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夢の中の激闘

 今日はいきなり大声を上げてしまった。

 あんな、なんてことない悪口……聞き流せばよかったのに。


 しかしボクはそんな反省の余裕などない状況にいた。


「結局、この夢なんだね……」


 アテナと別れてからベッドに入ったボクは案の定、この悪夢に捕らわれた。


 腕が痛い。

 足が千切れそうだ。


 ――誰か、この荒野の鎖からボクを開放してくれ。


 ギシ、と鎖が軋む。

 いつの間にか身体中に鎖が巻き付き、呼吸さえ十分にできなくなっていた。


「痛い……」


 どうして。

 どうしてボクはこんな理不尽な目にばかり合うのだろう。


 ボクのお父さんはインキュバスだった。

 けど、ボクのお母さんはサキュバスじゃなくてただの人族だ。つまり、ボクは魔族と人族のハーフだ。


 まあ種族的にはお父さんの遺伝子が勝ってサキュバスになったわけだけど。


 ボクのような混血は魔界では奴隷のような扱いを受ける。魔界は純血至上主義だ。

 半端者はどこでだって蔑まれ、見下された。


 理不尽に暴力を受け、搾取され、居場所を奪われ続けた。


 それでも。

 それでも、戦吏になれば。


 ボクは生きる場所を得られるんだ――。


『可哀想に。今助けてあげますからね』


 何度か聞いた声に顔を上げる。


「イリアス様……」

『さあ、私を受け入れて』

「…………」


 イリアス様がボクの頭に触れようと手を伸ばす。

 気づけばボクは涙を流していた。


 ――辛い。

 ――苦しい。


 もう嫌だ。こんなの。

 もう理不尽に苦しみたくない。人並みに生きる権利が欲しい。


「ボクを……助けてくださいッ」


 叫んだ。

 できる限りの願いを込めて叫んだ。


 その言葉を聞き、イリアス様は口元をニヤリと歪め――






「俺の相棒の友達を(たぶら)かしてんじゃねえぞ」






 突如女神様の後ろに現れた男。

 その男にイリアス様は首を掴まれ、高々と持ち上げられる。


『がっ!? 誰だ貴様……ッ! どうやってここに入ったッ!!』

「そういうスキルを持ってるだけだ。――そおらっ!」

『やっ、やめ……っ』


 男は力任せにイリアス様を投げる。

 地面を抉りながら直線状に飛ばされる。


 ――投げる。


 ただそれだけの、単純な動作。

 にも関わらず。


『がはぁッッ!!!!』


 その衝撃は理解の範疇を超えていた。

 圧倒的。はなはだしく圧倒的だった。


「ふむぅ……。やっぱ人の身体は素晴らしいな」


 男が小さくつぶやく。


 異国の物と思われる灰色のコートに紺色のマフラー。

 黒い手袋をしているが……それもこの国のものではなさそうだ。


 黒髪で、歳で言えば17歳くらいに見える。


「この姿は久しぶりだなぁ。神社に行った時と同じだ。おお、カイロがまだ(あった)かいな。おおっ! 敏捷と筋力のステータスがゼロじゃねえ!」


 一人ではしゃぐ青年。その様子は本当にどこにでもいそうな年相応のものだ。


「いやあ、素晴らしいなぁ。……まあ、それはひとまず置いとくとして」


 青年の眼が私を捉える。


 そしてゆっくりと歩み寄ってきた。

 私の目の前まで来ると、その手を伸ばし……


「ひっ……」

「こりゃあスキルか?」

 

