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遭遇

 食を求めて。

 歩くは商店通り。


 帝都ほどではないが、なかなかに賑わっていた。

 少なくともシャッター街的な寂れた感じは全くない。


『ふぅむ、結構大きい街だな』


「そうですねぇ」


『できればいろんなとこを見てみたいな』


「帝都にはない物も売ってたりしそうですね」


 などと雑談をしながら飯屋を探す。

 旅行すると屋台で買い食いとかしたくなるな。

 まあ石の俺じゃ何も食えないから、せめてアテナに食レポでも――



「アテナ後ろだッ!!」



 ――そのルミナスの声は、一瞬で俺を緊張させた。

 そして何をするより早く、アテナの後方に攻撃を放った。


『【大烈斬】ッッ!!』


 結果として俺の行動は正解だった。


 俺の攻撃は重く鋭い何か(・・)を弾き、アテナの後ろに迫っていた男を後ずらせる。


「おっと、簡単にゃいかねえか」


 そう言って不敵な笑みを浮かべる男。

 青色の短髪、筋肉質、背は高め。

 だが、そんな特徴よりも目を引くものがあった。

 ――奴の持つ得物だ。


 刃先が3つに分かれた矛を構えていた。


 ただ者ではない。

 おそらく学院教師以上に強い。


 ルミナスやトウドウも武器を構え、神経を研ぎ澄ませている。三方向から男を囲むような陣形。だが精神的に劣勢なのは明らかにこちらだ。


 この男、隙があるように見えて全くない。

 それが分かっているからか、二人ともむやみに斬りかかることはせず静かに男に刃を向けている。


 攻めるにも引くにも、まずは【看破】だ。



種族:神族

名前:アトラス

年齢:2306

レベル:1523

HP:1000/1000 MP:1000/1000


筋力:1000

耐久:1000

敏捷:1000

魔力:1000

魔防:1000


神様指数:108992


《スキル》

天球視【C】 衝天【B】

久地瞬視【B】 ゴーディアスブラスト【D】

神通力【B】 ティタノブレット【C】 


《称号》

なし



『うおおっ!?』


 おいおい……!

 神って書いてあるんだけど!


 おかしいだろ!

 神と戦うとか街中で発生するイベントじゃねえだろ……!


 しかし文句を言っている場合じゃない。

 コイツ、ステータスこそ低いがスキルが怖すぎる。できればスキルの詳細を確認したいが戦闘中だとそんな余裕はない。


 となれば……。

 

『アテナ、適当に会話して時間を稼いでくれ。あいつの能力を分析する時間が欲しい』


「は、はいっ」


 ごくりと生唾をのみこんで、アテナが男と会話を始める。


「あ、あのっ」


「む?」


「こちらへはどのようにして来られたんですかっ!?」


「……歩いてきただけだが」


「な、なるほどっ。えと、えーと……そ、その武器すごいですね! どこで手に入れたんですか!?」


「おう。これは俺が誇る神器だ。欲しくてもやらねえよ」


「神器……! す、すごいですねっ!」


「当然だ」


「う~ん……えーっと……ご、ご出身はどちらで……?」


「……突然襲い掛かった俺が言うのもなんだが、さっきからなんなんだお前は! もうちょっとマシなこと聞けねえのか!」


「あぅ……」


 なぜこんなにもマヌケっぽい時間稼ぎができるんだい相棒。時間稼ぎっていうか……初対面の人との当たり障りのない雑談だったんだが。


 こういうちょっとしたところがアテナは残念なんだよなぁ。


 ……と、それはいい。

 一応、この時間でざっとスキルを確認することは出来た。

 そして方針は決まった。


 はっきり言おう。

 こいつは3人の手には余る。余りすぎる。


『アテナ、今の三人では俺がいたとしても勝つのは無理だ。うまく撤退するんだ……!』


「わかりました……!」


 アテナは静かに念話で逃げる意をルミナスとトウドウに伝えようとする。

 ――が、それよりも先にトウドウが動いた。


 短い間合いで一気に加速し、アトラスの首に向かって刀が風を切る。


『待てッ!』


 当然ながら俺の静止など聞こえるはずもなく、


「ふッ!!」


 トウドウの刀が振り抜かれる。が、


「――横着な小娘だなァ」


 (アトラス)はニヤリと顔を歪めた。


 完全に首を捉えたと思われた斬撃は空を切る。

 と、同時にトウドウは背後から(・・・・)重い一撃を受けた。


「ぐぅッ……!!」


 まるで小石でも蹴とばすかのように、トウドウは鈍い音とともに吹き飛ばされた。


 さらに気づけばルミナスも肩にナイフを受け、苦悶の表情を浮かべている。あのナイフ自体はルミナスが持っていたものだ。おそらく暗器として放ったものを跳ね返されたのだろう。


