決闘
そしてあっという間に1週間が経ち――
「両チーム先鋒、位置に!」
この日を迎えていた。
審判を務めるギリアム先生の声でルミナスと相手の先鋒――ディオニスが闘技場の中心に歩いていく。
ちなみに、こういう決闘は申請して学院から許可が出れば誰でもできるらしい。
「おおっ! 早速ディオニスだ!」
「前衛科と偵察科の格の差を見せつけてやれ!」
「ディオニス! ディオニス!」
想像以上にギャラリーも多い。
武装科首席のトウドウと支援科首席のヴィクタスというビッグネーム同士が戦うかもしれないのだ。注目度も高いのだろう。
順番については話し合いの結果、
先鋒:ルミナス
中堅:アテナ
大将:トウドウ
となった。対する相手の布陣は、
先鋒:ディオニス
中堅:フリートリア
大将:ヴィクタス
という予想通りのものだった。
「おい、別に俺は格下をいたぶる趣味はねえからよ。ヤバいと思ったらすぐにギブアップしろよ」
「お気遣いどうも」
睨み合う両者。
ディオニスが静かに鞘から剣を抜き、真っ直ぐに構える。同時にルミナスも服の袖からダガーを出す。
ディオニスの剣。見るからに高そうだ。金属の質感がただの鉄とは格段に違う。
「ウルティメオ、この剣がわかるか?」
「……? さあ」
「これはミスリル鋼を名匠ガラムが一から鍛えたこの世に二振りと無い名剣だ」
「そうかい。僕のダガーはただの量産品だよ」
「量産品……? ク……ククッ……いやすまんな。俺は安い剣など持っていないからな。悪いがこの剣で行かせてもらう」
「お好きにどうぞ」
「まあ武器の性能差があった方が負けた時の言い訳ができてお前にも都合がいいだろう」
「…………」
さあどうなるか。
筋力ではおそらくディオニスが上。だが敏捷性でいうならルミナスに軍配が上がるのではないかと俺は予想している。
ギリアム先生がすうっと息を吸い込んだ。
「――始めッッ!!」
ついに初戦が始まった――!
と、思ったら突然ルミナスがくるりと背中を向けてすたすたと控えベンチに向かって静かに歩き始めた。
「なんだ……? あきらめたか?」
呆気にとられたディオニスがその背中に問う。
だが、その横でギリアム先生は驚愕に目を見開いていた。
両陣営のトウドウとヴィクタスも同様。彼らにはちゃんと見えていたのだろう。
「お、おい……!」
ディオニスが再度声を上げる。
奴は気づいていないのだ。
――既に自分が負けているということに。
耐え切れずディオニスは一歩踏み出す。それと同時に彼の剣のちょうど上から半分がポトリと地面に落ちた。
「……は?」
そう。
ルミナスは開始と同時に剣身を切り落としたのだ。常人では目でとらえることもできない速度で。
奴の眼ではこの速度についてこれなかったのだ。もっと修行するんだな、未熟者め。
「わあっ、ヤマダさん! 今何が起きたんですか!? 剣が突然折れましたっ」
『…………』
ここにもついてこれなかった奴がいた。まさかの我らがリーダーがヤムチャ枠だった。
しかし俺も驚いた。
こんなに強くなってたんだ……。いやはや、想像以上だ。
「ウ、ウルティメオ……! 何をした……俺の剣に何をした!!」
足を止め、振り向くルミナス。
「量産品のダガーで名剣とやらを斬っただけさ」
「なっ……! ぐ……だがまだ勝負は着いていないぞ!」
「そうかい。そう思うならもう少し付き合ってやろうじゃないか」
ルミナスが足に力を込め、スタートの構えを取る。
が、ルミナスが駆ける前にヴィクタスが叫んだ。
「ディオニス! 下がれ!」
言われ、ディオニスはハッとヴィクタスの方に顔を向ける。
「で、でもよ……!」
「武器を破壊された時点でお前の負けだ。これ以上恥をさらすな」
「…………ッ!」
ディオニスは歯を食いしばり俯く。
それから目を強く瞑って折れた剣を鞘に戻した。
「こんなのマグレだ……。クソッ……!」
ディオニスは憎々しげに棄権を宣言した。まずは1勝である。
控えベンチに戻るディオニスと入れ替わるように、大きな杖を持った女の子が闘技場の真ん中に向かって歩いていく。ヴィクタスチームの中堅、フリートリアだ。
……かわいいな。
やばい、応援したくなってきた。
一戦目と同じように中心部のラインに向かい合って並ぶルミナスとフリートリア。と、ルミナスと目が合ったフリートリアが不敵に笑った。
「結構やるみたいね」
「……どうも」
「でも私はディオニスのようにはいかないから」
「…………」
緊迫感が広がる。フリートリアは確か後衛科。つまり魔法系スキルで攻撃する後方火力職だ。距離を取られたら厄介だぞ。
「それでは両者位置について――始めッ!」
ギリアムが第二戦の開始を告げる。
その声の終わりと同時にフリートリアの真後ろで火花が散った。ギィン、という金属音が会場に響き渡る。
見ると、彼女の背中から迫ったダガーが半透明の障壁に阻まれているようだった。
「へえ……事前に防御壁を張っていたか。確かにさっきの男とは違うみたいだね」
そう言ったルミナスの手を見ると、何か糸のようなものを操っていた。どうやら、ピアノ線のようなものをダガーに括り付けて背中から奇襲をしたらしい。容赦なさすぎ。