 鎖を引っ張る。

 つまらなそうに鎖を眺め、吐き捨てるように青年はつぶやいた。


「【夢鎖縛】……あの女のスキルだな」

「スキ、ル……?」

「ああ、あの女神を騙った女のスキルだ。……ルミナス、大変だったな」

「どうして……ボクの名前を……」

「ああ、そういや一応初めましてだな」


 青年が鎖を引きちぎった。

 ボクをあれだけ苦しめていた鎖が、いとも簡単に破壊されたのだ。


「俺は山田だ。よろしくな」

「え? ええ? あっ、あのっ」

「おっと、ちょっと待ってくれ。……せいっ!」


 青年が身を返し、振り向きざまに回し蹴りを放つ。

 瞬間、いくつもの魔法弾が青年に直撃――――せずに、回し蹴りの風圧で消し飛ぶ。


『ハァッハァッ……クソッ!!!』


 青年の向こう側、ギリッ、と歯を食いしばるイリアス様が立っていた。


『何者だお前ッ……! なぜ私の夢(・・・)に入ってこれたっ!!』

「俺は現役高校生の山田だ。おまえこそ何者だ」

『私はッ! 女神、女神イリアスだっ!!』

「いやまあ、【看破】でお前が誰かなんて聞かなくても分かってたんだけどよ。嘘は良くないぞ、ただの(・・・)サキュバス(・・・・・)さんよ」

『…………ッ!?』


 青年、ヤマダを睨みつけるイリアス様。


『そう……。お前は見抜くだけの力があるのね』


 イリアス様はバサッとサキュバス特有の黒い翼を広げた。

 その翼が彼女の言葉が偽りであったことを何より語っていた。


「ちょっとレベルが高いだけのサキュバスが神を騙るなよ」

『まさか貴様……本物(・・)か?』

「それでだな、俺はお前をぶっ飛ばすつもりなんだが……お前はどうする? 抵抗してみるか?」

『……いい気になるなッ!!』


 イリアス様、いや、イリアスはダッと地面を蹴る。

 ――(はや)い。

 気を抜けば目視さえ難しい速度で突進する。


『はあああああっっっ!!!』


 両手に3メートルはある大剣を虚空から取り出し、勢いに任せて振り下ろす。

 純粋な質量による破壊。頑丈な鎧を着ていようとも問答無用に切り捨てる攻撃。


「よっ、ほっ、だあありゃああああッ!!」


 ヤマダは腕を組んだ格好で高速の斬撃をひらりと躱し、胴に深い蹴りを入れる。

 ズム、と鈍い音と共にイリアスの身体がくの字に曲がった。


『――――ッ!?!?』


 声にならぬ声を上げ、弾丸のように飛ばされるイリアス。

 蹴り終えたヤマダの足からは煙が上っていた。


『ぐふっ……!!』


 地面に激突し、声を漏らす。

 その後も地面を何度もバウンドし、イリアスはボロボロになりながら彼方まで転がってゆく。


『お、おのれぇ……ッ!!』


 なんとか体勢を立て直し、立ち上がるものの既に満身創痍。力量差は歴然だ。

 だが、イリアスの眼にはまだ意志が宿っていた。


『この世界では私が……私が最強なのよッ!!!』


 風を切る音と共にイリアスの姿が消える。

 魔法……じゃない。

 超高速で移動しているんだ。

 周囲からは風を切る音だけが大きさを増していく。


 そんな状況に対し。

 ヤマダは腕を組んで突っ立っているままだった。


「うむむ……」


 顔をしかめながら、時折周りにキックを叩き込んでいる。

 そのたびに火花が舞う。

 視認できない攻防が続いているのだろう。不可視の速度で縦横無尽に駆け、全方位から攻撃をしかけるイリアスと、それを足技のみで防ぎ続けるヤマダ。


「さっきみたいに蹴り飛ばすのは簡単だが……う~ん……」


 唸り、不意にヤマダがボクに向かって手をかざした。

 途端、ボクの身体が宙に浮く。


「え? あれ?」


 フワフワと空中を漂い、ついにはヤマダに米俵がごとく担がれてしまった。


「あ、あの……?」

「――はっ!」


 右足を大きく振り上げ――地面を踏み抜いた。

 砲撃のようなそれは固い地面に炸裂し、許容限界を超えた振動が瞬時に伝播する。


『ぎゃああああああッッッ!!!』


 裂けるような悲鳴を上げながら、隆起した地面に身を貫かれるイリアスの姿が目に入った。

 

