ヴィクタス戦
先に動いたのはルミナスだった。
正面から勢いを乗せて斬りかかる。動きこそ単調だが――純粋に素早い。避けるのは至難の業だ。
「【リーンフォース】……ッ!」
ギリギリのところでヴィクタスがローリングで躱す。身体能力を強化するスキル、【リーンフォース】があってこその反応速度だ。
だが、
「うおっ……!?」
直後にその足を地面に縫いつけるようにナイフが裾を貫く。
ルミナスの暗器だ。隠し持った武器をノールックノーモーションで投擲する技。地味だが強力だ。
「ぐッ……くそっ!」
ナイフを引き抜こうとする間に再度ルミナスの刃がヴィクタスに振り下ろされる。
「ッ! 【エリアプロテクト】!」
ルミナスの一閃が障壁に当たり火花を散らした。
その隙にナイフを裾から外したヴィクタスは大きく後退する。間合いを開けてヴィクタスはなんとか体勢を整える。
「はあっ……はあッ……!!」
「…………」
ヴィクタスが肩で息をしているのに対し、ルミナスは涼しい顔をしていた。すでに2戦終えているというのに息を切らしていないのだ。
「はあッ…はぁッ……ひとつ聞きたい」
「なんだい?」
「お前は魔族であることが公になる前からヘカテイアとつるんでいたな。……なぜだ? お前ほど腕の立つものがなぜ弱者であるヘカテイアの下にいる?」
その言葉にルミナスの眼がわずかに鋭くなった。
「……君はいくつか勘違いしてるよ。ボクが強くなったのは最近だし、ボクとアテナの間に上下関係はない。そして――」
ルミナスの姿が消える。
「――ッ!?」
咄嗟にヴィクタスは【エリアプロテクト】で周囲に防壁を張る。目をギリギリまで見開き、ひたすらに周りを警戒する。
だがヴィクタスの防御は無意味に終わる。
なぜなら、
「うおっ……!?」
攻撃は彼の真下からやって来たからだ。
突風がヴィクタスを防壁ごと真上に吹き飛ばす。ルミナスの【ウィンドブレス】である。
地面から数十メートルは離れた上空に投げ出されるヴィクタス。
そこへ容赦のない斬撃の雨が襲う。
「ぐっ……ぬううっ……ッ!!」
空中で身動きできないヴィクタスを襲う輝く円弧。姿を捉えられないまま、斬撃の残痕だけが彼の脳裏に焼き付く。
目にも止まらぬ流れるような斬閃。
ピシリ、とヴィクタスの防壁がついに悲鳴を上げる。
と、次の瞬間。
「【ウィンドブレス】!」
「……ッ!?」
ルミナスが真上から風魔法を叩き付けた。
急加速して落下するヴィクタスは当然の如く地面に打ち付けられる。
「ごほぁッ……!」
防壁で衝撃を殺しきれず、少なくないダメージを被る。だがこれで終わりではない。すなわち、上空から勢いをつけてダガーを振り下ろすルミナスがいた。
「はあああああッッッ!!!」
二本の刃を一点に集中し、防壁を打ち破る。
さらに流れるような動作でヴィクタスの首元にダガーをそっと這わせる。
「なっ……!?」
「君の一番の勘違いを教えてあげるよ。――アテナは君ほど弱くないよ」
ルミナスさん、おこであった。
首に刃を向けられた、つまり、明確な敗北を突き付けられたヴィクタスは歯を食いしばっていた。
今まで勝ち続けたであろう彼の初めての惨敗である。
「~~~~ッ!!」
悔しさに満ちた表情をしながら、ヴィクタスは震えていた。降参こそしていないが誰が見ても彼の負けだ。
審判であるギリアムが右手を上げる。
「しょ、勝者! ウル――」
「先生」
ギリアムの声を遮ってルミナスが口を開いた。
「な、なんだ……?」
「すみません、棄権します」
「なにっ!?」
『はあっ!?』
まさかの勝利目前、否、勝利を掴んでからの棄権。サレンダーである。
「い、いいのか……?」
「はい」
「もう一度聞くが、本当に棄権するんだな?」
「お願いします」
「う、うむ。ではウルティメオの棄権により勝者ヴィクタス・フェイル!」
会場に響き渡る声で宣言するギリアム。だが会場は湧き上がることなどなく、むしろ静まり返った。
そして一拍置いてから急にどよめきだした。
「お、おい、どういうことだよ……」
「今、ヴィクタスやられてたよな?」
「何が起きた?」
ざわついているのはアテナも同じで困惑した表情を浮かべていた。
だが当のルミナスさんはというと、実に涼し気な表情で控えベンチに戻ってくる。
「ル、ルミナスどうしたの……? おなか痛いの?」
「いやあ、ボクが勝っても仕方ないかなって」
「??? どういう意味?」
「あのいけ好かない男にアテナの力を見せてあげたくなってね」
