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リヴァイアサン

 逃げよう。

 そう判断するまでに一秒とかからなかった。

 のだが、


『……自分で動けない俺が逃げられるわけないじゃんね』


 動けないことを思いだすまで5秒かかった。

 いやしかし、さすがにあんなバケモノには勝てん。


「ゴアァッ! ゴァァアアァッッ!!」


 リヴァイアサンなる怪物はご機嫌斜めなのか、暴れに暴れている。

 幸い、俺に興味は示していないようだ。ただの石と思われているのかもしれない。

 奴の眼は俺以外の周囲の雑魚モンスターたちに向いている。


「グギャガァッ!」

「グェッ! グェッ!」

「ギギィ!」


 深海魚のような見た目の魔物たちが次々と肉塊になっていく。

 これがリヴァイアサンのお食事なのか、あるいは憂さ晴らしなのか知らないが無残に殺されていく魔物たち。


 あたりには瀕死の状態でギリギリ生きているモンスターもたくさんいた。

 これは利用できるんじゃないか?

 レベルアップのチャンス。そう考えることもできる。


「ボボッ! ボォ!」

『む、あいつ死にそうだな』


 ヒレを片方失ったマンボウのような魔物に焦点をあて、【看破】を発動する。


種族:マンボティス

名前:カルロス

年齢:53

レベル:47

HP:95/2300 MP:550/3000


筋力:295

耐久:330

敏捷:228

魔力:300

魔防:195


《スキル》

硬化【G】 暗視【G】


《称号》

なし


 よし、ちょうどいい。

 このマンボウ型の魔物が俺の目の前に来たタイミングで【サイレントバイト】を撃ち込む。斬撃はマンボウへと吸い込まれるように向かっていき、


「ボッ!?」

『よし、命中だ!』

《マンボティスに勝利しました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》


 一撃でマンボウは息絶え、だらりと弛緩して沈んでいく。

 そして俺のレベルが上昇する。いいね。


 この調子で次もいくか。

 今度はサメ型のモンスターに狙いをさだめ、【サイレントバイト】をいつでも放てるように準備した。


「――ッ! ――ッ!」


 よろよろと血を流しながら近づいてくるサメ。



種族:ブルータルシャーク

名前:ジョージ

年齢:38

レベル:59

HP:123/5000 MP:40/2000


筋力:520

耐久:221

敏捷:470

魔力:189

魔防:95


《スキル》

鮫肌【G】 ウォーターカッター【G】


《称号》

なし



 さあ、俺の糧となれ。

 くらえ、【サイレントバイト】っ!


「ッ!?」

《ブルータルシャークに勝利しました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》


 俺の【サイレントバイト】の威力も上がり、今回はサメの身体を真っ二つにするに至った。

 ステータスの上昇に比例してスキルの威力も上がっているようだ。


 ジェイコブの形見となったこの【サイレントバイト】というスキル、かなり便利だ。

 音を立てることなく相手にキツイ一撃をお見舞いできる。


 うむ。素晴らしい。

 しかし自分で動けたのならもっと効率的にレベル上げができたものを。


 いや、これだけレベルが上がってスキルが強くなれば遠距離でも狙えるかもしれない。

 よし、ものは試しだ。


 俺はゆっくりと次の標的であるミノカサゴ型の魔物に照準を合わせる。


『せいっ!』


 牙のような形をした斬撃っぽいものが俺から飛び出す。

 音もたてず暗い水中をまっすぐ進み、狙い通りにミノカサゴ型の魔物に――


「ミヌォッ……!」


 当たる直前にミノカサゴは突然現れた巨大な尾にはじかれてしまった。

 そして俺の攻撃はミノカサゴの代わりにトンデモないものに当たってしまった。


「ゴアァァアァアアッッ!?!?」

『あっ…………!』


 周囲の魔物を蹂躙なされていたリヴァイアサン氏だ。

 流れ弾が彼(彼女)に当たってしまった。


 ギュルンッ、と巨大な頭が俺を視界に捉える。

 あわ、あわわわ……。


 いきなり攻撃されて怒り心頭といったご様子だ……!


 頭だけで20メートルはあろうか。

 金属光沢のある鱗をまとい、竜のような顔をした怪物と必死ににらみ合う小石。

 全長は数百メートルになるんじゃなかろうか。


「ゴアァ……ァァアァ……」

『これは、その……! リヴァイアサン、いえ、リヴァイア様のお手伝いをと……周りの愚民どもの排除をお手伝い出来たらと……その……』


 しどろもどろになりながらも俺は懸命に自己弁護を図った。

 だがそんな俺に対し、リヴァイアサンの答えは非情なものだった。


 奴がすぅっ、と周りの水を吸い込んだかと思うとその直後、心臓を渾身の力で殴られたかと思うほどの衝撃が俺を襲った。


『ぐっ……ああぁあッ……!!』

《スキル:【フラッドストライク】を獲得しました》

《スキル:【魔力効率】を獲得しました》


 痛ってぇ……ッ!!

 いや痛みはないんだが、痛みを錯覚してしまうくらいに今のはヤバかった……!


 これは確実にダメージを負った!

 感覚でわかる。これはダメな奴だ……!


