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すいません……ずっと帝都を王都って書いてました。


「そんな方法があるんですか!?」


 興奮気味に反応するピンク髪の少女さん。しかしすぐに何かに気付いたように、訝しむ視線をルミナスに向ける。


「……やっぱり、飛んでいく案はやめましょう」


 そしてどういうわけか、こんなことを言うのだった。


「ふふ、やはり君はやさしいね。でも、ボクだって頑張らなくちゃね」

「ルミナス……ッ」


 んん? 話が見えないんだが。

 何か意思疎通している二人。穏やかな表情のルミナスに反し、アテナは少しうつむいている。


『……あの、どういう話になってんの?』

「ルミナスは……サキュバスの翼で飛んでいこうと言っているんです」


 アテナが俺だけ聞こえる小さな声で囁く。


 ……なるほど。そういうことか。


 翼を出せばルミナスがサキュバスだと周りに知られる。それがどれだけ危険なことかわからないルミナスではあるまい。いや、きっと誰よりも理解しているはずだ。


(アテナ、悩むことはないよ。方法はもうこれしかないだろう?)

(ですが……それはできません)

(心配しなくても大丈夫さ。一応、逃げる用意はあるんだ)

(……本当ですか?)

(いつかはボクがサキュバスだってバレるとは思っていたからね。いつでも逃亡できるように準備はあるのさ)

(でも……)

(アテナは帝都を……君の居場所(・・・)を守りたいだろ?)


 その言葉に、アテナは押し黙る。


 ルミナスが翼を解放することが最善策だと知っているからこその沈黙。やることは分かっているのに決断できない。そんな、ある意味残酷な状況だ。


(このチームのリーダーは君だろ、アテナ。ボクは君の言うとおりにするよ)

(……ッ!)


 ビクリと身体を揺らす。よし、俺もパーティの一員なのだ。ここでアテナ(ボス)の背中を押さずになんとする。


『いつでも迷宮の天井をぶち壊す準備はできてるぜ! ルミナスのことだってまかせろ、俺が全力で守ってやるからよ!』

「ヤマダ様……!」


 やがてアテナはきゅっと口を結んでしゃがみ、地に伏すヴェリティに顔を向ける。その視線には恨みや憎しみ、敵意なんてものは全くない。ただ、真っ直ぐとした眼だ。


「先生、私は、私たちは負けません。……ヤマダ様、お願いします」

『おうよ』


 岩肌の天蓋に照準を合わせ、スキルの準備に入る。


 魔力が集中する感覚。乱れ狂うような魔の奔流を一点に収束させる。


『アテナ、見せてやろう。お前が選んだヤマダさんの実力を』


 ――【フラッド・ストライク】。

 心の中で唱えたスキルは弩級の激流となる。


「――――ッッ!!」


 爆風と衝撃波を伴い、天へ昇る究極の一撃。――俺の全力のそれは迷宮の大部分を消失させ、雲を貫いた。


「……ひゃぇ?」


 奇妙な声を漏らしたのはヴェリティだった。凛々しさのない、惚けた顔をさらしている。

 

『天井はぶっ壊したぞ。あとは頼むぜ』

「…………」

「…………」


 ぽかん、とルミナスとアテナは二人そろって、空を見上げている。二人だけではない。生徒たち全員が固まっている。


 しかし今はそんなふうに時間をつぶす暇はない。


『ほらアテナ、ルミナス、学院に行くんだろ!』

「そ、そうですね……。ルミナスお願いします」

「よ、よし! まかせてくれ」


 ルミナスが少し背中を丸めると、黒いコウモリのような翼が現れる。原理は分からないが、制服の上から生えている。物理的な翼というよりは魔力で編んだようなものなのかもしれない。


