日常
突然だけど、俺のことを説明しようと思う。
名前は藤宮弓月。読み方は、ふじみや ゆづき。変わった名前だとはしっている。けれども俺としては気に入っている。なぜかって?この名前は、ある伝説に登場する人物の名前で、遥か昔に、色々な技術や物を日本に伝えたと言われているからだ。
特技は弓。名前によくあっていると言われることが多い。実は弓道で全国で優勝したこともある。これはかなり自分でも誇らしい。
性格は、大雑把、かつ、変なところで細かいこだわりがあるらしい。流石に親友に言われると認めざるを得ない。
臨時だけれども、風紀委員としても活動中。あまり表にでないから知っている人はほとんどいないけれども。
友達は親友1人と、仲のいい友達何人か、慕ってくれている後輩に、頼ってもいいと思える先輩、尊敬できる先生がいる。その先生には、俺は、深く狭い人間関係らしい。言われてみれば確かにその通りだろう。
そして、もっと変わっているのは、俺は魔術を扱えるということ。
今時点、それを知っているのは、両親と親友だけ。できるのは、本当に簡単なことだけ。日常生活でも使えるけれど、わざわざ使うほどてもない。水をどこでも出せても、植物を意のままに成長させることができても、意味がない。それに、親友は面白がってくれるけど、それを知られたらどうなるのかはよく知っている。母さんのように恐れ、父さんのように気味悪がるだけ。
ずっとそう思って生きてきた。なぜこんなことが出来るのか、深く考えたくなどなかった。
すぐにそうも言えなくなるのだけど。
その事を知ったのは、たった一夜前だった。
久方ぶりにかかってきた、母からの電話には心底驚く羽目に会った。そもそも、母が、俺に電話をかけたことから、天地がひっくり返されるようなのに、この俺に、弟の世話を見てくれと言ってきて、とうとう地球に隕石が降ってきたのかと、思ったほど。
この学園なら、あなたもまともになったのだから、弟にもちょうどいいわ。きっと1人で寂しい思いをしてしまうでしょうから、あなたにとっても愛しい弟を、よろしくね。
そんな言葉に呆れ果てて、何も言えやしなかった。ほとんど会ったことの無いのに、なぜ愛しいと言い切れるのか。とはいっても、曖昧に言葉を濁し、必ずしも弟を助けなくていいと、言わせたのは、俺が薄情なせいだろうか。もう、両親に対してさえ、愛情など持てない俺が。
「はああああ!?」
次の日 、あんぐりと口の中をさらしているのは、俺の親友の淳という。俺が最も信頼し、信用していると断言できる。
そんな彼は、俺の話を聞いて、怒りを込めて、叫んだ。こんなにも俺を心配してくれるのは嬉しいんだが、少しは周りを見て欲しい。彼の悪い癖だ。感情が昂ると、前のことしか見えなくなる。その真っ直ぐな性格はこの学園では少なく、好感を持てるものだが、いつか、その性根が、彼に害を及ばさないといいのだけれど。
「落ち着け、淳。そんなに驚くことでもないだろ。」
いや、嘘だ。これは槍が降ってもおかしくなど無い。
「いいや、ビックリするよ。あの!あの、ネグレト両親が弓月に連絡してくるなんて!これを驚かずに、何に驚けばいいのさ!」
まあ、俺自身もネグレトだとは思うけど、ここに入れてくれたのは感謝している。例え、その理由が、家の名に泥をつけたくなかったとしても。
「仕方ないよ。俺のせいだから。」
そう言えば、彼は目をつり上げて怒った。ビシッと指を指してきて、俺を叱る。
「なに言ってんの!弓月が自分達の思ったような良くできた子どもじゃなかったという理由で、弓月を見ようともしなくなった癖に、お互いの不和の責任まで勝手に押し付けてきたのは、あっち!それを弓月は気に病む必要なんてない。いくら、おれの大親友でも、それ以上、弓月をおとす発言したら許さないからね!」
そうは言ってもやはり、俺のせいであるのは変わらないのに。
「あ、また卑屈になった!」
ギクッとする。気づかれたとは……。
「おれたちの付き合い何年だと思っての?大抵のことはわかるし、弓月だっておれの考えていることわかるでしょ。」
今度はこっちが呆れられたようだ。それには流石に俺も苦笑いを返すしかない。
「分かった。降参するよ。確かに驚いたけど、俺としては積極的に関わるつもりはない。親衛隊の方にも、しっかり連れくしておくつもりだし、あっちの方も俺のことなんて、ほとんど知らないはず。写真があるかさえ疑わしいのに。」
顔をしかめて見つめてくるから、少しのけぞる。
「嘘はついていないようだね。……うん、弓月は普段はとてもパーソナルスペースが広いのに、所々、警戒が薄いから、後でおれもお前の親衛隊長と話をつけておくよ。」
「は?何でお前が俺のとこと?」
眉を潜めれば、彼ははぁあ、と大きなため息をついた。
「お前が、ひょいひょい変態を引っ掻けてくるからだよ!おかしーな。おれ、ちゃんとお前にことあるごとに、しっかり教えてきたと思っていたのは、おれだけか?」
手を頭にあてて、うんうん唸りがらぶつぶつ呟き始めた彼に、ちょっと引く。これだから、お前は残念なイケメンって呼ばれるんだよ。
ガバッと彼は顔をあげて、周りの人が振り返るほど大きな声で叫んだ。
「誰のせいだと思ってんだー!!」