研究部屋にて
連れていかれた先は6畳ほどの研究室だった。コンクリ……ではないと思うが、白い石の壁で囲まれているような無機質な部屋だ。
「よいしょ……っと」
トウドウによってなにやら実験器具のような台に固定される。ちょっときついな……。【神通力】で緩めよう。
――バキッ!
「ん?」
『あ……』
しまった。
例の騒動で『神様指数』が上昇したおかげで【神通力】も強くなってるんだった……。加減を間違えて固定具を折ってしまった。すまんな。
「おかしいな……。この前取り替えたばかりの新しい器具なのに。……まあ良いか」
トウドウはカチャカチャと機材を弄り、ロボットアームみたいなものの先端を俺に寄せる。そのアームの先っぽにはなにやらレンズっぽいのが付いていた。
これは顕微鏡をデカくしたような奴かだろうか。レンズ越しにトウドウに眺められている。
「んん……見たところやはり粗悪な魔石だが……」
そんなに粗悪粗悪言わないでほしい。
これでも傷ついているのだ。
「こんなものでなぜヘカテイアはあんな強力なスキルが撃てるのか……」
トウドウは顎に手を当て、眉を寄せている。
「ともかく使ってみるか……」
そう言ってトウドウは俺を掴み、スキルを唱える。
「【鬼火】」
おわっ。
体の中に魔力が流れてくる……。どうしよう、どうやって出そう。あんまり威力あげちゃ不審がられるよな……。適当に弱めて出すか。
ボウッ、と空中に小さめの狐火のようなものが浮かぶ。
「ん……?」
その狐火を訝しんで見るトウドウ。
あれ、なんか間違えたか? さすがに弱くし過ぎたか……? ちょっと強めておこう。
俺が力を入れると、火の大きさが少し増した。
「んんん……!?」
だがトウドウはむしろさらに眉を顰める。
やばっ、なんか怪しまれている。
これ以上下手にボロを出す前にスキルを消してしまおう。とっさの判断で俺は【鬼火】の火を消滅させる。
「む、スキルの効果が切れたか。いささか早すぎる気もするが粗悪な魔石だし、まあ……。よし次の検証に移るとしよう」
なんとかごまかすことができたようだ。それからトウドウは俺をそっと手のひらに乗せた。
「さて、魔石よ。聞こえているか?」
『えっ?』
突然話しかけられた。
まさか俺の存在に気が付いていたのか? ばかな、トウドウは【看破】も【啓示】も持っていなかったはずだ。
『おい、俺の声が聞こえているのか?』
「魔石よ。その力を示すがいい」
『んん……?』
「さあ目覚めよ!」
『あのー?』
会話がかみ合わない。というかまったく出来ていない。
こっちから声をかけても聞こえている素振りがない。
「う~ん……確かにヘカテイアはこの魔石に話しかけていたはずなんだがなあ。何か条件が違うのか……?」
顎に手を当てて、首を傾げている。
なるほど、アテナの奇行の噂を聞きつけて俺に話しかけてみたということか。だが残念。【啓示】が無いと会話ができないのである。
と、その時、唐突に工房のドアがコンコンとなる。
「失礼するぞ」
トウドウの許可も待たずに一人の男が入ってくる。イケメンだ。嫌いだ。短髪のブロンドで目が鋭い。
「ヴィクタス殿か。いかがされた」
「聞いたぞ。お前、俺のチームを抜けるとはどういうことだ」
「ああ、そのことであるか」
む、このイケメンはトウドウの前のチームメイトか。ヴィクタスと言う名前はどこかで聞いたような気もする。
ヴィクタスの言葉に、トウドウはさして重要なことでもないような、さらりとした口調で返す。
「ヘカテイアのチームの方が強くなれる、それだけの話だ」
「……ふざけているのか?」
「某は至極真面目である」
「ならば納得できる理由を答えろ」
ヴィクタスの言葉には少なからず怒気が含まれていた。まあ学院で最底辺のアテナのチームに移籍されたらムカつくよな。
トウドウもヴィクタスの怒りにさすがに気づいているだろう。と、思ったのだが悪びれる様子もなく、相変わらず飄々と答えた。
「先ほども言ったように、こちらのチームの方が強さを得られるからだ。それ以外理由はない」
「俺たちよりあの落ちこぼれ共のほうが強いと……?」
「それは少し違う。あくまで強さの最大値が大切なのだ。最終的に一番強くなれるかという話をしている。現時点の強さは重要ではない」
その言葉にヴィクタスはさらに顔を歪める。
「結局同じことじゃねえか。あいつらの方が強いだと? いいだろう、お前の目を覚まさせてやる」
「というと?」
「チーム戦だ。来週の放課後、闘技場で決闘をしてやろうじゃねえか」
「はぁ……」
トウドウは嫌そうな顔をする。ここに来て初めて感情的な顔を見せたのだ。まったく面倒なことを、と。彼女の表情がそう言っているのは、トウドウと初対面に等しい俺にでもわかった。
「どうした。まさかミタマ・トウドウともあろう者が怖気づいたか?」
「わかった。その決闘受けようとも。だがこの移籍の件はそれっきりにしてもらいたい」
「いいだろう。来週、楽しみにしているぞ」
おいおい。
リーダーに相談もなしに勝手に決めるなよ。
と、心の中で突っ込んでいるうちに、ヴィクタスはトウドウに背を向けて扉に手をかける。
「必ずお前をチームに連れ戻してやる」
そう捨て台詞を吐いて彼は帰っていった。
決闘か……。
これは負けられな……負けられ…………ん?
負けたらトウドウがあっちのチームに戻って、ルミナスとアテナの二人チームに戻るだけだ。正直、そこまでダメージなくね? 負けても問題ないのでは……?