 後方に吹き飛ばされながら、俺は自分のステータスを確かめる。



種族:不思議な石

名前:山田

年齢:17

レベル:42

HP:15000/30000 MP:30000/30000


筋力:0

耐久:60000

敏捷:0

魔力:60000

魔防:60000


神様指数:0


《スキル》

神通力【B】 看破【C】 天変地異【ER】

暗視【G】 サイレントバイト【F】

フラッドストライク【D】 魔力効率【E】 


《称号》

なし



 レベルアップのおかげでHPの最大値が30000まで上がっている。だというのに今は15000/30000。

 つまり半分だ。今の一撃は15000ダメージだったってわけだ。


 もう一発食らえば死ねるぞ……。


 だが奴はもう一度すぅっと周りの水を飲み込む仕草をしている。

 また同じスキルを使う気か。


「ゴァッッ!!!」

『ぐッ……! 【フラッドストライク】ッ!!』


 先ほど得たばかりのスキルを唱える。

 瞬間、水流と水流が激しくぶつかり合った。


「ガァァアァアッッ!!」

『ぐぬっ……くうっ……ッ!!』


 激流同士が衝突し、拮抗する。

 だが徐々に押され始めた。


『ぐあぁッ……!』


 ついに押し切られ、さらにダメージを受ける。

 とはいえ、ある程度は軽減できたのでさっきほどの大ダメージではない。


 おそらく奴が使っているのも同じ【フラッドストライク】だ。同一スキル同士がぶつかるのでその威力はほぼ同等だ。

 しかし魔力のステータスでは俺よりリヴァイアサンの方が上だ。


 くそっ。

 奴と同じスキルを得てもこのままでは負けは必至だ。

 HPは12000/30000になっていた。


「グルォォアアァアッッ!!!」

『むっ、なんだ!?』

《スキル:【大崩水】を獲得しました》


 奴の咆哮と共に俺は巨大な渦に包まれた。

 渦は徐々に狭くなっていき、鋭く重い金属で斬り付けられるような衝撃が全方位からやってくる。


 さっきの【フラッドストライク】にくらべると瞬間火力は劣るが、持続的にダメージが入ってくる嫌なスキルだ。


『うぎぎ……!』


 ダメージ的には200ダメージ毎秒ってところか……!

 何とかしてこの渦から脱出する必要がある。


『【フラッドストライク】!』


 奴からもらったと思われるスキルを放つ。水の轟砲が周りを巻き込んで海中を貫く。

 結果、うまく渦を消し去ることに成功した。


『よし! ――え?』


 渦からの脱出に成功した俺だったが、状況は喜べるものではなかった。

 渦が晴れ、俺の目の前にあったものは巨大な牙だった。


「ゴォアアアァアッ!!」

『く、食われ――――』


 理解する間もなく、俺はリヴァイアサンに飲み込まれてしまった。

 みるみる内に奴の腹の奥へと押し込まれ、消化液の海に飛び込むことになってしまった。


 あたりにはドロドロになって原型をとどめていない魔物だったものが山のようにある。

 ジリジリと焼けるような感覚。

 溶かされている。この石の身体が。


 スリップダメージが着実に入ってくる。

 まずい。非常にまずい。

 このままだと俺のHPは持って10分程度。


『【フラッドストライク】! 【フラッドストライク】!』

「ゴギャゥアアアァアッッ!?!?」


 連続でスキルを撃つ。

 くっ、奴の腹を貫通するには至らないか。



種族:リヴァイアサン

名前:アナスタシア

年齢:597

レベル:6500

HP:150000/180000 MP:40000/95000


筋力:46700

耐久:38000

敏捷:55080

魔力:87000

魔防:67900


《スキル》

フラッドストライク【D】 大崩水【D】

魔力効率【E】 自動回復【C】 大薙ぎ【F】

神格(準)【B】


《称号》

海の支配者



『マジか……』


 ダメージも入っていないわけではないが思ったよりは効いていない。

 この【フラッドストライク】を使い続けても先に俺のHPがなくなるではないか。


――(HP:10000/30000)


 何か……何かないか?

 この状況を逆転できる一手が。


――(HP:7500/30000)


 時間だけが経っていく。

 焦るな。焦って思考が乱れればいよいよ勝機がなくなる。

 クールになるんだ、山田。


――(HP:4700/30000)


 ……いや、あるじゃないか。

 俺もダメージを負うかもしれないがこのまま死ぬよりゃマシだ。


『リヴァイアサン! 悪いが死んでもらうぜ! ――――【天変地異】ッッ!!』


 ドッ――。

 鈍い音が水中を伝う。


「ゴッッ……ギャゥァアァアアアァアッッッ!!!」


 リヴァイアサンの身体が裂け、あちこちから血が勢いよく吹き出す。

 さらには捻じれ、千切れ、爆散する。


 本来は自然に対し行使するスキルを受けたのだ。

 いかにリヴァイアサンといえど、到底耐えられるものではない。


『へへっ、やったぜ……』


 といったのものの、俺もギリギリの状態だった。

 HPは1000を切っていた。しかもなんだか、少しずつ意識が遠のいてきた。


 MPのところを見ると見事にゼロになっている。

 これはあれか。MPが切れると気絶する仕組みらしい。


「グギャオォォアォッッッ!!?!?」


 のたうちまわるリヴァイアサン。

 裂けた腹から俺は海に放り出される。


 ズタズタに引き裂かれ四散する奴を眺めながら、俺はついに意識を手放した。

 そしてとうとう海の底へと沈んでいくのだった。



《リヴァイアサンに勝利しました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《称号:【海の支配者】を獲得しました》

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