緊急会議
『アトラスって知っているか?』
「アトラス神ですか? もちろん知ってますよ。“全てを見下ろす神”、ですよね」
想定外の敵との遭遇により、即、緊急会議。
『さっきの奴がその神だったんだ』
「ぬええっ!?」
奇妙な声。
女の子らしからぬ驚き方である……がそういうのはいつものことなのでスルー。
「アテナ、どうしたんだい?」
不思議そうな顔……というより深刻な表情を向けるルミナス。
トウドウもいつもよりちょっとだけ眉が寄っている気がする。いや、気のせいかも。
「えっとそれが……私たちを襲った人なんですけど、どうやら神アトラスだそうです」
「な、なんだって!?」
「……ッ」
アテナの言葉に、その場の空気が変わる。
「しかしそれは……ありえるのか? 神が民衆に紛れていたなんて……」
「確かにいろいろと分からない点が多いね」
「……まあでもボクたちの側にもこうして神様がいらっしゃるわけだし、意外と神は身近に存在しているのかな…………?」
「ヤマダ様は神様の中でもなんとなく特殊な気もするけど」
「アトラス……“万物を見下す神”か。もし神話にあるように全方位を見渡せていたのなら暗器が通じないも納得できるね」
ルミナスは視線を落とし、思考にふける。
一瞬場が静かになる。が、そこに凛としたトウドウの声が投げ込まれる。
「そのあたりの事情はどうでもよいだろう」
「え……?」
「問題はあの男とは敵対関係にあること。そして奴は異常に強いということだ」
「…………」
すごく単純にまとめられたがトウドウの言うとおりだ。
まずは大まかに方針を決めるべきだろう。
すなわち、戦うか戦わないか。
「……正直、おそらく私たちの手に負える相手ではありません」
「というと、ヘカテイアはどうするつもりか?」
「やり過ごしましょう。幸い、彼はこの領地では戦わないと言っていました。ならば依頼をこなしたら彼に悟られないように速やかに帝都に帰還すべきです」
……正しい判断だな。
逃げるということにはなるが致し方あるまい。妙な言い方になるが、戦いに勝つだけが勝利ではないのだ。
しかしこの意見に異を唱える者がいた。
まあ案の定と言うべきか、トウドウだ。
「奴を野放しにしていては危険だ。またいつ奇襲されるともわからん。ここで倒しておくべきだ」
「ならば聞くが、お前に倒す手立てはあるのか?」
そう厳しい口調で問うたのはルミナスだった。
なんとなく言い方に私的な感情が混じっている気がしなくもないけど、聞いている内容自体は至極最もなことだ。
トウドウとて彼我の力量差が分からない奴じゃあないだろう。
「街中ではなく、より見晴らしの良い場所で戦えばいい。某の敏捷さがあれば打倒は可能だ」
「……そういうがさっき突き飛ばされてたじゃないか」
「隙を突かれただけのこと。あのような油断、二度はしない」
むうっと顔を顰めるルミナス。ちょっとかわいい。写真撮りたい。
対立する二人の視線は自然とリーダーへ向かう。
「戦いません。撤退します」
言い切った。
こういう時には優柔不断にならないんだよな、この子。
「…………むぅ」
不服そうながらもトウドウは反論しない。これまでもそうだが、なぜかコイツはアテナには逆らわない。
ふう、と息をつくとルミナスが口を開く。
「……さて、話もまとまったし、今日はもう部屋で休まないかい?」
「そうだね。そうしよっか」
「ふむ」
と、一波乱はあったものの、なんとか今日の活動は終了したのだった。
――なんて、この時は思っていたのだが……。
まだまだイベントは俺たちを待っていたのだった。
* * *
――その夜のこと。
領主様と一緒に立派な晩食をいただき、浴場も使わせていただいた後のことである。
時刻は午後11時になろうとしている。
疲れもあってアテナはスヤァである。
……だが。
(ルミナスがまだ寝てないんだが……!)
今日は夢の中でひと時のバカンスを楽しもうと思っていたのだが、一向にルミナスが夢の中に入る気配がない。いつもならこの時間ならもう寝ているはずなのに。
なんでなんや。
……まあそういう日もあるか。
いやでも……。
う~ん。
『…………』
日中のアトラスによる襲撃を思いだしてしまう。
心配性だとは思うがルミナスに何かあったのではないかと不安になってきてしまった。
ので、申し訳ないが、
『アテナ! すまんが起きてくれ!!』
「……ふぁ?」
【神通力】でちょっと身体を揺らしつつ呼びかける。
ふぁ~、とアテナはあくびをしながら「なんれすか……?」と若干ろれつの回ってない様子で返事を返す。
『悪いがルミナスの様子を見てきてくれないか?』
「どうかしたんですか?」
『いや、そういうわけじゃないんだが……なんとなく心配になってな』
「??? わかりまひた。ふぁ……ぁ」
ぼーっとしながらもルミナスが寝ている隣の部屋へ行き、コンコンとノックしてドアをガチャリ。
ドアを開ければそこには赤茶色の髪をした見知らぬ少女が立っていた。
「へっ!? ア、アテナ!?」
「わっ、す、すみません間違えました!!」
バコンッ! と勢いよくドアを閉じるアテナ。
あの、あなたの筋力、一般的な成人男性の1.5倍くらいあるので気を付けてね。壊さないでね。
アテナが「あわわわ……」していると今度は内側からドアがゆっくり開く。
「アテナ、こんな時間にどうしたんだい?」
「へ? なんで私の名前を……?」
「いや、ボクだよ。ルミナスだよ。……変装中だけどね」
「ルミナス!?」
一見するとその辺にいそうなモブ感の強い少女だが、声は確かにルミナスっぽい。すげえ、まるで別人じゃん。
髪が赤毛になって目も若干つり目になってる。どうやってんだろ。
「変装って……どうして?」
「ちょっと外に調査に行こうと思ってね。情報収集は大人が飲む時間帯のほうが効率的だからね」
「で、でも……一人じゃ危ないよ」
「だけどアテナやトウドウは諜報系のスキルもないだろ? 大丈夫、ヘマはしないよ」
「確かにそうだけど……」
ルミナスは強いが……一人というのは俺も賛成できない。
だが昼間の出来事で目立ってしまっている可能性のあるアテナやトウドウが変装せずに行くのはあまり良くない。
ここはルミナスを止めた方がいいのか……。
『そうだ!』
「ヤマダ様?」
『俺をルミナスに預けてくれ。今夜は俺がルミナスの護衛をするよ。それならいいだろ?』
「ヤマダ様が護衛ですか……?」
アテナが腕を組み、「う~ん」とうなる。
組まれた腕に、パジャマ越しのアレがむにゅりと乗る。
それをルミナスが切なげに見る。そして視線を降ろし、自分のものの大きさを確認する。
……ノーコメントで。
「わかりました」
意を決した様子でそう告げるアテナ。
「ルミナス、ヤマダ様を預けます。危なくなったらすぐ帰ってきてね」
「ヤマダ様を? いいのかい?」
「うん。……ヤマダ様、お願いします」
『おう!』
俺とルミナスの臨時タッグ結成である。
更新が大幅に遅れてしまって申し訳ありません……
近日中に謝罪会見を開きますのでご容赦くださいぃ……




