ダンジョンシーク
――迷宮。
それは言ってしまえば巨大な洞窟か。
だが大きさが尋常ではない。
迷宮の中では魔物が跋扈し、地上とは違う生態系を持つ。太陽の光が届かなくとも、日光のような光を発する苔があり、植物も生い茂る。
このヴァルハラ学院が管理するトゥーレ迷宮も例外ではない。
「よし、予定通り西のルートで行こう」
「はい!」
三つに分岐した道。
7割ほどのチームが中央ルートに進む中、俺たちは少し狭い左側の道を行く。
西ルートを選んだチームは俺たち以外にも数チームいる。
さて、ここからは慎重に慎重を重ねなくちゃいけないだろう。
(ボクたち以外に9チーム……思ったより多いね。先頭と最後尾は避けて、とにかく警戒しながら進もう)
(はい!)
アテナのスキル、【念話】により口に出さなくとも会話ができる。
周りの生徒が信用できない以上、口で話し合うのは避けたい。多少魔力を消費するとしても【念話】を使うのはいい判断だろう。
ちなみに俺は【インターセプト】というスキルで二人の【念話】に横入りをして聞いている。
ルミナスが前を歩き、その3歩ほど後ろをアテナがついてゆく。
背の高い草を切り払いながら進む。
魔物は弱いとはいえ、こうして視界がほぼ草木に遮られた状態では油断すれば簡単に奇襲を受けてしまう。
ルミナスは時折立ち止まり、周囲の気配を読むことに集中する。
そしてまた慎重に歩き出す。その繰り返しだ。
斥候の技能があるルミナスはこういうフィールドじゃほんとに頼もしいぜ。
開始から30分、チーム同士の距離はだいぶ開き他のチームの気配がなくなった。
ルミナスの後ろ、警戒をしながらもアテナは紙を持ち、ペンで線を引いていく。
直線をひいて、十メートル進んだら横線を一本入れる。
作業としてはマッピングに近い。
まあマップ自体は学院がら支給されているので、これは現在地を知るための作業だ。
(今のところいいペースです。このままいけば4時間程度で目標の中間地点に到着しそうです)
(それはよかった。こんなところじゃ野営は絶望的だからね。なんとしても基地にはいかないとね)
中間地点はそれなりに開けた空間があり、安全地帯がある。
そこで野営をするのがセオリーだ。
(……止まって)
ルミナスの合図。
普通ならハンドサインで指示するところをこうして言葉で済ませられるのはいいな。
ワンアクション節約できるのだ。
『奇襲か?』
(どうでしょうね……)
ぐっとアテナが俺の付いた杖を握りこむ。
いつでも来い。
俺の【アステリック・ブレード】で刻んでやる。
(3時の方向、30メートルくらいだと思う……何かいる)
(了解です!)
(敵意がありそうだ。十中八九襲ってくるよ)
(……!)
ブォン、とライトセイバーよろしく【アステリック・ブレード】を展開する俺。
刃渡り1.3メートルモード。緊張した面持ちで待ち構えるアテナ。
(あと5メートル……)
ルミナスのアナウンスが頭に届く。
カサ、とわずかに草木が揺れる。
そして、
「ギャウッ!!」
予想通りに魔物が飛び出してきた。
猫型の大きな奴だ。
「はっ!」
「ギュフっ!?」
《ワイルドジャガーに勝利しました》
すかさず切り上げるアテナ。
一閃で胴体を真っ二つにし、息つく間もなく勝負が付いた。
(ふう。敵の除外、完了です!)
(オーケー。さすがだね)
ジャガーの死体を確認し、俺たちは再び歩き出した。
しかしなんとも集中力のいるルートだ。
不人気なのも納得してしまう。
しかし自分たちにはこの道を行く選択しかないのだ。
アテナ、ルミナス。頑張ってくれよ……!
* * *
[西ルート中間地点]
開始から3時間、早ければ最初のチームが到着する時間だった。
テントの中、支援科教師のヴェリティはダガーを研いでいた。
「さて、ちゃんと皆ここにたどり着いてくれるといいのですが……。あの子たちならきっと大丈夫よね」
独り言を漏らし、茶を飲みながら暇をつぶす。
落ち着いて見えるがヴェリティは高揚していた。
そんな時、わずかに気配を感じる。魔物ではない。人の気配だ。それが4つほど。早速最初のチームがここに到着したらしい。
ヴェリティはふっと安心したような笑みを浮かべる。
――この中間地点を100匹を超えるグレムリンの大群が襲ったのは、その数十分後の出来事であった。
[中央ルート]
前衛科教師、ギリアムは剣を握りしめていた。
その双眸が捉えるのはトロールとサイクロプス。合わせて十匹以上はいる。一匹だけでも軍の討伐隊が組まれるほどの相手が十匹以上、である。
岩を砕きながら進む彼らに、恐怖を振り払って剣を向ける。
「くっ……できればここを墓場にはしたくないんだがな……」
筋力特化型の魔物。
手に持つこん棒で軽くなでられただけでミンチになる。
既に救援要請は送ったが、応援が来るまで持ちこたえられるかどうか。
いや、できるかどうかではない。
持ちこたえねばならないのだ。なぜなら、
「せ、先生ぇ……!」
「ひいいっ……」
後ろの生徒たちに危害を加えさせるわけにはいかない。
自分が、教師である自分が食い止めるのだ。
ギリアムは決意を確かなものにする。
「お前らは下がれ。ゆっくりと、ヘイトを集めないようにな……」
背後の震える生徒たちに指示を飛ばす。
[東ルート]
「ヴィクタス殿、どう致す。 一気に駆け抜けるか?」
「止めた方がいいだろう。俺らの敏捷値よりも奴らのほうが上の可能性が高い」
必要最低限の音量で会話をする武装科首席のミタマ・トウドウと支援科首席のヴィクタス・フェイル。それに加え、後衛科次席のエレイン・フリートリアをはじめとする各学科でトップクラスの実力を備えた者たち。
一年でトップであろうこのチームは岩陰で身を潜めていた。
強者である彼らがなぜ身を隠すのか。
その理由は単純だ。
「グギャオオァッッ!!!」
――ワイバーン。
彼ら以上の強者が我が物顔で飛び回っているからだ。
それも一匹ではない。何匹もいるのだ。
「……しかしどうなってやがる。あんな上級の魔物、この迷宮にはいないはずだろ」
「迷い込んだとは考えられないもんね。そうなると召喚されたとしか……」
エレインがヴィクタスの呟きに答える。
各地で起こる異常事態。
――突如として現れた魔物たちの襲撃。
迷宮探索は既に。
単なる試験や授業の領域を大きく超えたものと化していた。
この現状を破壊するのは人か、魔族か。
あるいは、石ころか。




