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開戦

「おう、領主さんよ。さっきはどうも」


 デカい矛をクルクルと回しながら余裕の表情。


「これは一体……なぜ貴様がここにいる!!」


 おそらくまだ状況を飲み込めていないラザロスが叫ぶ。

 なにが起きているかは分かっていなくとも、良くない状況であることだけは察しているようだ。かなり汗を浮かべている。


 そんなラザロスを小馬鹿にしたようにあくびをしながらアトラスが簡単に告げる。


「俺、アンタの弟と手を組むことにしたんだわ」


「な……なんだと?」


「俺もお前の弟も――お前たちがジャマ。俺がお前たちを殺してレイジスが領主になって、この街の主神を俺にする。簡単なことだ」


 やはりか……!

 瞬時にルミナス、トウドウの2人が武器を構えてアトラスに対峙する。

 そして2人の後ろでアテナがラザロスとリロを掴んで馬車の中に放り込む。 


 ルミナスとトウドウが二人でアトラスを抑え、その隙にアテナが撤退準備。作戦としては間違っていない。――――相手がアトラスでなければな。


 あの男と渡り合うにはこちらも相応の力だ必要だ。

 ……というわけで、


『アテナ、俺をルミナスに投げろ!』


「……! 分かりました! ――ルミナス!」


 アテナが俺をルミナスにパスする。

 一瞬驚きながらもルミナスは受け取る。そして顔を若干強張らせる。俺が必要な相手(・・・・・・・)だと改めて認識したのだろう。


 その横でトウドウが二本目の刀を抜く。

 一本目の太刀より少し短く――(あか)い刀身をしている。


「ん……本気だねェ。結構なことだ」


 言って、笑うアトラス。

 完全にこちらを舐めきっている。だが事実、それほどの実力差がある。


「じゃあちょっくら試してみるか。――そおらッ」


「…………ッ!」


 ――突き。

 単純な突きだった。しかし(はや)い。疾すぎる。


(……まずい!)


 トウドウの心臓に向かって放たれた矛。

 咄嗟に【神通力】を発動しかけた俺だったが。


「……なに?」


 アトラスの驚愕。

 槍はいつの間にか横に()れていた。


「……そのような稚拙な技なら出さぬ方が良い」


 短い刀で槍をはじき、長刀をアトラスの小手に向かって振り上げるトウドウ。


 洗練されたカウンターだった。


 しかし相手は神。

 寸でのところで身を翻し、トウドウの一閃を躱す。


「お~……あっぶねえ。思ったよりやるじゃねえか――て、うおっ!?」


 アトラスが距離を取って体勢を立て直そうとした瞬間。既にトウドウの太刀がその首に迫っていた。さっきの刀が躱された瞬間にはもう次の攻撃に向けて踏み込んでいたのだ。


 相手を休ませない追撃。

 反撃を許さない。模範的な『(せん)(せん)』。


 咄嗟に槍でガードする。

 しかしトウドウはそれも想定済みだったのだろう。あるいはわざと槍を使わせたのか。ともかくトウドウは――さらに次の手を打っていた。


 紅色の脇差。その切先(きっさき)がアトラスの心臓に向かっていた。


 アトラスの突きから始まる攻防は明らかに攻守が逆転していた。


「つ……強い……」


 俺を握るルミナスは目を見張っていた。


 圧倒的な敏捷、さらに二刀流の手数の多さが重なる。加えて筋力も高く一撃が重い。


『……これがミタマ・トウドウか。だが――』


 普通の相手なら勝負にもならないだろう。


 しかし今回は相手が悪すぎた。


『アテナ! トウドウを退かせろ!!』


「え……? は、はいっ!」


 馬車の方のアテナに指示を飛ばす。


 と同時に、トウドウの攻撃が(くう)を切る。完全にとらえたはずの一撃が躱されたのだ。ガードされたのではない。全くの空振り(・・・・・・)である。


「かかっ、惜しかったな」


「なっ……!?」


 トウドウの真後ろで笑うアトラス。

 いくら素早く動こうとも奴には勝てない。


 正直、敏捷型のトウドウは相性が最悪だ。


 奴のスキル、【久地瞬視】。 

 その効果を一言で表すなら――『瞬間移動』だからだ。


【久地瞬視】:Bランクスキル。視界に映る任意の場所に瞬時に移動できる。


 このスキルがある限り、どんなに速くてもアトラスに追いつくことは出来ないのだ。


 背後のアトラスに向けて、トウドウが振り向きざまに横一文字に斬る。

 しかしそれも虚空を切る結果になった。


「さて、そういえば自己紹介がまだだったな」


 今度は木の上に移動していた。

 腕を組み、仁王立ちをしている。

 そのアトラスの声に、その場の全員が同時にその木を見上げる。


「名をアトラス。万象を見下(みおろ)す神なり」

 