「ひっ……ひぃ……!」
フリートリアちゃんが青ざめる。が、すぐにルミナスのほうをキッと睨む。
「【土流槍】!」
ルミナスの足元の地面が隆起し、槍の形となって突き出す。ルミナスは難なく躱すが、移動した先から次々に土の槍が飛び出してくる。
「さあ、いつまで避けられるかしらっ!?」
フリートリアが杖を振るう。そのたびに土の槍がルミナスへ迫る。だがルミナスに焦った様子はなかった。
躱す最中にちらりと横目でフリートリアを見ると、直後。一気に地面を蹴って肉薄する。
「きゃあっ!?」
ガキンッ、と振り下ろした短刀が再び障壁に阻まれる。眼前に突き付けられる刃に、怯んだフリートリアは杖を落としかけるがすぐに持ち直してスキルを唱える。
「【ウィンドカッター】!」
「ッ!」
瞬時に身を翻し、一重のところで風の刃を躱す。そのまま距離を取り、再び闘技場内を疾走する。
フリートリアの障壁を見ると所々ヒビが入っていた。一見便利に見えるバリアだが、維持にも魔力が必要なうえ、強度にも限界があると見える。
「【ライトニングバレット】!」
いくつもの魔弾がルミナスを狙うがことごとく躱されていく。逆にフィールド中を疾走するルミナスはヒット&アウェイを繰り返し、着実にフリートリアの防壁を削っていった。
ここまでいくとどっちが優位かは明らかだった。
額に汗を浮かべ、フリートリアは唇を噛み締めていた。
そしてその時は来た。
「【ウィンドブレス】……!」
「ひゃ……!?」
ガラスが砕けるような音。
【ウィンドブレス】で威力を上乗せされた、ルミナスの投擲したダガーが障壁を突き破ったのだ。
ダガーはフリートリアの頬を掠め、後方の地面に深々と突き刺さった。
すぐさまルミナスは地面を蹴り、2丁ダガーのスタイルで近接し――
「こっ、降参!! 降参します!!」
フリートリアが両手を挙げた。
まあこうなっちゃ勝ち目無いよね。ルミナス、2勝目である。
ズザザッ、とブレーキをかけて止まるルミナス。表情は相変わらずのポーカーフェイスだった。かっこいい。とても昨日バニー姿であわあわしていた子には見えない。
これでヴィクタス陣営は早くも2敗だが、当のヴィクタス本人は意外にも焦った様子はなかった。どころか、腕を組んで偉そうにルミナスを観察していた。
「なるほど……思ったよりまともなチームらしい。だがな……闘技場のような近接しやすいフィールドで遠距離型のフリートリアに勝ったからと言って自惚れないことだな。残念だが俺は甘くはない」
言いながら、控えベンチから立ち上がる。
そして堂々と闘技場の中心に向かって歩いていく。
「おおっ!? ついにヴィクタスが出るぞ!」
「ヴィクタス様~~!!」
ギャラリーも一気に盛り上がる。ディオニスと違って女の子の声援が多い。頑張れディオニス。
「悪いが一瞬で決めさせてもらう。俺はあくまでもトウドウと決着をつけたいだけなんでな」
「……早めに終わらせたいってのには同意だね」
対戦相手同士が向かい合う……というのは前の2戦と同じだが、明らかに空気感が違う。ここまで2連勝のルミナスだが、さてどうなるか。
……というかルミナス、俺が思ってるより強かったな。そういえば襲撃事件からステータスを覗いてなかった。一応確認しておくか。ついでにヴィクタスのも。
種族:サキュバス
名前:ルミナス・ウルティメオ
年齢:14
レベル:41
HP:4800/4800 MP:3700/3700
筋力:280
耐久:267
敏捷:589
魔力:465
魔防:366
《スキル》
短刀術【G】 投擲【G】
ウィンドブレス【F】 飛行【G】
吸精【F】 魅了【F】 高速飛行【F】
ハイディング【G】 エリアサーチ【F】
山田の加護【C】
《称号》
なし
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種族:人族
名前:ヴィクタス・フェイル
年齢:14
レベル:29
HP:3000/3000 MP:2500/2500
筋力:189
耐久:201
敏捷:177
魔力:212
魔防:153
《スキル》
エリアヒール【F】 ピュリファイ【G】
ヒール【G】 リーンフォース【F】
エリアプロテクト【F】 アンチマジック【F】
リジェネレイト【E】 スパークライナー【E】
《称号》
なし
……あかん。ヴィクタス君あかんで。
すべてのステータスでルミナスが大きく上回っている。例の騒動で俺が魔物とか倒した時にパワーレベリングされたのだろう。以前よりかなり強くなっている。
申し訳ないがヴィクタス君の手に負える相手じゃなかった。
途端にヴィクタスが可哀想に見えてきた。
「安心しろ。強者たる俺は弱者をなぶる趣味はない。……5分、それだけあれば十分だ。俺の力にひれ伏すがいい」
やめて!
ヴィクタス君もうしゃべらないで!
「では二人とも準備はいいな?」
審判であるギリアム先生が右手を上にあげる。
「――第三試合、開始!」




