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巫女

「はぁっ……はうぅ……」


 アテナは頬を染めて上気させ、目はとろんとしている。

 だらしなく口を開け、はぁはぁと息も少し荒い。


 MPがギリギリだから相棒としては俺は心配すべきなのだろうが……


『えっろぉ……』


 アテナちゃん、エッチすぎる。

 服は一切乱れていないし、肌の露出もない。

 だというのに、こうも……。


 さらに、だ。

 両肩を抱くように手を回し、胸が持ち上げられて強調されている。


 と、そんなアテナを見て先生がごくりと生唾を飲み込んだ。そしておもむろに自らの小さめの胸をぺたぺたと。


「はぁ……なんで私は……」


 悲しそうな声を漏らす。

 大丈夫ですよ。その小ぶりな果実も好きな人はたくさんいます。


「い、いや、そんな場合ではありませんね。ヘカテイアさん! 大丈夫ですか!?」

「あうぅ~……」


 バタン、と。

 とうとうアテナは倒れてしまった。


 地に伏すアテナの手首や首に手を当てる先生。

 真剣な表情でなにやら診断しているようだ。


「魔力切れですね。……あれほどのスキル。無理もありません」


 先生はアテナをお姫様だっこで持ち上げる。

 この時もアテナは俺を強く握りしめたままだった。


「はぁっ……はぁっ……」


 先生に抱えられている間もアテナの息は荒い。

 さすがに無理をさせてしまったな……。猛反省するばかりだ。


 俺たちは先生によって医務室に運ばれていくのだった。







 * * *







 2時間後、アテナは目を覚ました。


「ん……んんぅ……」

『おはよう、アテナ』

「おはようございます……。あの、これは……?」


 目をこすりながらアテナはキョロキョロと周りを見渡す。


『保健室だよ。アテナは試験の途中で倒れちまったからな』

「試験……? ああっ!」


 がばっと起き上がる。ま、何を考えているかは想像がつく。


「試験の途中で気を失っちゃうなんて……!どうしよう、絶対不合格ですよね……」

『さぁなぁ。それは直にわかることだ。今はゆっくり待とうぜ』

「不合格……退学…………うう……」


 頭を抱えてうなっている。

 どう声をかけたものか。


 と、手をあぐねいていると保健室のドアが開いた。

 入ってきたのは試験担当でアテナをここまで運んだ先生と……もう一人、ゴツいおばさんだ。


 見た目は50代。保健室の先生だろうか。

 パーマが効いていそうなもじゃもじゃ髪の、大阪のおばはん風な人だ。


「こっ、校長先生っ!?」


 慌てたように声を上げるアテナ。

 保健室の先生じゃなくて校長だったか。そういわれるとそんな感じに見えてくる。妙に威厳と雰囲気のあるおばさんだ。


 お偉いさんの登場にテンパる相棒を横目に、俺は二人に【看破】を使ってみることにした。






種族:人族

名前:ヴェリティ・フィリエール

年齢:24

レベル:59

HP:5000/5000 MP:4500/4500


筋力:312

耐久:450

敏捷:297

魔力:313

魔防:404


《スキル》

連続切り【F】 剣術【G】

プロテクト【G】 ヒール【G】

エリアヒール【F】 ピュリファイ【G】

魅了【F】



《称号》

なし





―――――――――――




種族:人族

名前:アカシア・ゴリアテアス

年齢:69

レベル:101

HP:12000/12000 MP:7800/7800


筋力:1001

耐久:956

敏捷:789

魔力:564

魔防:764


《スキル》

インファイト【F】 格闘【G】

波動弾【F】 八頸【F】

縮地【F】 

収気の覇拳【E】


《称号》

なし





 試験監督の先生、ヴェリティも相当に強いけど校長はさらに倍くらいのステータスだ。


 そしてこのアカシア校長、こともあろうにインファイターである。

 大阪のおばちゃん風の人が殴り合い特化型なのである。ある意味似合っているような気もするが勘弁してほしい。


 こんなドきついおばさんが近接戦闘で殴ってくるとか、トラウマになりそうだな。

 

