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戦いの結末

 決闘を終えて――。

 学院を出てすぐの小道、俺とアテナは無言で歩いていた。


『…………』

「…………」

 

 結論から言おう。俺たちは勝った。

 快勝、圧勝。文句のつけようもなくアテナ陣営の勝利に終わった。

 それ自体いいことなのだが……。


「…………」


 神妙な顔をして歩を進めるアテナを見ると、俺はあまり喜ぶ気にはなれなかった。


 俺たちが無言でいるというのは珍しい。俺とアテナは特段事情がなければ雑談ばかりしている。


 ではこうして口を閉ざしているのはなぜか。


 それはもちろん特段の事情があったからである。

 すなわち、俺たちは――


 ――トウドウの試合を見て言葉を失っていた。

 





 

 アテナとヴィクタスの試合の後、すぐにトウドウ戦が始まった。始まったと同時に終わった。比喩ではなく、一秒とかからずに決着がついた。


 一閃。

 ただの一振りだった。


 試合開始と共に音もなく加速したトウドウはヴィクタスの防護壁を斬ったのだ。その刃はヴィクタスの制服のブレザーのみを正確に引き裂いていた。


 まさしく瞬殺。『瞬きの間に殺す』、とはこういうことを言うのだろう。


 かなりレベルの高いルミナスさえ幾重にも斬撃を重ねてようやく破った防御を、たった一手で超えたのだ。


 レベルでいえばアテナやルミナスの方がトウドウより上だ。

 ステータスも総合的に言えばトウドウより二人の方が高い。

 だが。



種族:人族

名前:ミタマ・トウドウ

年齢:14

レベル:30

HP:3000/3000 MP:2900/2900


筋力:702

耐久:43

敏捷:639

魔力:24

魔防:39


《スキル》

抜刀斬り【F】 剣術【G】

雷霆斬【E】 カマイタチ【F】

鬼火【G】 心眼【F】 閃域【F】


阿修羅【D】


《称号》

なし



 極端なまでの筋力・敏捷特化型。

 1000年生きる俺でもこんな偏ったステータスは見たことがない。というか、普通はこんな風にステ振りできない。


 ステータスは戦闘においてよく使う能力が伸びやすい。

 例えば魔法を主に使うものなら魔力が、ガードを多用するものは耐久が伸びやすいのだ。


 けれど、特定の能力を使わない(・・・・)ようにする(・・・・・)ことはほぼ不可能だ。


 誰しも不意に手をかざしてガードしてしまう時はあるし、魔法系スキルがあれば当然使う。というか、攻撃を受ければそれだけで耐久か魔防のステ上昇に影響がある。


 だからこそ彼女のステータスはあり得ない。


 あの能力値を得ているということはつまり……トウドウはこれまでの人生で攻撃を一切受けず、防御姿勢さえ取ったことがないということを意味するのだ。


 彼女はこれまでどういう生き方をしてきたのだろうか。


 だがまあ……新しい仲間が強いってのはやっぱりいいニュースだ。決闘に勝って仲間が増えて。ひとまず順調と言える。


 だというのにアテナはどうしてこうも複雑そうな表情をしているのだろうか……?






 * * *






 さて、決闘の話はもういいとして。

 今俺たちは見慣れた木の扉の前にいた。


 そしてギギ、と少し鳴るその扉をくぐると――そこは楽園(エデン)であった。


「いらっしゃい。いつも悪いわね、アテナちゃん」

「いえ、今日もよろしくお願いします」


 例によって今日はバイトである。


 森羅万象を浄化し得る微笑みとともに、大天使エフィエル――もとい、エフィさんが迎え入れてくれる。


「じゃあ今日はこの本を持ってもらってその椅子に座ってもらえるかしら?」


 聖書っぽい分厚めの本を渡される。

 元から文学少女風な雰囲気のあるアテナには本が良く似合う。どうせなら眼鏡もかけてください。


 本の真ん中あたりを開いた状態で椅子に腰かけるアテナ。

 アテナがポーズを整えたのを見てエフィさんも筆を握る。そしてサラサラとキャンバスに筆を走らせて言った。


 ……が、数分するとピタリと筆が止まった。


「アテナちゃん、何かあった?」

「……え?」

「なんだか元気がないような気がするわ」

「それは……いえ、そうですね……」

「私なんかで良ければ相談に乗るわよ?」

「……悩み、と言うほどのものではないんですけど……少しモヤモヤするんです」


 そう言ってアテナはトウドウのチーム入りに関して起こった一連の話をした。



「……そんなことがあったのね」

「ですがトウドウさんの行動にどうしても違和感を感じてしまうんです。なにかこう……はっきりしないと言いますか……」

「そうかしら? 話を聞いて、その子はとても一生懸命な子だと思ったけれど」

「一生懸命……?」

「ええ。そのトウドウさんっていう子、すごく必死に頑張っている子だと思ったわ」

「必死、ですか……」


 おお、さすが聖なる大天使。

 優しさに溢れている。ふんわりした純白の髪も相まってもう天使にしか見えない。


《エフィ・アキウスを【天使】に登録しますか?》


 何を言っているのやら。

 登録するも何も、彼女は既に天使にして聖女。慈愛の権化である。


《了解致しました。エフィ・アキウスを【天使】に登録しました》


『…………ん?』


 あれ、俺は今何を……?


「あら……?」

「エフィさん、どうかしました?」

「急にステータスが……」

「ステータス?」

「い、いえ、大したことじゃないのよ。大丈夫よ。……たぶん」


 しきりにエフィさんが首を傾げている。

 嫌な予感がする。

 ……ちょっとエフィさんのステータス覗いてみるか。 



種族:天使

名前:エフィ・アキウス

年齢:21

レベル:10

HP:2000/2000 MP:2000/2000


筋力:200

耐久:200

敏捷:200

魔力:200

魔防:200


《スキル》

ヒール【F】 飛行【G】

山田の加護【C】 神格(準)【D】

預言【E】


《称号》

天使(ヤマダ神族)



 ……ダラダラと冷や汗が出始めた。

 やばい、エフィさんを物理的に天使にしてしまった。

 違うんだ。そんなつもりじゃなかったんだ。信じてくれ。


 エフィさんは「何かしらこれ……」と言いながらも絵描きを再開した。……まあ天使になっても実害はなさそうだし大丈夫だろ。うん、きっと大丈夫。


 ……でもアテナにはこのことは黙っておこう。言ったらさすがに怒られる気がする。


 と、そう考えていた俺にアテナの小さな声が飛び込んできた。


「……ヤマダ様、私わかったかもしれません」

『ぴぇッ!?』


 ッ!?

 光の速さでエフィさん天使化事件が発覚してしまった!?


「トウドウさんが何を考えているのか、何を求めているのか……わかった気がします」

『あ、ああ……。そうか、それはいいことだ、うん』


 良かった。気づかれていないようだ。


 確信を得たような、真っ直ぐの目のアテナ。

 目が泳いでいる俺。

 



 そこから先の会話はあまり覚えていない。

 ただ俺の失態が明るみに出ないことだけを祈りながら過ごしていた。


 

ヴィクタス君、オーバーキルしてしまって申し訳ありません。ヴィクタス君の今後のご活躍をお祈り申し上げます。

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