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ヤマダ教はあぶなくありません

「…………」

「…………」


 ――『どうして魔石と会話してるの?』

 ルミナスのその一言で時間が止まる。


「ま、魔石と会話だなんて……そそそそんなことしてませんふぉっ!?」


 相変わらず嘘が下手だ。

 政治家とかの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。


「誰かに漏らす予定もないし隠さなくてもいいさ」

「ううっ……」


 追い詰められたような顔のアテナ。

 いやまあ、学校とかで周りの人が魔石とお話しする電波少女を引き気味に見ているのには気づいていた。けど、別にいいかなって。

 ごめんねアテナ。


『しゃあなしだな。ルミナスには言ってもいいよ』

「ですが……うう、すみません」


 アテナは、ごほん、と咳払いをしてキリッと顔を引き締める。

 丸みのある幼い顔立ちでやっても、かけっこ前の幼稚園児くらいの迫力しかない。うん、それがいいんだけどな。


「ウルティメオさん、今から話すことは本当に誰にも話さないでください」

「わ、わかったよ」

「この魔石には――神様が宿っているのです」

「…………」


 ルミナスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにジト目に変わった。


「神様……かい?」

「そうです。誰にも言わないでください」

「そ、そうかい」


 ポリポリと頬を掻き、少し空を見上げるルミナス。まあアテナの言葉を信じていないのは明らかだ。


 もっとも、俺は神じゃないがな。


「ヘカテイア、もうちょっと詳しく教えてくれない?」

「はい。私はこの魔石に宿る御神様のおかげで能力が大幅にアップし、魔法試験も突破できました」

「……その魔石はどこで?」

「路地裏の魔石商のテントで買いました! 泣いている私にも親切にしてくれた優しい人たちでした!」

「…………」

「あっ、でも魔石商さんたちのことも誰にも言わないでくださいね? 彼らは憲兵にバレるとまずいと言っていましたから」

「なんていうか……いろいろと不安になってきたね」


 苦笑いを浮かべるルミナスを見ているのがちょっと辛い。

 改めてアテナが客観的にどう見えるか分かった気がする。半分くらい俺のせいだけど。


「ヤマダ様――この魔石におられます神様は寛大ですので不安に思う必要はありませんよ」


 柔らかい笑みを浮かべるアテナ。

 それはさながら聖女のようだ。が、それを見るルミナスは苦笑いを浮かべてジリっと一歩後ろに下がった。


「ではもう少しこのヤマダ様についてお話を続けますね」

「いや、もう大丈夫さ。うん、大丈夫……」

「そうですか? でしたら良いのですが」


 案の定ではあるが最後まで信じられなかったみたいだ。宗教に嵌っているヤバい少女みたいな印象になってしまったアテナには申し訳ないけれど好都合だ。


 意思を持つ魔石がどれくらい希少なのか分からないけど、レアアイテム扱いされて誰かに狙われたりってのはゴメンだ。



 それにしても、とルミナスが口を開いた。


「その魔石のことは置いておくとして、どうしてガーゴイルがこんなところに……?」

「確かに変ですね。ガーゴイルの生息地は魔界だといわれています。こんな都市に近い草原にいるなんて……」

「人為的、と考えるのが自然だね」

「ですが、ガーゴイル並みの魔物を連れてくるには相当な実力がないと無理ですよね」

「その“相当な実力”ってのを持った奴がやったんだろうさ」


 ガーゴイルを魔界から引っ張ってきた奴は必然的にガーゴイル以上の実力になる。アカシア校長並みのステータスがいるんじゃなかろうか。


「この件は先生に報告して終わらせるのがいいだろうね。ボクたちのような戦吏見習いが手を出すべきじゃない」

「そうですね……」


 話をまとめ、アテナとルミナスは城門へと歩き始める。


 いろいろと腑に落ちない点は残るものの、こうして最初のチーム戦闘は終わったのであった。







 * * *






 

 同刻、某所にて。

 薄暗いレンガの部屋の中、ワイングラスを(くゆ)らせる男が一人。

 ランプのぼんやりとした光がその男の黒い翼を照らしている。

 ――翼。

 コウモリのようなそれはその男が魔族であることを示していた。


「ふぅむ……。まさかガーゴイルがあのような小娘どもにやられるとは計算違いだ」


 椅子に深く腰掛け、男は顎に手を当てる。


「しかし収穫も大きい。よもや既にサキュバスがあの学院に潜入していようとは」


 男は薄く笑みを浮かべる。

 表情に大きくは出さないが、男は勝利を確信していた。

 これから始まる、人間たちとの一戦の勝利を。


「何より我らには『女神の加護』があるのだ。神の守護を受けぬ人族たちに勝機なぞあるまいて」


 機嫌よくグラスに入ったワインを一気に喉に流し込む。


 そんな男に寄り添う女が一人。胸の開いた真紅のドレス姿からは、匂い立つような色香が溢れている。


「すべてはご主人様の思いがまま。きっとご主人様なら神にだってなれますわ」

「クク、そうだな。そのとおりだ。いい子だね、ヴィーチェ」


 男はヴィーチェと呼んだ女の腰を撫でる。男の手がヴィーチェの白い肌を這い、彼女は紅潮した様子で吐息を漏らす。


 男は酔っていた。

 男はすでに、戦う前から――勝利に(・・・)酔っていた。

 




 だがもしも。

 

 もしも、

 彼がヤマダの存在に気づいていれば――――

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