次の仕事
翌朝、俺たちは朝食の席についていた。
朝食ということで、ガッツリはしていない。けど食材は高級そう。うまそう。
領主のロリも交えて4人での食事である。
「改めて、昨日は助けられましたね」
カチャリカチャリとナイフを器用に使う傍ら、ロリの小さなお口が動く。
ちなみにこのロリ、本名をリロ・オルトという。名は体を表すというか、その名に恥じぬロリ体型。お兄さんも大満足である。
そんなリロ様のお言葉に答えるは昨日のMVPであるルミナスさんだ。
「いえ。申し上げました通り、当然の義務を果たしただけです。仕事をしたにすぎませんから」
「そう」
ちなみに暗殺者の襲撃のことは既にチーム全員に共有済みだ。
「それで今日の依頼についてなのだけれど、私たちの私有林に行ってもらって魔物を間引いてほしいの」
「間引き、ですか?」
「私有林の魔物は敵の侵攻を防ぐ目的もあるから狩りすぎないで頂戴。適度に退治してくれればいいわ」
「承知しました」
「私たちも一緒に行くから、朝食が終わったら門のところで待っていて頂戴」
「はい」
ルミナスとロリの間で話がまとまっていく。
今日はモンスター退治か。うむ、いいストレス発散になりそう。ここらのモンスターはそんなに強くはないし危険もないだろう。
「ひぐっ……ぐずッ……お゛い゛ひ゛い……ッ!!」
ところで、うちのボスがやかましい。
号泣しながら懸命に頬張っている。
食堂の閉まっている休日とかは雑草を食べたりするアテナ。そんな彼女の涙腺を崩壊させるには、この朝食は十分すぎたのだ。
壁際に並んで控えている使用人の方々も若干苦笑いしてる。
「ぐずッ……うぅっ……!」
恥ずかしいのでやめてほしい。
「ところで、」
ルミナスがフォークを止めて、領主様へ顔を向ける。
「昨日の男は今どこに?」
何気ない口調で聞く。
「奴は暗殺者。おそらく自害の手段も用意があるでしょう。これでも戦吏見習いですので拷問術の覚えもあります。差し出がましいかもしれませんが私もお手伝いできるかと」
「それは……」
問われた側であるロリはなぜか目を泳がす。
というかルミナスって拷問もできるんだ……ひえ……。これからはあんまり舐めた口聞かないようにしよう。
しばし宙を漂ったロリの視線だったが、最終的にはラザロスの方へと向けられた。
「例の侵入者はラザロスに任せているから……」
「……私に?」
「え、ええ……」
執事のジジイはなぜかキョトンとする。
いやお前が昨日の夜、「私が対処する」的なこと言ったんだろうが。覚えとけよ。
ジジイは少しだけ考えるような素振りをして小さく「なるほど」とつぶやいた。
「ああ、例の輩は私に任せてもらって構わない」
ジジイがその場の全員に聞こえるように告げる。
……が、なんだろう。この違和感。
なにか変……な気がする。
「あの」
そこで号泣朝ご飯をしていたアテナが小さく手を挙げる。
「彼らの様子はどうでしたか?」
彼……ら?
『いやアテナ、昨日現れたのは1人だけで――』
「心配はいらん。全員身動きもとれん状態にしてある」
ジジイが即答する。
……は?
昨日の襲撃は1人だけだったはず。
あれ、俺の記憶違いか? いやそんなはずはない。
アテナが間違えるのならまだわかる。
現場にいなかったのだから勝手に複数犯だと勘違いしてしまったというなら、まあ、うなずける。
だが現場に居合わせ、かつ進行形で暗殺者を預かっているこのジジイがそんな間違いをするはずがない。
「そうですか、それなら安心ですね」
俺の困惑とは対照的にアテナの声色はいやに澄んでいた。
「ラ、ラザロス……」
「む、いかがされましたかなリロ様」
「い、いえ……」
そしてこのどうにも煮え切らない態度のロリ領主様。
なぜそんな曖昧な表情をしている。
奇妙。カオス。
形容しがたい違和感が取り巻いている。
そんな朝だった。
* * *
朝食後のこと。
魔物狩りの準備のために部屋へ戻っている途中のことだった。
「は?」
『は?』
廊下で巨大な槍を担いだ男と鉢合わせた。
まさか、だ。
まさか領主の屋敷の中で出くわすとは思ってもいなかった。
『なんでテメェがここにいる、アトラス』
「そりゃあこっちのセリフだ。俺はここの領主と話があってきてんだよ」
『…………』
「…………」
『……まさかとは思うが、ここでやるつもりじゃないだろうな』
「フン、しねえよ。街中では戦わんという取り決めだ。俺は言葉を違える男じゃねえ」
そういってアトラスはつかつかと歩き出す。
領主と話、だと?
一体何を話すというのか。
未だにあの神の目的が分からない。
街を壊したくない的なことは言っていたから、領主と敵対はしていないとは思うのだが。案外俺たちとも敵対以外の関係を気づけるのだろうか。
……だがなんというか、俺は生理的に奴を受け入れられない。
本能的に嫌っている。見ていると無性にイラつくってヤツだ。
そしておそらく奴も俺のことを受け入れられない。
「怖かったぁ……」
ぽつりとアテナが漏らす。
アトラスが何もしてこなくて良かった、と安堵しているのかもしれない。だが安心するのはまだ早いぞ。
俺たちに背を向けて歩いている今もなお、奴は俺に殺気を向けているのだからな。
一瞬、廊下を歩くアトラスが振り向いて俺に視線を寄越す。
『…………』
ちらりと見えたその眼は、まさに武神を思わせる凶暴さを持っていた。
…………と、そんなことがありながらも時間は進み。
「領主様まだかな……」
「……某、待つのは苦手だ」
俺たちは門の前でロリっ娘を待っていた。
しかしなかなかこない。俺たちが門前に来てから既に40分ほど経っている。
「ちょっと聞いてくるよ」
そう言ってルミナスが屋敷に入ろうとした時だった。
タタッ、とロリが玄関から飛び出てきた。走ってきたのか、ちょっと汗ばんでいる。
「ふぅ……! ご、ごめんなさいね」
「い、いえ。とんでもありません」
「申し訳ないのだけれど、先に林に向かっててもらえるかしら。私たちは後から追いかけるわ」
「は、はあ」
「少し急用が入ってしまったの。移動には馬舎にいる馬を使ってもらってかまわないわ」
「わ、わかりました……」
「それじゃあ頼んだわ」
それだけ伝えるとロリは身体を翻し屋敷に入る。せっかく来てくれたのにロリ様は一瞬でログアウトしてしまった。悲しい。
残された一同。
「……じゃあ、行こっか」
なんだか出鼻をくじかれたような感じだが仕事は仕事。
アテナを先頭に俺たちは馬舎へ向かった。
ちなみに乗馬は必修科目なので全員乗れる。
そうして結局3人で魔物狩りに向かうのだった。




