6 木陰でのお喋りですが
リアムの言葉に目を丸くする私に、リアムはむっとした様子を見せた。
「オレが行ってはならない理由でもあるのか」
そうじゃなくて、と私は慌てて首を振った。
「何処かに行く予定があったりとか、リアムの行こうとしていたところと違ったりとかしたら申し訳ないですし」
問題ないとリアムは答えた。アメリアを抱き上げて森とは反対方向の木陰へ運んでくれる。それについて行きながら私は本当に、と念を押していた。
「別に何処へ行く予定もなかった。気付いたら此処にいたんだ。何処へ行こうと同じだが……オレも行くと言っておきながら次に気づいたらあんたを置いて何処かへ行ってるかもしれないぞ」
あ、と私は口を噤んだ。行きたいところがあっても彼はその性質のせいで行けないのかもしれない。話を聞いた時は呪いのようだと思ったけど、呪いよりも残酷な気がした。
「それがあなたの行きたいところなら止めない。でも、あなたにそういうつもりがないなら、声はかけます」
リアムは少し驚いたように見えた。次いで小さく笑う。頬を緩めたところは見たことがあるけれど、笑うのは初めて見た気がした。
木陰にアメリアを降ろして自分も腰を下ろしながら、リアムは私に視線を投げた。
「オレに声をかけるか。意識のある時に体験してみたいものだな」
あら、と私も腰を下ろしてアメリアの呼吸の様子を見ながら笑った。
「してほしいならいくらでも声をかけます。ひとり旅じゃそういう機会はなさそうだし」
でも、と私はまたリアムを見た。黒い髪の間に見える、宵闇の前に滲む藍色の目も私を見ていた。
「アメリアの――彼女の――村は流行り病が蔓延しているっていう話だから……村の中までは入らない方が良いと思うの」
リアムは片眉を上げて私に疑問を投げかけた。私は目を伏せてリアムから視線を外す。
「だって流行り病は……本当に恐い。三日寝込んで呆気なく旅立ってしまうから」
両親のことを思い出して涙が浮かびそうになるのを堪えて私は笑った。どうしようもできず、名前を呼んでもらうこともできず、もっとああすれば良かったこうすれば良かったと、日頃から感謝を、愛を、伝えれば良かった。そう思っても全て叶わずただ見送るしかなかったあの時間は、今も私の胸を貫くような痛みをもたらしては苦しめる。
「……亡くしたことがあるのか」
その声には戸惑いが含まれている気がして、私は努めて明るく笑ってリアムを見た。表情に困惑は出ていないけれど、こんな話をされてもきっと困るだろう。善意でついてきてくれる彼をわざわざ病魔のいる村に巻き込むこともない。
「でも、彼女は薬師だから。流行り病に効く薬を作ってくれるって張り切ってるの。特効薬が出来るなら私も手伝いたいし、その場に居合わせたいとも思う。その薬で助かる人を見ることができたら、とても嬉しい」
そうか、とだけ口にしてリアムは視線を逸らして黙り込んだ。私も続ける言葉はなくて、コトのふさふさ尻尾を触りながらアメリアが目覚めるのを待った。
ほどなくして目覚めたアメリアは自分が生きていることにも、リアムがいることにも、自分がいつの間にか気絶していたことにも驚いていた。
「はわわわ~! ごめんなさい、ごめんなさい! あの魔物避けがまさか逆効果だったなんて~!」
今にも泣きそうな顔をしながらぺこぺこと頭を下げるアメリアに、私は良いのよと彼女を宥めた。
「効果はあると思うの。でも嫌な匂いだからこそ排除しようと思う子もいるんだわ。塗ってもらったところは拭っておいたから、きっともう大丈夫」
しょんぼりするアメリアに私は笑って、ね、と気にしていないことを伝えようとした。アメリアは落ち込んだ様子だったが、私は話題を逸らすためにリアムを紹介する。村まで同行してくれると聞いたアメリアは純粋に疑問を感じたようで綺麗な緑の目を丸くした。
「どうして」
「あんたらだけじゃまた獣と睨み合うことになってもそれ以上ができないだろう」
「護衛についてきてくれるんですか~!」
感謝の気持ちからまたもぺこぺこと頭を下げるアメリアに、私は苦笑した。忙しい子だ、と私は笑うけど、リアムは表情を変えなかった。
「もう寄り道するのはやめます……真っ直ぐロゴリの村に帰りましょう!」
アメリアが決意すると前向きさも戻って来たようだ。落ち込んだ様子は見られず、こっちですよと先導してくれるアメリアに、私とリアムもついていくために足を出した。




