落ちこぼれ少女と不思議な魔石
女の子成分が不足してお困りだった紳士の皆様、大変お待たせ致しました。
そしてゴブリン愛好家の方々、申し訳ありません。ここからゴブリンはしばらく出てきません。
「どうしよう……」
魔法実技試験はもう明日。
なのに私は魔杖も買えていません。
「どうしよう……」
言っても仕方がないのに、そんな言葉ばかりが出ます。
せっかく“学院”に入れたのに……こんな体たらくじゃすぐに田舎に帰ることになってしまう。
「おっ! 支援科のお荷物が呑気に歩いてるぜ! お~い、退学後の就職先は決まったのか~!」
「ぎゃはははっ! ひどいこと言ってやるなよ! アイツを受け入れてくれる職場なんて無いって!」
「あっははは! お前の方がひでーこと言ってんじゃねえかよ!」
…………っ!
同じクラスの男子が私を指さして笑う。
かぁっ、と顔が熱くなるのを感じた。
でも言い返せない。
私の成績はクラスで最下位。
しかも、お金もないから装備もそろえられない。学費を払うので精いっぱいです。
私がクラスで『お荷物』だの『金欠無能』だのと言われているのは知っています。男子生徒以外の人もクスクスと私を見て笑っています。
「…………ッ!!」
羞恥に耐え切れず、私は逃げ出すように走り去りました。
勢いに任せて逃げてしまった私は河原で膝を抱えて座っていました。
「うう、どうしよう……」
また同じセリフがこぼれます。
この辺に魔石落ちてないかなあ。なんて、ありえないことばかり思い浮かぶ。
それに仮に落ちていたとしても、純度の低い粗悪な魔石じゃ意味がないのです。
純度が高い魔石を使うことでこそ、スキルの威力は大きく上がります。魔石を使わずにスキルを使っても大抵は実用レベルにならないのです。
一般人なら魔石なんて使わなくてもいいけれど、私たちのような『戦吏』は魔石なしじゃ話になりません。
――“戦吏”。
国や個人のために外敵と戦うことを目的とし、市街地での武装が認められた、特権のある職業。
私が通っているのはその養成学校、『帝立ヴァルハラ学院』です。
名門中の名門であるそのヴァルハラ学院にせっかく入れたというのに……。
私は現在、退学の危機にさらされていました。
魔石必須の魔法実技試験が間近だというのに、まだ魔石入手のめどが立っていません。次の試験で最低評価だったらいよいよ退学です。
「魔石なんて……買うお金ないよぉ……」
“戦吏”が使うような戦闘用の魔石だと、グレードが一番低いものでも30万マネイはします。私の全財産20万マネイでは届きません。
「うぅっ……ぐずっ……」
泣いたってどうにもならないのに涙が出ます。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
ふっと顔を上げると、知らないおじさんがいました。
お嬢ちゃんって、私のこと?
黒い服をきた小太りのおじさんは柔らかな笑みを浮かべています。とても人の好さそうな笑みです。
「その制服は学院の生徒さんだね。なにか悩み事かい?」
「えっと……」
「そんなに目を赤くするまで泣いてかわいそうに。僕でよければ話を聞くよ?」
初めてかけられた優しい言葉に、私は魔石のことを話しました。
お金が20万マネイしかないこと。魔石がないと退学になること。すべてを話しました。
涙で滲む私の声をおじさんは最後まで聞いてくれました。
そして私に同情してくれました。
話を聞いておじさんは、
「かわいそうに。でもちょうどよかった。君を助けてあげられるかもしれない」
「えっ!?」
「僕の知り合いが魔石商をやっているんだけど、ちょうどいい魔石が手に入ったらしいんだ」
「でも私、お金が……」
「あっははは! 君から大金をせしめようなんて考えてないよ。僕が魔石商の彼に口利きすれば格安で譲ってくれるはずだよ。ただ、彼も商売だからタダってわけにはいかないだろうけどね」
「ほっ、本当ですか!」
おじさんはにっこりと笑ってうなずきました。
救われた……!
本当にそう思いました。
ギリギリのところで神様は私を見放さなかったんだ!
さっそくその魔石商のところまで案内してくれるというので私は喜んでついていきました。
* * *
着いたのは薄暗い路地裏でした。
そのお店は外から見ればただのテントです。
「あのう、ここですか……?」
「そうだけど、どうかしたのかい?」
「い、いえ。なんでもないです……」
なんだか気味が悪い、とは思いましたがさすがに口には出しません。
テントに入るとでっぷりとおなかのでたちょび髭のおじさんがいました。
この人が魔石商でしょうか?
その人に案内してくれたおじさんが何か耳打ちします。
きっと私の事情を説明して、口利きしてくれているのでしょう。
話が終わると、魔石商のおじさんが私に話しかけました。
「お嬢ちゃん、大変だったねぇ。よし、この中の魔石で好きなのを選ぶといい」
そういって、三つほどの魔石を私に見せてくれます。
半透明な魔石、薄紫の魔石、濁った濃い青色の魔石の三つです。
う~ん、魔石の質なんてわからない……。
適当に、これかな?と青色のものを持ってみました。
「お嬢ちゃんお目が高いねえ! さすが学院の生徒さんだ! そうさ、それは正規の魔石店で買えば100万マネイはくだらない逸品だよ! しかしお嬢ちゃんのためだ! ええい、もってけ泥棒! 20万マネイで売ってあげよう!」
「ほ、本当ですか!? 買いますっ! 買わせてくださいっ!!」
私はすぐに20万を払いました。
よかった! これで退学せずにすむ……!
「あ、あの……! ありがとうございました! 感謝してもしきれません!」
「ふふ、なぁに。気にしなくてもいいよ。ああでも、ここで魔石を買ったことは憲兵さんや学院の先生には言っちゃダメだよ」
「どうしてですか……?」
「かなり値引きしたからね。そういうのが知れるとあんまりよくないんだ。ほら、不平等だとか、クレームが来るんだ」
「なるほど……」
確かに、100万を20万まで値下げしてくれたんです。そういうこともあるのかもしれません。
私は何度もお礼を言ってその魔石商を後にしました。
その帰り道のことです。
「ふふっ! よかった!」
私は軽くスキップをしながら自分の寮へと帰っていました。
お金がなくなったから今日はご飯抜きだけど、それでも気分は最高でした。
『また随分とバカな子に買われちゃったな』
「っ!?」
急に誰かの声がします。
すごく近いところから聞こえました。
それなのに近くには誰もいません。
「何……? 気のせいかな……」
怖くなってきょろきょろと周りを見渡します。が、やはり人影はありません。
『まぁでも巨乳・ピンク髪のかわいい女の子の所有物になったと思えば、うん、くるものがあるな』
「っ!?!? だ、誰ですかっ!」
『……え?』
「ち、近くにいるんですよね! 誰なんですか!?」
『俺の声が聞こえてる……? まさか【啓示】持ちか?』
ーーこれが私とヤマダさんとの出会い。
エッチで子供みたいで、――無敵な神様との出会いでした。