 周りの生徒は戸惑うばかりだが、相手にしている時間はない。


 早々にヴェリティを縛り上げ、見張りをメイシンに任せるとルミナスは後ろから腰を抱くようにアテナを掴む。


「はわ、はわわ」

「あんまり動かないでね? 動くと落としちゃうかも」

「ひえッ……」


 バサバサと翼をはためかせる。

 そして……


「う、浮きました!」

「浮いてるんじゃなくて飛んでるんだよ」


 そうしてアテナとルミナス、そして俺は天高く飛翔するのだった。







 * * *






 勢いよく飛び出した俺たちだが、帝都の方角は一目でわかった。高々と黒煙が上っていたからだ。それもひとつではない。いくつも、複数の箇所からだ。


「既に相当被害がありそうだね……」


 ルミナスは帝都に向かってスピードを上げる。


 想像以上に速い。確かに、これは徒歩とは比べ物にならない。時速100キロは出ている。


 風に目を細めながらアテナは帝都、そして学院を見据えている。帝都には今回の黒幕がいるはずだ。おそらくかなりの強敵になるだろう。



 ――そしてわずか1時間も経たないうちに、眼下には帝都の街が広がっているのだった。




 各地で煙が上がり、魔物が暴れている。それに応戦する騎士のような者たちも見える。


『被害がデカそうなのはやはり学院か……。あそこに黒幕がいるとみて間違いなさそうだ』

「そうですね……。相手は十中八九魔族でしょう」

『すぐにでも張り倒して――おいッ!? 下をみろ!!』

「……ッ!!」


 帝都の中心にある時計塔の上、ローブを来た奴らが俺たちに向かって杖を向けていた。既に空中に魔法陣が浮かんでいる。明らかに攻撃系のスキルだ。


「……まずいね。サキュバスのボクも敵だと思われているのかも……!」


 飛行スピードが上がり、風の抵抗が強さを増す。


 その直後、アテナの髪を魔弾が(かす)めた。……くそっ。助太刀に来たってのに、味方なはずの人族連中に攻撃されるとは。


 魔弾、それに矢が加わり弾幕となって押し寄せる。


「うぐッ……!」

「ルミナスッ!?」


 魔弾がルミナスの足に当たり、よろめく。が、すぐに体勢を立て直す。旋回能力と敏捷さでギリギリのところで躱しながら突き進む。


 しかしこの圧倒的な物量の攻撃。どこまで凌げるか……!


「もうちょっと……!」


 あと一歩で学院に着く。もうすぐそこなのだ。


 ――だが。


 学院の屋根の上、不敵に笑うスーツの男がいた。ただならぬ雰囲気、あきらかに普通の奴ではない。数多の魔物を侍らせるその姿は奴が強者であることを示している。



種族:インキュバス

名前:ゼウクシス・ユアン・デザイア

年齢:156

レベル:289

HP:90000/90000 MP:75000/75000


筋力:11345

耐久:9876

敏捷:13425

魔力:11654

魔防:12897


《スキル》

ボルテック【F】 連続蹴り【F】

飛行【G】 格闘術【G】

サンダーショット【F】 魅了【F】

ウルズの加護【D】



《称号》

ウルズの使徒



 間違いない。ボス級の強さのこの男こそ黒幕だ。


 と、その時。


 男が手を前に突き出し、何かを唱えた。瞬間、巨大な雷砲が発せられる。これは――ダメだ。わかってしまう。これは避けられない。


 迫る雷撃に、しかし、ルミナスはほほ笑み。


「【ウィンドブレス】!」


 アテナに向かって(・・・・・・・・)魔法を放つ。


「え……?」


 風に運ばれ、ルミナスとアテナの距離が開いていく。


「アテナ、頼んだよ」

「なっ!? 何を……ッ!」


 おい、なにを言っているルミナス。そんな別れの、フラグみたいなセリフ……。

 

 そんな俺の思いはルミナスに聞こえるはずもなく。一筋の雷がルミナスに直撃するのを遠目に、風のなすがままに身を飛ばされていくのだった。




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