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異変

 順調に進み、あと数キロで中間地点だ。

 素晴らしい限りなのだが……うむ。


 ……ちょっと退屈になってきたな。

 この3人の中で一番集中力のない俺はもう適当なことばかり考えていた。


 ルミナスのうなじを汗が滴る。

 汗をかいてる女の子って、なんかエロい。

 エッチ。

 大好き。


(アテナ、まだ魔力は大丈夫かい?)

(はい)


 アテナの【念話】は魔力を消費する。

 とはいえ、大した消費量でもないんだけど。魔力型のアテナにとっちゃ端数みたいなもんだ。

 それでも心配してくれるルミナスの気持ちはありがたい。


 まあそれはともかく、ホントに草ばっかだな。

 さすがに見ていて飽きる。それにキモい虫とかもいそうで嫌だ。都会っ子の俺って虫とか触れないし。

 ああ~、早く中間地点に着かないかな。


(なにかおかしい……)

(え?)


 望遠レンズを覗きながらルミナスが心で呟く。

 そして立ち止まり、考え込む。


(周り魔物の様子が変だね。中間地点から逃げるように移動してる。……ちょっと急ごうか)

(……はい)


 キリッと口を結び、アテナが気を引き締める。

 俺はそんなアテナの胸部を観察するばかり。緊張感の差がありすぎて申し訳ないと思いながら俺は観賞を続けるのだった。








 * * *









[中央ルート]


 サイクロプスを先頭に、剛腕の巨体を揺らして魔物たちが迫る。


「クソッ……!」


 ギリアムの剣がひどく細く見える。大木のような腕を持つ魔物共(かれら)の前では木の枝のように(やわ)で軽い。


「トロール一体でも十分だっつうの……! ――ハッ!!」


 文句を垂れつつも剣を振るう。

 ――トロールたちの動きは遅い。

 複数のトロールの間を縫うように駆け抜け、次々に斬りつけていく。

 が、その表皮にうっすらと赤い筋を残すだけだ。


「チッ……浅いか。……だが」


 負けることはない。

 己の敏捷性と前衛としての技能に誇りを持っているギリアム。

 戦闘が始まって数分、もう彼に不安や恐怖はなかった。――もっとも、本当に恐怖が消えたわけではなく、一時的に忘れていただけだったことをすぐに思い知ることになるのだが。


 そのギリアムの背後に巨大な影が迫る。

 一つ目の大鬼がこん棒を振り下ろさんとしていた。


「バレバレだっつの……ッ!」


 その挙動を掴むことは容易い。

 こん棒を剣で受け流し―――


「――ッ!? がはっ……!」


 気が付けば岩に打ち付けられていた。

 肺が押しつぶされ、血の混じった息を吐いた。


「バカなッ……確かに受け流したはず……! ……む!?」


 手元の剣を握り直し違和感に気づく。

 ――剣が、軽い。


 真ん中から折れて剣身を半分にした愛剣を見て呆然とする。

 決して安物の剣じゃない。一流が持つにふさわしい名剣だった。


 こんな易々(やすやす)と折れていい剣ではない。


「チックショォ……!!」


 ドッ、ドッ、ドッ、と。鼓動が速くなる。

 剣を鞘にしまい、ナイフを構える。ガタガタと震える自らの手。ギリアムは震えを止めることができなかった。


 だが相手は魔物。

 すなわち、非情の獣だ。


「ゴオオオオオッッッ!!!」


 低い咆哮を上げながら、ギリアムに突進するサイクロプス。

 その拳が速度を上げ、風を切り。ギリアムの頭へと向かっていく。


 死を覚悟するには十分な状況。


(終わりか――!!)


