私有林にて
オルト伯爵の私有林に馬を走らせた俺たち。
林と領地の間にはきれいな草原が広がっていた。
ゴルフ場にぴったりな平原。
その平原の小さな丘に差し掛かった時だった。
「あれは……」
突然、先頭を走っていたルミナスが馬を止めた。
「む……」
「どうしたの?」
つられる形でアテナとトウドウも止まる。
前のルミナスはというと、少し目を細めて街と逆方向の遠方を見ていた。
「…………?」
なにか気になる物でもあったか。
ルミナスを追うように、俺もそちらに視線を向ける。
『んお……?』
遠くの方で小さな山が動いている。
いやあれは山じゃなくて……サソリ?
「アンタレス……」
アテナの小さな呟きが俺の耳に届く。
アンタレス? なんか聞いたことある気がする。
まあ直接確認すればいいことだ。
『【看破】』
この【看破】は対象を視界に入れていればかなり遠くても発動してくれるのだ。
種族:アンタレス
名前:ダニエル
年齢:2045
レベル:7210
HP:200000/200000 MP:85000/85000
筋力:54700
耐久:101000
敏捷:34080
魔力:22050
魔防:87900
《スキル》
シザースパイク【D】 サンドストーム【D】
金剛殻【E】 自動回復【C】 モータルポイズン【E】
神格(準)【B】
《称号》
荒野の支配者
『おお……!』
こんな凄まじいステータスは久しぶりに見た。帝都を襲撃したあのインキュバスもここまで強くはなかったぞ。
荒野の支配者、か。
なるほど。
リヴァイアサンやバジリスクの仲間らしい。
戦うとなればかなり脅威だが、アンタレスとはかなり距離が離れている。現状、心配はいらないだろう。
アンタレスは両足の鋏でしきりに地面をグリグリしている。そんな何気ない動作も身体がデカいってだけでとても恐ろしく見える。
「……神王獣。確かにアレは人智を超えているな。この距離でも分かる」
アンタレスから一切目を逸らさず、トウドウが言う。
さすがのトウドウもあの巨大サソリと戦いたいとは言わないようだ。良かった。
ああいう虫っぽいのは苦手なんだよな、俺。
「アンタレスは縄張りから外に出ることはまずない。気にする必要はなさそうだね」
それだけ言うとルミナスは馬の手綱を引く。
それを追ってトウドウとアテナも再び馬を走らせた。
* * *
――そして30分後。
「……やはり馬は遅いな」
「そうだね。ボクたちなら自分で走った方が速かったね、コレは」
オルト伯爵の私有林に着くなり、そんな文句を言う敏捷型の二人。頑張って走ってくれた馬がちょっと気の毒である。
「え~と、さっき領主様からもらったメモは……」
アテナが小さな紙を広げ、ルミナスとトウドウがそれを覗き込む。
――――――――――――――
討伐対象:ベスファング
イビルトレント
ラグエイプ
備考:イビルトレントは今季大繁殖しているため、重点的に駆除されたし
――――――――――――――
ベスファングはブサイクな虎だな。
イビルトレントはブサイクな木で、ラグエイプは…………ブサイクな猿だ。
体感だが、森・沼・深海とかの日が当たりにくいとこに生きてる魔物はキモい奴が多い。ブヨブヨしてたりベタベタした奴も多いな。
イビルトレントは半分植物で、歩くこともできるが普段は足から根を伸ばして群生している。アンドレアス帝国のそこら中の森に分布しているノーマルキャラだ。きっとソシャゲにいたらフレンドポイントで回せるガチャから出てくるだろう。
そんなイビルトレントだが、攻撃力はたいしてない。だがが丸太が歩いているようなものなので耐久力は相当なものだ。
筋力型のマッチョ冒険者であっても簡単には――
「えいっ」
「ムゲェッ!?」
――バキィッッ
近くで木が粉砕される音がした。
目を向ければちょうど顔のある木が倒れていく瞬間だった。そしてその木の傍らには回し上段蹴りを振り抜いたアテナの姿が。
「さっそく一匹目! あっ、二人とも、あそこにトレントの群れがいるよ!」
アテナの眼がトレントたちを捉える。
直径40センチはあろうかという木を一発でへし折るとは……。
どうもウチのチームは人間離れが進行している。
一般人に会いたい。
今すぐエフィさんに会いたい。
と、そこでトレントたちが敏感に危機を察知する。
「ムゲッ!?」「ムム、ゲ……!」
「ムゲゲッ!!」「ムッ、ムゥッ!!」
トレントたちは急いで根をしまい、互いに顔を見合わせながら逃亡の準備を始める。しかし悲しいかな。彼らの走力は最高でも時速3km程度。もはや生存は絶望的だった。
「ムキャア!」
突然、逃げようとしていたトレントの一匹が悲鳴を上げた。ルミナスの【ウィンドカッター】がその胴体をスパッとやったのだ。
「ちょっと強くしすぎたかな」
地に伏し行くトレントを冷静に眺めるルミナス。
「ムッ……ムワアアアアア!!!」
「ムオオオオオオオオオオ!!!」
その直後、勇敢な二匹のトレントがルミナスに立ち向かった!