 ――万象を見下す。

 奴の能力はまさにその言葉がふさわしい。


 アトラスはその視界すべてが槍の届く範囲なのだ。まさしく、万象に届き得る刃。


「ああ、お前らは自己紹介とかいらんぞ。俺は強い奴の名しか覚える気はないんでな」


 そう言ってアトラスは再びスキルで移動する。そしてトウドウの目の前に姿を現す。

 それも構えも取らず、隙だらけの状態でだ。


 即座、トウドウが突進する。

 蹴った地面から高く砂が舞う。加速は十分、鋭い刺突だった。


 だが結果は見えていた。


「……がはっ!?」


 簡単に躱され、死角から蹴りを入れられ吹き飛ばされるトウドウ。

 しかし飛ばされた先には瞬間移動でアトラスが待ち構える。


(まずい――!!)


『【フラッド・ストライク】!!』


「チッ!」


 スキルを撃ち込み、アトラスをトウドウから遠ざける。

 なんとかトウドウへの攻撃を阻止できた。


 と、安心するのも束の間、視界からアトラスの姿が消えた。


『厄介な……!』


 周囲の気配に集中する。


(どこだ……?)


 視界を巡らせる。

 神経を研ぎ澄ませる。


 ――ジャリッ。


 不意に馬車の近くの砂が鳴る。


「【憑依】!」


 アテナの声と同時に布が裂ける音が飛び込んできた。


『アテナッ!』


 焦り、馬車の方を向けばまさにアテナが槍で斬りかかられている瞬間だった。


 ギリギリのところで避けるが、槍の先がアテナの腰のアイテムポーチを掠める。バラバラとポーチの中身がぶちまけられ、小ビンが割れる。


 あの小ビンは……MPポーションか……!


 まずいな……。

 この一瞬の攻防で状況がさらに悪化した。

 奥の手である【降臨】が封じられたのだ。


 一度【憑依】を使ってしまったのでMPを回復しないと【降臨】は使えない。だがMPポーションはたった今、なくなってしまった。


 いざとなれば俺がワンパンすればいいと考えていたが……こうなるとは。

 考えが甘かったといわざるを得ない。


 クソッ!!

 戦いが始まった時点で【降臨】で片付けるべきだった……!


 後悔しても遅い。

 今は現状に集中し、打破しなければ。


 ともかくアテナがやられなかっただけでも幸いだ。


――“ルミナス、頼みがある”


「え?」


 メモを走らせ、ルミナスの目の前に持っていく。

 とにかく、とにかくこの場を生きて撤退しなくちゃダメだ。


 作戦、といえるほどのものでもないが俺の案をメモに書いてルミナスに見せた。


「……! わかりました!」


 ルミナスに頼んだのはトウドウの回収だ。

 頭に血が上っているアイツはなおも戦おうとするに違いない。そこでルミナスに強引に馬車の中に連れ帰ってもらう。


 馬車では逃げきれないが、そこは俺がなんとかする。


 ――ターニングポイント。

 ここで打つ手を間違えれば死ぬ。

 それだけはわかった。


 と、不意にトウドウに影が差した。


「上だ!!」


 ルミナスが叫ぶ。


 瞬間、悟った。

 やられたと。

 完全に反応が遅れた。


 しかし――


「なんだとっ?」


 アトラスは目を見開いていた。


「ぐっ……!」

「お、おい! お前……っ!!」


 翼を解放したルミナスがトウドウに向かって飛び込んだのだ。トウドウを貫くはずだった槍は代わりにルミナスの肩を切り裂いていた。


 怪我を負いながらもルミナスはトウドウを掴んで飛翔する。

 そしてそのまま馬車の荷車の方にダイブした。


「アテナ!」

「うん!」


 同時に御者の席に移っていたアテナが馬車を出す。


「逃がすかよォ!!」


 アトラスが馬車を視界に捉える。

 が、スキルは使わせない。俺が使わせん。


『ぬうオオオオオオオッッッ!!!!!』


「ぐおッ!?!?」


 スキル連打。

 【フラッドストライク】のマシンガンだ。


 密度の濃い砂ぼこりが舞い、アトラスの視界を奪う。

 まだだ。まだ連射を止めんぞ。


「ぐあッ……! この……!!」


 一発一発がリヴァイアサン級の怪物を即死させる威力。

 ミサイルをマシンガン並みの連射で撃っているようなものだ。さすがのアトラスもただではすまんだろう。


『おおおおりゃあああああああッッ!!!!!!』


 私有林の木の大半がなぎ倒され、岩が空を舞っている。

 だが《アトラスを倒した》という文字は現れない。

 この程度では倒すには至らないか……!


 とにかく奴の視界に入らない距離まで逃げるのが優先だ。



 それから30分、俺は【フラッドストライク】を撃ち続けた。

今年一発目の忘年会で投稿が遅れました……

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