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いざ迷宮へ

『ふんふ~ん♪』

「今日はご機嫌ですね、ヤマダ様!」

『まあな。今日から穏やかな夜を過ごせるぜ!』

「前におっしゃっていた“妙な気配”というのは解決したのですか?」

『ああ、きれいさっぱりな』

「それはよかったですね!」


 清々しい朝日が窓から入り込む。

 なんと気持ちの良い朝だろう。


『ほら、早く飯行こうぜ!』

「はい、ちょっと待ってくださいね」


 制服をクローゼットから取り出すアテナ。


 ああ、素晴らしい。

 快適な夜を取り戻した俺は幸せを噛みしめていた。


 インナー姿になり、制服のスカートに足を通すアテナ。黒色の防刃性ストッキングに程よい肉感の太ももが魅惑の布をくぐる。


 きれいな朝日を浴びながら女の子の生着替えを鑑賞できる。実に優雅だ。

 ファサ、と小さな衣擦れ音がこそばゆく、俺を楽しませてくれる。


 ある意味これは石になった特権だろう。

 何かと気の緩いアテナといえど人間モードの俺の前では着替えてくれないに違いない。無機物だからこその絶景だ。


「ふう、お待たせしました。行きましょうか」


 上もシャツとブレザーを着て準備を終え、アテナは俺を握って食堂に行くのだった。





 食堂に入るなり、見覚えのある水色の髪が見えた。

 ルミナスだ。

 昨日はなかなか大変だったが、こうして朝ごはん食いに来てるってことは大丈夫そうだな。


 ルミナスの方もアテナの目立つピンク髪を見つけ、少し顔を綻ばせた。

 そしてとことことルミナスの方から歩み寄ってくるではないか。


「や、やあ」

「おはようございます、ウルティメオさん」

「その、今日は一緒に食べないかい?」

「へ?」

「あ、いや、無理にとは言わないけれど」

「ぜ、ぜひ一緒に食べましょうっ!」


 鼻息を荒げるアテナさん。友達のいないコイツには嬉しすぎる申し出だったか。

 保護者としては微笑ましい限りだ。


「良かった。すぐそこにテーブルを確保しているんだ。それと……昨日は迷惑をかけちゃったね」

「いえ、迷惑だなんて」

「まあ、なんというか……。改めてよろしく頼むよ……ア、アテナ」

「…………え?」


 照れくさそうに頬を掻くルミナス。

 じわ、とアテナの目の端にきらりと光るものが。


「今、なんと?」

「あっ、や、その……」


 だばあっ! と激流のようにアテナの眼から涙があふれる。

 感受性豊かすぎるだろ、相棒。


「あ、あの、さっきの……聞こえなかったのでもう一回言ってもらっていいですか?」

「うう……えっと、だから。よ、よろしくねアテナ」

「!!!」


 これまでにない速度でアテナが動く。

 対象はルミナス。ガバッと熱烈なハグをかます。

 抱擁というかもはや捕食の領域だ。


「ぐぇっ……」

「う、嬉しいですっ! 名前で呼んでくれるなんて……ッ」

「あ、ああ。かまわないさ。……だからボクのこともルミナスって呼んでくれると嬉しいな」

「!? あいっ!!」


 巨乳と貧乳がお互いを押し合っている。

 ふむ、悪くない。百合百合しい光景も(たしな)む分には良いではないか。


「そういえば、アテナはヤマダ様と会話ができるんだよね?」

「そうですけど、どうかしました?」

「えっと、加護を授けてくださったことへの感謝を伝えておいてほしいんだ」

『は?』

「あ! ルミナスも頂いたんですね!」


 素っ頓狂な声が出てしまった。

 加護って何? まったく身に覚えがないんだけど。


 とりあえず【看破】でルミナスを見てみる。


種族:サキュバス

名前:ルミナス・ウルティメオ

年齢:14

レベル:22

HP:3600/3600 MP:2300/2300


筋力:183

耐久:167

敏捷:226

魔力:132

魔防:109


《スキル》

短刀術【G】 投擲【G】

ウィンドブレス【F】

吸精【F】 魅了【F】 

山田の加護【C】


《称号》

なし



 ……ほんとだ。俺の加護らしきスキルが発現している。


【山田の加護】:Cランクスキル。一日に一度だけ、強力な攻撃による即死を回避する。また、全ステータスにプラスの補正を与える。ステータスの上昇度は山田への信仰の強さによって変化する。


 なんじゃこりゃ。

 いつの間にこんなものが……。別にいいんだけど、そういうことするなら一言断ってからにしてくれよ。って、誰に文句を言えばいいのか分からないけど。

 

 待てよ?

 さっきアテナは『ルミナス()』って……。

 まさか。


種族:人族

名前:アテナ・ヘカテイア

年齢:14

レベル:21

HP:2200/2200 MP:3200/3200


筋力:163

耐久:134

敏捷:178

魔力:289

魔防:212


《スキル》

共感覚【G】 念話【G】 憑依【D】 

啓示【B】 降臨【A】

灯火【G】 山田の加護【C】


《称号》

巫女


 案の定アテナにも【山田の加護】なるスキルがあった。

 それに加えて、二人ともステータスが結構上がっている。


 この【山田の加護】の効果とガーゴイルを倒したおかげか。同じ学年の他生徒の1.5倍くらいの強さだ。


『アテナ、加護については気にしないでくれって言っといてくれ……』

「はい!」


 突如元気に返事をしたアテナにルミナスがビクッとする。


 傍から見るとひとりで声出してるだけだからな。


「ヤマダ様は気にしなくて良いと仰せですよ!」

「そ、そうかい? それは良かった……」

「それで、今日はどうします? ルミナスは誰か勧誘できそうな人とか知ってます?」

「え? いや……勧誘は止めといた方がいいと思うよ」

「え? どうして?」


 ルミナスは苦笑いを浮かべる。

 首を傾げるアテナと違い、俺には続く言葉が想像できていた。




「だって、迷宮探索(ダンジョンシーク)は明日だよ?」




「あ……」


 と、固まるアテナ。

 すっかり忘れていたと見える。


 そう。

 我々は結局、この二人(と一個)だけのチームで挑むことがほぼ確定しているのだった。







 * * *







 そして翌日。

 すなわち――迷宮探索(ダンジョンシーク)当日。


 スタート地点には多くの生徒がチームごとにまとまっている。


 ルールは簡単。

 3日以内に迷宮(ダンジョン)最奥まで到達すること。

 ゴール地点には転移陣と教師が待機している。


 途中の過程も何人かの先生たちによって見られているらしく、そこも評価の対象らしい。


「おい見ろよアレ。たった二人で挑もうとしてるぜ?」

「くくっ、舐めすぎだな。あいつらは一日目でリタイアだろ」


 後ろから声が聞こえる。

 案の定、舐められ見下される我が陣営。

 しかしアテナとルミナスはそんな雑音(ノイズ)はシャットアウトしてしまうほどに気が高まり、集中していた。


 準備はした。

 戦略も考えた。

 であれば、あとは本番で最善を尽くすのみ。


 心地よい緊張感。

 大丈夫、二人は弱くない。それに俺が付いているのだ。


「では各自、位置に着けッ!!」


 アカシア校長のよく通る大声が空間に伝播する。


「それでは――――始めぇッ!!」


 ――迷宮探索(ダンジョンシーク)、開始!

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