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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
2章 病魔の通り道

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3 二人の心配と心の内ですが


 予想外の言葉に私は驚いてロディを見上げたまま、言葉を失ってしまった。心の何処かで良いよと言ってくれるものだと期待していた。アメリアの村も放っておけないと言うような気もしていた。


「流行り病は恐ろしいものだ。まだ多くは解明されていない。キミは一度難を逃れたけど、次も逃れられる保証はない。その薬師の子が発症していないだけで病を持っていないとも限らない。薬草をあげて早々にヤギニカから出て行ってもらう方が賢明だろうね」


 厳しい表情でロディは私に言う。酷なことを言っているとロディも思っているのだろうか。それとも、本気でアメリアに早くこの街から出て行ってほしいと思っているのだろうか?


「ボクとラスにも依頼が入った。ソフィーからの依頼だよ。宝石の発掘に彼女の祖父が滞在している山まで迎えに行ってほしいそうだ。鉱山は魔物が多く出る。ライラにはこの街で留守番をしていてほしい。ボクもラスもいなくなるから、目立つ行動は控えてもらえたらと思う」


 五日から一週間ほどかかる見込みだ、とロディは続けた。ラスはもう聞いていたのか表情を変えない。自分の身さえ自分で守れない、そんな自分の力不足で二人に迷惑をかけるわけにはいかないから、私は引き攣りそうな頬を何とか上げて笑った。


「分かったわ。気を付けて行ってきてね」


 上手く笑えているだろうか。気づいても二人は何も言わないかもしれない。すまないね、とロディが安心したように息をついて言った。ううん、と私は首を振る。


「エルマの授業料としての依頼だから無碍にもできなくてね」


 ロディはラフカ村から此処まで通ってくるエルマのために宝石を扱うソフィーの依頼を断るわけにいかないんだ、と知って私はまた首を振った。杖の調整をしてくれた人が魔法について教えてくれるならエルマもきっと心強いだろう。それを邪魔してはいけない。


「いつ出発するの?」


「明日の早朝には出るつもりでいるよ。山は日が暮れるとすぐ暗くなってしまうからね」


 そうですね、と山育ちの私は頷いた。灯りのない山は野生や魔性の領域だ。鉱山がどんなところか私は知らないけど、人があまり住まない山なら人の領域は限られている。ロディやラスのように腕の立つ冒険者でなければ夜は越えられないかもしれない。


「じゃあ薬草、多めに持って行ってください。山は怪我をしやすいし、薬草で治るものならそうした方が良いって、モーブが言っていたから」


 二人は驚いたように少し目を瞠った。ラスが優しく微笑んで、その通り、と頷いてくれた。


 私たちは宿に帰ってからそれぞれ旅の支度を整えた。私は二人の薬草を入れた袋に、何とか入るだけ薬草を詰める。アメリアに渡す分も用意してみるけど、どれくらいあれば村の半数を助けるだけの量になるか判らなくて途方に暮れてしまった。


「ロディはああ言ったけれどね、あたしはあんたの気持ちは大切なものだと思うよ。でもロディも身内を優先すればこそああ言ったんだと思う。その村が落ち着いたらロディも慰問に行くのを許してくれるだろうさ」


 うーんと唸っている私にラスがそう声をかけて、私はラスを見た。ラスも道具袋の整理をしながら優しい表情で私を見つめていた。身内、と私が繰り返すとラスは頷いた。


「あんたは大切な仲間だからね。医療魔術師でもないのに、わざわざ流行り病が蔓延っている村に出向いてもらってくる必要はない。未だに有効な治療法が見つかってないような病だ。あの子の作る薬で治るなら、それはとても凄い発見になるんだけど」


 医療魔術師が(こぞ)って取り組んでいて尚とっかかりも見つからないのにどうだろうね、とラスは懐疑的な様子だった。


「あの子が物凄く優秀で、といった可能性もないわけじゃないけど、不確定なことが多すぎる病だ。あたしもあんたが心配だから、ロディと同じ意見だよ」


 私の胸はラスの温かい言葉が染み入ると同時にずきりと痛んだ。私はそれを押し隠してまた笑ってみせる。両親が褒めてくれた笑顔だ。亡くした後も同じように笑えるように、あの泉で何度も特訓した。大丈夫。大丈夫だと信じてる。


「心配してくれてありがとう。私も明日からの依頼、二人が無事でいるように願っているわ」


 ラスは頷くと道具袋の整理に戻った。私も薬草と向き合い、心の内で決意を固めていた。


 翌朝、ロディとラスは早朝に出発し、私は二人を見送った。宿の一室で私は置き手紙を書く。一週間くらいかかる依頼だと言っていたから、それまでに戻ってくればこの手紙は私自身が破棄できる。もし二人の方が早く戻ったなら、心配しないで待っていてほしいといった内容を書いた。二人の心配はありがたいけど私はやっぱり、アメリアと一緒に行きたい。もしこの薬草で何とかなるなら、その瞬間に立ち会いたい。それに流行り病に怯え沈んだ村はもうビレ村で十分だ。高熱を出して看病することしかできない思いは、私だけで十分だ。


 私はアメリアに渡す薬草を持って宿を出た。鍵を宿屋の主人に預けて、アメリアの泊まった宿へ向かう。朝陽は私の進む道を明るく照らしていた。

 


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