 ――めちゃくちゃだ。でたらめだ。

 こんな存在があっていいのか。


 このヤマダという青年がどういうわけか自分に味方してくれていることに、感謝よりも畏怖を覚えた。

 ヤマダがそっとボクの身体を地面に降ろす。

 

『こ、こんなはずでは……ッ!』


 イリアスはサキュバス特有の黒い翼を出して後方に飛びのく。近接戦は不利と判断して距離を取ったか。


『確かに私はサキュバス。神じゃないわ。でもここは夢の中。私ほど高レベルのサキュバスならば……ここなら神にも迫る力があるのよッ!!!』


 イリアスの手から無数の魔法が放たれる。

 魔法の雨だ。

 現実でこれをやればまさに神の所業だ。


 回避不能に思われるその攻撃にヤマダは、


「残像だ」


 ドゴォンッッ、ドゴォンッッーーーー。


 二回ほど轟音が遅れてやってくる。

 人間が動いた、というより銃弾が跳弾したと形容した方がいい動きだ。先ほどのイリアスの動きとは格が違う。


 筋力任せの強引な移動で魔法の雨を躱し、イリアスに肉薄する。


『なっ!? クソォッ!!』


 逃げようとするイリアスの足を掴む。

 そして、


「そいやッ!」

『ごはぁっ!!!!!』


 地面に叩きつけた。

 荒野に大穴を生み出すほどのエネルギーで叩き付けられ、イリアスは盛大に吐血する。


 それだけじゃない。

 腕や足があり得ない方向に曲がり、翼もめちゃくちゃに折れ曲がっている。


『かひゅ……かひゅ……』


 もはや呼吸も満足にできないのか、かすれた呼吸音だけが聞こえてきた。


「さて、お前の目的を教えてもらうぞ」

『わ、わたひ、は……』

「ああ、ルミナスを乗っ取ろうとしていたんだろ? なんでそうしようとしたかっていう理由を聞いてんだ」

『…………ッ』


 ここからではイリアスの様子は正確にはわからない。

 だが追い込まれ、焦っているのは伝わってきた。


『ぐ……【ウィンドブラスト】ッ!!』

「んん?」


 イリアスは風を起こして、自らの身体を吹き飛ばす。

 吹き飛んだイリアスは私の近くに転がってくる。


 醜くゆがんだその顔はまっすぐ私を見ていた。


『その身体を今すぐよこせぇッ!!』

「ひっ……!?」


 イリアスの右手が私の首を掴み、ギリリと締まる。

 が、直後。


『は……?』


 イリアスの右手は胴体と切り離されていた。


『なッ、なによこれッーーがはッ!?』


 さらに胴体を真っ二つにされる。

 どこかで見たことがあるような光の剣で。


「【アステリック・ブレード】。刃渡り100メートルバージョンだ」

『くそっ……クソクソッ……!!! チクショォ……本物(・・)に出くわすなんてぇ……!!』


 遥か遠方から、恐ろしく長い光の剣でイリアスをみじん切りにしていく。


「【火炎放射】」


 既に息はなかったであろうイリアスを炎が包み込み、塵も残さず消し去った。


「ふう」


 タンッ、と軽い音がする。

 ヤマダが地面を蹴ったのだ。


「ひぅっ!?」


 一瞬で目の前に現れるヤマダ。

 間違いない。

 コレは神の類だ。

 一歩間違えば、何かの間違いで不興を買えば……ボクも殺される。


 やることはひとつだった。

 ボクはただ一心不乱に頭を下げる。


「こっ、この度は窮地をお救い下さり……そのっ……!」


 言葉がうまく出てこない……! この状況に押しつぶされそうな自分の情けなさが嫌になる。


「いや、そんな畏まることはない。現実世界ではもう会ってるしな」

「へ……?」

「ほら、アテナが言ってただろ?」


 アテナ……?

 アテナ・ヘカテイアか? なぜここでその名前が出てくる?

 いや、よく考えろ。ヤマダという名前、どこかで聞いたような……。


「俺は山田。アテナの魔石に宿っている者だ」


 青年は笑みを浮かべ、こちらに手を差し出すのだった。

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