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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
2章 病魔の通り道
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7 髪飾りの修復ですが


「ところで~ライラさんのそれってやっぱり……さっきのせいですよね……?」


 歩き始めて少ししてから、アメリアが窺うように言う。私の顔より上を見ているようで、私ははたと気づいて髪飾りに手を伸ばした。


 パロッコが旅立つ時に私に贈ってくれた白い花の髪飾りは、本物の花がそうなるように萎れていた。獣が跳びかかってきた時に破裂音が響いたのは、パロッコが最初に込めてくれた魔力が助けてくれたからなのだろうと私は思う。髪留めを外して手の中でへにゃりと萎れた花を見ながら私は胸中で感謝を伝えた。


「でもこれ、魔力を込めれば何度でも使えるようになるって贈ってくれた人が言っていたの。私は魔力がないけど、空気中の魔力を少しずつ集めて自然とまた使えるようになるって。きっとまた綺麗に咲いてくれるわ」


 私が説明するとアメリアはホッとした様子だった。


「凄い物なんですね~。今度は私の魔力を込めさせてもらっても良いですか~?」


 私は驚いて目を(しばたた)いた。良いの? と確認すればアメリアはにっこりと笑って勿論ですと大きく頷く。


「私も助けてもらいましたもの~! 私もそんなに魔力が多い方じゃないんですけど、この大きさならきっと大丈夫です~」


 歩きながらアメリアは髪飾りを私から受け取って、花を両手で包んだ。数秒待ってアメリアが手を開くと、萎れていた花は瑞々しい姿で咲き誇っていた。わぁ、と私は感嘆の声をあげる。


「凄い! すっかり元通りだわ!」


 アメリアも驚いている様子だった。しげしげと眺めてから髪飾りを私に返してくれる。


「こんなに素敵な物、世界に二つとないですよ~! 大切にしてくださいね、ライラさん」


 私は頷いて美しく凛と咲く白い花の髪飾りを頭に挿し直した。アメリアがまたにっこりと笑う。リアムはあまり興味がないのか無言のままだった。


「それのおかげで私も助けてもらったんですね~! でも森を抜けた後、怖すぎて気を失ってしまったのは本当に申し訳ないです~」


 苦笑するアメリアに私は首を振って否定した。命の危機を感じるほどの恐怖であったのは間違いない。私もひとりきりだったなら、アメリアがいなければ何とかしようとは思えなかったように思う。


「あんなに大きな体であんな風に飛びかかってくるのを見たら怖くて当然よ。私だってリアムが来てくれなかったらどうなっていたか」


 はわ~とアメリアはリアムを見上げた。リアムは自分に話題の矛先が向いたことを知って迷惑そうに一瞬私を見た、ような気がした。


「どうやって助けてくれたんですか~? 剣士さんのようだし、剣でしょうか~」


 そういえば、と私も首を傾げた。リアムが具体的に何かをしたわけではない。獣の方が先に(きびす)を返したのを私は思い出す。


「……別に何もしていない。獣の方がオレの気配に気づいていなくなったんだろう」


 私たちの無言の質問に諦めたのか、溜息を吐きながらリアムは言う。面倒臭そうだった。リアムの腕前がどの程度なのか私は知らないけど、ひとりで旅ができるくらい腕に覚えがある人なのだろうから、獣の方が怯えて逃げたのかもしれない。なるほど、と私は納得していた。


「でも魔物避けの匂いが原因だっていうのはどうして? コトが何か教えてくれたとかですか?」


 私は肩掛けバッグの中から顔だけ出したコトの額を人差し指でくすぐりながら訊いた。コトは目を閉じて気持ちよさそうにしている。


「……あんたに言いたくても大方その魔物避けとやらの匂いが嫌で近づけなかったんだろう」


 あわわ、と私は自分で墓穴を掘ったことを知った。ごめんねコト~と声をかければコトはのんびりとした声でめぇーと鳴いた。


「仲良しさんなんですね~」


 アメリアが私とコトの様子を見て笑った。私は苦笑して、コトは元々リアムのところにいたことを教える。


「リアムは魔物使いさんの適性もあるっていうから、コトをよく分かってあげられるんでしょうけど私は全然駄目みたい」


 え、とアメリアは目をぱちくりと見開いた。綺麗な緑の目がお日様の光を反射して更に綺麗に輝く。私はアメリアがどうしてそんなに驚くか判らなくて、私も目を丸くした。


「魔物使いなんですか……?」


 リアムを見上げる目が少し怯えているように見えて私は首を傾げた。リアムはそれに気づいているのかどうなのか判らない藍の目でアメリアを見下ろして肯定する。


「そうらしいな。その辺の記憶はないが」


「アメリア?」


 疑問を感じて呼びかける私に、アメリアはハッとした様子ですぐにまた笑った。けれど今までのお日様のような笑顔とは違って、翳っているようだった。


「いえいえ、何でもないです~! 周りに魔物使いの人がいなくて驚いちゃっただけですから~! 何であれ助けてもらったわけですし、本当にありがとうございます~!」


 何だか少しだけ気まずくなった空気を私は感じるけれど、二人とも何事もなかったように振る舞っている。私はもう一度コトの額を指先でくすぐって、めぇーと高い声で鳴くコトの声を聞いていた。




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