時速3kmで必死にルミナスに食らいつこうとする二匹。もしかすると、さっき短刀で殺されたトレントの親なのかもしれない。勝てないと分かっても、死ぬと知っても戦おうとする姿に俺は感銘を受けた。
しかし……。
「ムキュ!?」「ムピ!?」
ガッ!とルミナスの右腕、左腕で顔面を掴まれる二匹。
そしてそのまま、
「「ムグェエエ!!」」
互いの頭を叩き付けられ、二匹は同時に砕けた。
ルミナスの戦い方が完全にバーサーカーのそれだ。怖いよぉ……。
「……残るは一匹のようだな」
「ムヒィ!?」
トウドウと最後の一匹の眼が合う。
「ムイ! ムイ!」
必死に逃げる。
「ムイ! ムイ!」
逃げる。
「ムウウ!」
必死に腕を振るって逃げる。だが不運にも木の根に躓いてしまう。
「ムエっ」
「…………」
「ム、ムワワ……」
無言でトウドウは近づいてゆく。ダメだ。あいつは死ぬ。
たまらず俺は目を逸らした。
――ボキィッッッ!!!
何かを踏み砕く音。
なんか強い魔物を相手にするよりも辛いんだが。あのトレントたちは後で俺が供養してやろう。
その後、ベスファングもルミナスの【エリアサーチ】によって発見され。
「やっ!」
「【ウィンドブラスト】」
「……脆い」
「グエアッ!?」
狩られ。
ラグエイプも見つかり。
「たあっ」
「【ウィンドカッター】」
「……温い」
「ギキィッ!?」
狩られ。
さらに2か所のイビルトレントの群生地も発見され。
「とおっ!」
「【投擲】」
「……柔い」
「「ムゲエエエエッッッ!?!?」」
滅された。
それから約1時間。
虎・猿・木の魔物たちは次々に狩られていくのだった。
ひとしきり狩った後、
周りに魔物がいなくなったことを確認しながら、アテナが近くの岩に腰かけた。
「ふう、だいぶ退治したね」
「これだけ狩れば依頼は大丈夫だろうね」
「ルミナス、結構スキル使ってたけど魔力大丈夫?」
「ああ、運よく途中でレベルアップしてね。少し回復したんだ」
レベルアップ……。
俺ってもう50年はレベルアップしてない。その辺の魔物を倒しても経験値の足しにならんのよね。成長期でぐんぐんレベルアップするアテナ達が羨ましい。
と、一息ついていた時。
「…………む」
遠くから馬車の音が聞こえてきた。
3人は音の鳴る方に顔を向ける。
「たぶん後から追いかけるって言ってた領主様の馬車だよね」
「……その可能性が高いだろう」
アテナの言葉にトウドウが頷く。
ああ、ようやくキモい魔物の相手が終わった。
はやくロリ様、じゃなくてリロ様に会いとうございます。
12月中は二日に1回更新くらいのペースで行く予定です。たぶん年内に2章終わります。
あくまで予定ですので更新遅れたらすみません……。