 しかしギリアムを襲うはずだった鈍撃はやってこなかった。

 なぜなら、


「せええええええええいッッッ!!!!!」


 パンチパーマの、オークのような体系の女がサイクロプスの拳を素手で受け止めていた。

 目を見開き、ギリアムは叫ぶ。


「アカシア校長ッ!?」


 拮抗してみえるアカシアとサイクロプス。

 だがすぐにその均衡は破られる。


「アンタアアアアアアッッ!!」


 雄たけびと共に繰り出されたアカシアの重い蹴りがサイクロプスの腹に刺さる。蹴られた魔物は勢いを殺せず、巨岩のように地面を転がる。


「こ、校長……! 危ないところを救っていただき……」

「それはいいわ。そんなことよりお前は生徒たちを守りなさい」

「は、はいっ!」


 ギリアムが走り去る気配を感じながら、アカシアは魔物たちと対峙する。


「フンッッッッ!!!!!」


 力を入れた途端、アカシアの筋肉が膨れ上がった。身長は優に2メートルを超えている。

 ドンッ、と地割れが起きるほどの勢いで地面を蹴る。


「アンタァッッッ!!」


 一歩でトロールの一体に肉薄すると独特の掛け声とともに拳を打ち抜く。たった一撃。密度の濃い筋肉によって繰り出される正拳はトロールを爆散させた。

 アカシアは次の目標を定め、再び地面を蹴る。


「アンタァッ! アンタァッ! アンタアアアッ!!」


 瞬時に3発。

 トロールに勝るとも劣らぬ太さの剛腕を振りぬく。悲鳴も断末魔も許さぬ怒涛の猛攻に、トロール3体はその命を散らした。


 しかし魔物はトロールだけではない。


「ゴアアッッ!!」

「ぐッ……!?」


 紫色のパンチパーマが揺れる。

 サイクロプスに横っ面を殴打され、アカシアは体勢を崩す。


「……やるじゃない。お前は最近じゃ上物の旦那(アンタ)だよ」


 射殺す眼光でサイクロプスを睨みつける。そして体勢を整えることもせず強引に拳を振るう。


「アンタアンタアンタアンタアンタアアアアアアアッッッッ!!!!!!」

「ゴアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 壮絶な拳の応酬。

 熱い血が舞い、鋼の肉体同士を打ち合う鈍い音が響く。


「アンタアンタアンタアンタアアアッッ!!」

「ゴアアッ……アッ……ガアッ……!!」


 徐々にサイクロプスの力が落ちていく。足元がふらつき、膝をつくのも時間の問題だ。そこに迫る彼女の鉄拳。


「アンタアアアアッッ!!!」


 とどめのアッパーはサイクロプスの巨体を迷宮の天井にまで突き上げた。天井に突き刺さり、だらりと弛緩するサイクロプス。


「……さあて、次に可愛がられたいのはどの子だぁい?」


 愉悦の表情を浮かべ、残るトロールを舐めまわすように見るアカシア。


 トロールたちが全滅するのは、この5分後のことであった。








[西ルート中間地点]


「グレムリン、こうも素早いのね……」


 ヴェリティは表情には悔しさを滲ませるような表情を作る。もとより後衛職で敏捷性に劣るヴェリティは苦戦を強いられているように見えた。

 

 ヴェリティがいたテントはもはや原型を留めていない。魔物に蹂躙され、役に立つものは何も残っていなかった。生徒たちは木々の間に身を潜めている。


 生徒を守るように立ち回りながら、援軍を待つ。それがヴェリティの取った方針だった。既に救援要請は送っている。じきに他のルートで待機している教師が駆けつけるだろう。


「ギャウウ! ギャアッ」


 グレムリンの一匹が男子生徒に向かって走り出す。

 潜伏が甘かったのか、気付かれたのだ。


「なっ!? チッ!」


 男子生徒、メイシンは迎撃する構えをとる。


「おらぁ!」

「ギャウッ!」


 メイシンが剣を振り下ろす。だがグレムリンはいとも容易(たやす)くそれを躱した。そしてダッと地面を蹴り、メイシンの首めがけて爪を振るう。


『【フラッド・ストライク】――精密操作バージョン!』


「え……?」


 次々とグレムリンたちが突然、鋭い水流に貫かれていく。的確に心臓を破壊され、力なく地に伏していく怪物たち。


 結局、一匹たりとも生存は許されず。わずかな時間でグレムリンの群れは壊滅した。


「ヴェリティ先生!」


 少し幼い声に振り向くと、ピンク色の髪の女生徒が駆け寄ってくるのが見えた。その傍にはもう一人水色の子もいる。


「へ、ヘカテイアさん。大丈夫でしたか?」

「はい。先生もご無事でしたか?」

「ええ、なんとかね。……さっきの攻撃はあなたが?」

「えっと、はい。一応」

「そ、そう」


 わずかに目を見開いてアテナを見つめるヴェリティ。その表情はかすかに警戒感を帯びていた。


 見つめられてきょとんとするアテナに、ハッとしてゴホンと一つ咳払いをした。


「助かったわ。でもまだ危険があるかもしれない。油断しないようにね」


 ふっとヴェリティは柔らかい笑みを浮かべる。誰しも安らいでしまうような優しい笑みだ。


「はい!」


 と、元気よく返事をしたアテナ。

 だがテントの方に目をやると、怪訝な表情を浮かべた。


『テントがどうかしたのか?』

「少し、気になって」


 何かに気が付いたように壊れたテントの方へ走り出す。


 そしてそのテント様子を間近に見て――突然止まった。


「……ヘカテイアさん、どうかしたの?」

「い、いえ。なんでもありません」

「そう?」


 ヴェリティは首を傾げる。が、そのあとは特に気にした様子はなく、教師らしく生徒を集めてこのあとのことについて話し始める。


 ヴェリティを中心に、アテナとルミナスを含めた生徒たちが円の形で並ぶ。


『ん? こいつらどこかで見たような』

「はい。おそらく魔法試験の控室で見られたのかと。ここにいる生徒は偶然にも支援科(アデュート)が多いようですね」


 ヤマダの呟きにアテナが小声で返す。


 ヴェリティは生徒を見渡し、ふぅ、と一つ息を吐いてから話し始める。


「みんなよく聞いて。分かっていると思うけれど、これだけのグレムリンが現れたのは異常事態よ。そしておそらく、グレムリンを召喚した術者が近くにいるはず。ここからはみんなでまとまって動くことにします」

 

 その言葉に皆がうなずく。しかしただ一人、アテナだけは首を縦にも横にもふらず、じっとヴェリティを見つめていた。


 その様子に反応したのはメイシンだった。


「どうしたんだよ平民。なんか言いたそうだな。……ま、なんでもいいけど足は引っ張るなよ?」


 だがメイシンの声が聞こえていないかのように、いや、実際耳に入っていなかったアテナは、眉を寄せて思考にふける。


「あの」


 しばらくしてからアテナはぽつりとつぶやき、





「先生は魔族の手先ですか?」


 



 こう言うのだった。


 そしてその言葉を聞き終えるよりも早く、ヴェリティはあらん限りの速度でアテナに斬りかかった。 


アカシア校長は既婚者です。本物の旦那さんもいます。

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