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藤堂魅珠

「痛ッ」


 馬車の中でルミナスが自分の肩に包帯を巻いている。赤い色が白い包帯に滲んでいく。そんなルミナスの様子を、トウドウは静かに見つめていた。


「……なぜ……私を庇った?」


 トウドウの口調はどこか重かった。


「なんだよ。文句でもあるのか?」


「……違う。下手をすればお前が死んでいた。なぜだ? なぜあんなことができる?」


「…………はァ?」


「私がお前たちの言う『仲間』だからか? 仲間とはなんだ? 相手のために命を張れることが仲間か?」


「ど、どうしたんだよ急に……」


 いつもは口数の少ないトウドウが(まく)し立てるように問う。


 普段とは違う声色に、御者席のアテナもチラリと少しだけ後ろを振り向く。


「リロ殿は領主殿の身代わりとして暗殺されかけた。ならば二人は仲間と言えるのか?」


「お、おい……」


 トウドウの無礼とも言える発言に、リロは気まずそうな顔をする。一方でラザロスは目を瞑り、腕を組んでいるだけだった。


「私は……お前たちの仲間なのか自信がない」


 重く、トウドウは続く言葉を発した。



「私は――――命を張る自信がない」



 トウドウらしからず多くの感情が乗ったその言葉に、


「だから何言ってるんだよ……」


 ルミナスは呆れた。

 話にならない、とでも言いたげな表情(かお)


「『仲間』ってそんな高尚なものでもないだろ」


「……なに?」


「相手のことを信じられればそれで十分だ」


「……信じる?」


「命を懸けられるとか、そういう何か条件を達成してなるもんじゃない。もっと適当なものだろ」


「適当? いいやそんなはずがない。背中を預ける相手をそんな雑に決めて良いわけが――」


「雑で良いんだ。なんとなく信頼できればそれでいいさ」


 ――雑、適当。

 言い切られ、トウドウは目を丸くしていた。


 何か反論を言おうとして少し口を開くが、結局言葉を紡ぐことはなく。

 少し考える仕草をして。そして小さく、本当に小さく「なるほど」と口にした。


 どこかスッキリした様子に見える。


 そんなトウドウの向かいの席でラザロスが現状を再認識させるように口を開く。


「おい、それよりもこれからどうするのだ。奴の能力を考えるとすぐに追いつかれるぞ!」


「……そうですね」


 アテナが破れたポーチを撫でる。

 そう、現状で奴に対抗する方法がない。つまり追いつかれた時点でアウトなのだ。


「ボクに考えがある」


 ルミナスに皆の視線が集まる。


「ボクがここに残ってアトラスを足止めする。その隙にアテナは街に戻ってMPを回復するんだ。そしてヤマダ様にアトラスを討ってもらう……というのはどうだろう?」


「だ、ダメ! ルミナスが死んじゃうよ!」


 アテナに同意だ。

 誰かが死ぬ――それは認められない。

 だが、


「……某は賛成だ」


「えっ!?」


「だが足止めは某にしてもらいたい。手負いのウルティメオにこれ以上の戦闘は不可能だ」


「ダメです! リーダーとして許可できません!!」


「だがウルティメオの策がもっとも現実的だ。それとも、他に勝つ方法があるのか?」


「それは……ッ」


 アテナは返す言葉をなくす。

 厳しい。

 辛く厳しい状況だ。


 しかしここで反論したのはルミナスだった。


「ボクはトウドウが残ることには反対だ。お前、また戦いたいだけじゃないのか? そんな考えで――」


「――違う」


「え……」


「言葉では上手く言えないのだが……ともかくそうじゃない」


 凛とした声で言い放った。




「――――私を信じてくれ(・・・・・)




 言葉を聞いたルミナスはしばし沈黙する。

 そして、


「わかった。死ぬなよ」


 それだけ言う。

 ルミナスの言葉にトウドウは軽くうなずく。


「ヘカテイアもそれで良いか?」


「……わかった。でも条件、というか私からも考えがある」


 アテナが御者席から策を伝える。

 

 それを聞き終えるとトウドウは馬車から飛び出すのだった。







 * * *








【トウドウ視点】


 馬車を降りてわずか5分のこと。

 突如として目の前10メートルくらいのところにアトラスが現れた。


「なんだ? お前、置いてかれたのか?」


「……違う」


「ああん? 一人だけ逃げようとして俺に出くわしたってとこか?」


「……それも違う。アトラス神よ、私はお前を殺しに来た」


「……なんだと?」


 アトラスの槍を持つ手に力が入ったのが分かった。


「いいだろう。その不遜、万死に値する。相手してやるよ」


 アトラス――すべてを見下す神。

 死角はなく、一切の隙を許さない武神。


 その武の頂点が私に槍を向けている。

 不意に自分の足が震えた。


(震え……? 恐れているのか?)


 いや違う。

 今にも踏み出さんと足がうずいているのだ。すなわち、武者震い。


 刀を二本抜き、上段に長刀、中段に脇差(わきざし)を構える。


「アトラス神、貴方はこう云ったな。強者の名しか覚える気はないから名乗る必要はないと」


「それがどうした」


「いや、それに(のっと)るならば私も名乗りを上げる必要があると思ってな」


「かかッ、自分は強者だと(のたま)うか。傲慢もそこまで行くと面白い。いいぜ、名乗れよ……もっとも俺がその名を覚えるかはわからんがな」


「…………」


 私は大きく息を吸った。


 この戦いは私の戦いではない。

 いや、私だけの(・・・・)戦いではない。


 仲間と繋ぐ戦いだ。


「藤堂家次期当主、藤堂(とうどう)魅珠(みたま)、参るッッ!!!!」


 地面を強く蹴り、私はアトラスに斬りかかった。

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