 スキルだけじゃない。

 戦闘技術も相当なものだ。


 学院でトップクラスの二人が軽くあしらわれた。


 アテナは顔を強張らせる。


「なぜ……私たちを襲うのですか?」


「ふん。貴様らのような雑魚には興味がねえ。俺の目的は貴様が抱えている石だ」


『何?』

 

 アトラスは俺に視線を合わせ、一気に目つきが鋭くなる。


「……名も知れぬ田舎の神よ、勘違いしているようだが貴様の声は俺にも聞こえている」


『おっと……マジか』


「神が神の声を聞けるのは当然であろう」


 ということは能力の分析うんぬんとか撤退とか、いろいろ筒抜けだったと。


 こいつは失敗したぜ。

 だが逆に考えれば俺自身が交渉できるってことだ。


『聞こえているなら話は早い。確かにお前はこの3人よりは強いだろうが、その能力では俺を殺すことはできん』


「……何が言いたい」


『お前が3人のうち一人でも殺せば、俺はお前を殺す。……ここはおとなしく引け』


「それはつまり、お前が俺より強いとでも言いてえのか?」


 アトラスの眼つきがさらに鋭さを増す。


 けど……そりゃそうでしょ。

 正直、俺とアトラスだけの勝負ならステータス差がデカすぎて勝負にもならん。


 だがそれを言ってキレられたら困る。

 どう答えたものか。と、思っていると。


「だがまあ俺とお前が戦えばこの街は跡形も残らんだろう。それは俺としても本意ではないからな」


『…………』


「見かけたものだからつい反射的に手が出ちまったが、まあ仕方がねえ。この街にいる限りは戦わずにおいてやろう。命拾いしたな」


 あっちから和平を持ちだしてくれた。

 ちょっと癇に障る物言いだがここはうなずいておくしかあるまい。


『いいだろう。戦いも俺一人の時ならいつでも受け付けてやるよ』


「……ふん」


 アトラスは背を向けてつかつかと歩き出す。でかい槍を肩に担ぎながら。


 つーかなんで神様が街をブラブラしてんだよ。この街にも徒歩で来たって言ってたし、なんかガッカリだわ。


 ……しかしアトラスね。

 どっかで聞いたことがあるような……。あとでアテナに聞いてみるか。


 とにもかくにも危機は去った。


「た、助かりましたね……!」


『……ああ』


「……いったい奴は何者なんだい?」


 汗を滲ませ、大きく息をつくアテナの隣にルミナスが来る。


「ルミナス肩大丈夫!?」


「これくらいなら平気さ」


 傷は大きくはなさそうだが治療は必要だろうな。

 こういうときに回復役がチームにいてくれれば助かるんだが。


 一度受けたスキルを習得できる俺でも回復スキルは持っていないのだ。

 石ころを回復させようとする酔狂な奴は今までいなかったからな。


 そういえばトウドウも攻撃を受けていた。確認の意味で彼女の方に目をやると――


『……うおっ!?』




 ――――ブチ切れてやがる!!




「フーッ……フーッ……ッ!!!」


 そこには2本目の刀の柄に手をかけ、去りゆくアトラスを鬼の形相で睨むトウドウの姿があった。


 今にも踏み込まんとする姿勢。

 感情の希薄なアイツが激怒している……!


「トウドウさん……!?」


「お、おいっ」


 せっかく休戦となったのにここでトウドウに仕掛けられたら非常にまずい。


 ここはアテナに何とかして止めてもらうしかない。


 殺気を感じ取ったアトラスが一瞬、チラリとトウドウを見る。だが特に気に留めた様子もなく歩き去っていく。完全に相手にされていない。


「トウドウさん! 今はダメです!! 戦っちゃダメです!!」


「…………」


「トウドウさん……!!」


「……わかっている」



 チャキンと刀を鞘に納めるトウドウ。

 

 ……ううむ、やはりトウドウはまだチームプレイに不安が残る。戦闘センスだけなら抜群なんだがな。


 しかしこの後どうしたものか。


『とりあえず屋敷に帰ってルミナスとトウドウの治療をしたほうがいいだろうな』


「それがいいですね。それにしてもあの人、いったい何なんでしょうか……?」


『…………』


「ヤマダ様……?」


『……ああ、すまん。聞いてるよ。確かに奴のことは調べる必要がありそうだな』



 …………。


 アトラス。

 なぜ俺を狙ったのかはわからんが奴はなんとかしなきゃならん。危険すぎる。


 できれば俺一人で。


 うまく平和的に敵対関係を解消するか。

 あるいは――





 ――殺るしかあるまい。

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