そう言って水色の髪の少女はニヤリと笑みを浮かべる。アテナのことを弱いといわれたのがルミナスの癇に障ったようだ。
それならばまあ仕方あるまい。戦ってやるしかないな。
それにこれはいい機会だ。ヴィクタス以外にもアテナのことを舐めきってる連中はまだ多い。事あるごとに見下されたり馬鹿にされたりといい加減うんざりする。
ここらでヴィクタスをボコればそういうのも収まるかもな。
『さて、俺たちの出番だ。さっさと片づけちまおうぜ』
「は、はい! 頑張ります!」
『アテナ、試合が始まったら【憑依】してゆっくりヴィクタスの方へ歩いていってくれ。それ以外は何もしなくていいぞ』
「……? わかりました!」
見ていろ。
俺が最高の試合を演出してやる。
そして試合が終わった頃にはきっと誰もがアテナに敬語を使い、首を垂れることになるであろう。
アテナが少し緊張した足取りで闘技場の中央にたどり着いたところで、ギリアムが口を開いた。
「よし。ではこれより第4試合を始める。両者構え!――――始めぇっ!!」
「【憑依】!」
開始と同時にスキルを使う。うむ、それでいい。
『【火炎放射】!【ブラスト】!』
――ドゥンッ、と。
まるで膨大な力が溢れているかのように炎が渦となってアテナを取り巻き、同時にバチバチと雷電を帯びた嵐が吹き荒れる。
アテナから強大なエネルギーが溢れ出ている――――わけではなく、そんなカンジにバトル漫画っぽく見えるようにスキルで演出しているだけである。
ついでにちょっとだけアテナ本人の方にも風を送って伝説の戦闘民族の如く髪を逆立たせておく。
「ええっ!? ヤ、ヤマダ様なんですかこれ!?」
『どうだ? かっこいいだろ?』
これぞスキルを駆使した演出。まあただのエフェクト付けである。戦闘に役立つような使い方じゃないけど、こういうのあった方が熱いじゃん。
「ひっ、ひいいいいいいいっっっ!?!?」
そして効果はてきめんでヴィクタスは涙目で尻もちをついた。
よおし、では次のステップだ。
『じゃあアテナ、ヴィクタスの方へ歩いてくれ』
「は、はい」
アテナが一歩踏み出す。
それにあわせて【神通力】で地面に亀裂を生じさせる。
「ひゃっ!?」
『地割れは気にするな。俺のスキルだ』
「わ、わかりました」
アテナはさらに一歩、炎と嵐で闘技場全体を揺らしながらヴィクタスへ近づく。
「バッ、バケモノッ!? 来るな……来るなああああッッ!!!」
腰が抜けたままヴィクタスはいくつも魔弾を放つ。が、それはアテナに当たる前に嵐によってかき消される。
いくら撃とうともアテナへ届くことはない。
彼の攻撃はアテナの歩く速度を遅くすることさえ叶わなかった。
「こ、これはなんだか悪い気が……」
『気にするな。ちょっとお灸を据えてやることも必要なことだ』
「う~ん……」
ちょっと困った顔をしながらも、アテナ、いや超アテナはヴィクタスとの距離を詰めていく。
「やめろぉッ!? 【エリアプロテクト】、【エリアプロテクト】、【エリアプロテクト】!!」
涙を流しながらもヴィクタスは防御壁を三重に展開する。
……のだが、まあ。
――バリィンッ
案の定アテナが踏み込んだだけで三枚とも砕けてしまった。
「ぴゃあああああ!?!?」
プライドを捨てて泣き叫ぶヴィクタス君。
ガタガタと震え、顔が引き攣っている。
……さすがにやりすぎたかな。
そろそろ終わりにするか。
『アテナ、軽くヴィクタスを…………アテナ?』
ちょっと気まずそうな顔をしている我が相棒。
「さすがにこれで勝ってしまうと申し訳ないというか……」
アテナはなんというか、罪悪感を感じているようだった。
「すみませんヤマダ様……私も棄権しようかと思います」
『ええ!?』
「……できればトウドウさんと戦わせてあげたいんです」
『けど……』
「この戦いはやっぱり“二人の決闘”だと思うので」
『……そうか』
確かに元々はヴィクタスとトウドウの問題だ。
アテナの意見にも一理はある。
そして俺は基本的にアテナの意思は尊重する。
ということで、
「すみません、ギリアム先生」
「ほわあっ!? へ、へへへ、ヘカテイアァッ!? 近寄るんじゃないッ!」
「あの、棄権したいんですが……」
「わかった! お前の言うとおりにする!! だから何もするなっ、いいな!?」
「は、はい」
ギリアム先生の腰も抜かしてしまうという事故もありつつ、アテナはサレンダーするのだった。
すみません……
少なくとも6月中旬くらいまではこれくらいの投稿ペースになりそうです……。
また時間取れるようになったらペース上げます。