 ヴェリティ先生はなかなかに多才だな。回復に加えて剣術、それに魅了のようなくせのあるスキルもある。支援科(アデュート)の先生だし支援系スキルが多いが万能だ。


 などと考えているとアカシアおばさんが口を開いた。


「ごほん、ヘカテイア。体の調子はどうかしら?」

「は、はいっ! 大丈夫でふっ!」

「そう、良かったわ。……さて、病み上がりのところ申し訳ないけど、お前に言っておくことがあるわ」


 ドスの利いた声。

 下手な男よりも低いんじゃないかと思うほどの低音ボイスだ。

 体格の良いオネエのような声、というのが一番いい表現か。


「まずは警告ね。闘技場の天井破壊について。次に似たようなことを起こしたら弁償してもらうわ」

「ひいっ!?」

「ちなみに天井の修繕費は500億マネイ」

「ぎゃあああっ!?」


 喚くアテナ。

 ヴェリティ先生もその様子を静かに眺めていたのだが、アテナが「うぷっ」と口元に手を当てたのを見て慌てて我が相棒の背中をさすりだした。

 

 しかしアカシア校長はそんなこともお構いなしに話を続ける。


「さてヘカテイア、ここからが本題よ。とりあえず試験は合格。そしてお前には転科(コンバート)を勧めます」

「え……? 合格?」

「ええ。ただ、今回の試験でお前の能力は支援科(アデュート)向きじゃないと思ったの。転科(コンバート)先としては、後衛科(リア)なんかいいんじゃないかしら」

「あ、はい。考えておきます……」


 急にアテナがおとなしくなった。

 ようやく冷静さを取り戻したか。


「お前の力なら特待生だって狙えるわ。頑張りなさい」

「はい、ありがとうございます……」


 それだけ言い終えると、先生二人は席を立った。

 ヴェリティ先生がドアを開け、先にアカシア校長が部屋を出る。


 しかしなんだって校長先生なんていうお偉いさんが出てきたんだろうか。やっぱり試験で【火炎放射】はやりすぎだったか。


 良くも悪くも目を付けられたってことか。



 その後、程なくして体調が回復したアテナは寮に戻るはこびとなった。







 * * *







 寮に戻って。

 アテナはぼふっとベッドにダイブした。そして枕に顔を埋める。


『ア、アテナ?』

「うっ……うぅっ…!!」


 アテナは嗚咽を漏らす。

 泣いているようだ。

 ……やっぱり俺が天井壊したせいかな。そりゃそうだよな。今までは成績が悪いだけの生徒だったのが、俺のせいで成績最下位かつ学校を破壊する問題児にクラスアップしちまったからな。


『アテナ、その、すまなかったな。……次からはもうちょっと加減するよ』

「…………」

『だからな、えっと、できれば俺を捨てないでくれると――』


 泣いて目を赤くしたアテナがこっちを向いた。


「ヤマダさん」

『……?』


 ベッドの上、向かい合う俺とアテナ。

 アテナは一度すぅっと深く呼吸し。

 そして――両膝をついて俺に深々と頭を下げた。


『え? 何、どうしたの?』


 アテナが顔を上げる。


「私のお父さんは“戦吏”でした」

『そうか。……じゃあアテナはその父親に憧れてこの学院に入ったのか?』

「少し違います」


 アテナは静かに語り出した。なぜ彼女がこの学院に固執するのかを。


 ヴァルハラ学院に通う生徒は8割が貴族だ。のこり2割はだいたいが豪商の子供である。つまり、純粋な平民であるアテナは本来この学院に通うような人間ではない。


 金や名誉がほしいなら冒険者になった方が手っ取り早い。

 

「ヤマダさんは“戦吏”と“冒険者”の違いはご存知ですか?」

『戦吏は冒険者より騎士に近いんだっけか?』

「そうです。そして冒険者が魔物のみを相手にするのに対して、戦吏は諜報や潜入、暗殺など対人戦も行います」

『へえ、なるほど』

「戦吏は貴族や国の依頼で動く便利屋、といったところですかね」


 なるほど、わかりやすい。


『しかしアテナの父さんも平民だったんだよな? 戦吏になったなんてすごいじゃないか』

「はい。……ですが、殺されました」

『え……』

「どこかの貴族に捨て駒にされて命を落としたんです」

『それは……ひどいな』

「私はその貴族の情報を集めるために、私自身も戦吏にならないといけないんです」


 はっきりとした口調で語るアテナ。

 まさかアテナの目標がこんなダークなものだったとは。


『アテナはその父親を殺した貴族に復讐したいのか?』

「わかりません。でも、知りたいのです」

『そうか……』

「だからヤマダさん」


 再びアテナは頭を下げた。


「私を合格に導いてくださり、感謝が尽きません! そのご神意に従い、どこまでもついていきます……!」

『……なんだって?』


 よくわからないが、やはりアテナは俺のことを神様かなにかだと勘違いしていそうだ。


『ま、まぁ、これからもよろしくな相棒!』


 訂正するのがいい加減面倒になってきた俺はもう放っておくことにした。





《アテナ・ヘカテイアを【巫女】に登録しました》

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