の視線】」


「カッ…………!?」


 体の中心部から石になる神を俺は静かに見つめる。


 あの槍捌き――とても美しいと思った。

 この神は正しく武術を極めた偉大な武神だと感じた。


「お、イ……」


「む……?」


 身体の5割以上が石化した時だった。


「アの、剣士二……ツタ、エ、ろ……」


 アトラスが言葉を発したのだ。

 その目は未だ理性があるように見えない。

 だがこの言葉は間違いなくアトラスの真意だ。そう思った。


「ああ、言ってみろ」


 俺の言葉に、わずかにアトラスが口角が上がる。


「モウ……イち、ド……」


「…………」


「タタ…カ……」


 ――そこでアトラスの言葉は止まった。

 石化が全身に回ったのだ。

 


 『もう一度戦え』、もしくは『もう一度戦いたかった』……だろうか。当事者でない俺には言葉の続きを察せないが……。


 どうやらトウドウとの戦いが楽しかったと見える。


 せめてその死を晒すことはすまい。


「【フラッドストライク】」


 石となったアトラスを粉々に砕く。

 巨大な石像は砂となって風に散っていく。




 そして大地にはアトラスの得物、とてつもなくデカい三叉矛だけが突き立てられていた。

 ――それはまるで摩天楼のように、威風堂々としていた。

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