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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
2章 病魔の通り道

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2 慰問のお話をもらったのですが


「へぇ~歌姫の“適性”が天職なんですね~! 私は賢者の“適性”が天職だったので、薬の研究もできる薬師を選んだんですよ~!」


 宿があるあたりに向かいながら話していて、アメリアは楽しそうににこにこ笑いながら教えてくれた。私は驚いて目を丸くした。私も賢者の“適性”は天職と診断されている。けれど魔術師や神職の上級職と思っていたから、魔力もないし神職としての才もない私には関係がないと思っていた。でもモーブが、“知ること”自体を大切にしているのでは、知ること、考えることが賢者の本質なのではないかと言ってくれてから少し意味合いは変わったような気がした。そしてアメリアは、まさにその言葉の体現のように思えた。


「お薬に興味があったんですか?」


 はい~とアメリアははにかんで頷いた。


「祖父が薬師で、私はよく祖父について森へ薬草を採りに行きました~。食べられるもの、毒になるもの、素手で触ると火傷をするけど煎じればとても良い解熱剤になるものとか、とにかく色々なことを教えてもらったんです~」


 とても素敵な思い出を教えてもらっていると気付いて私は微笑ましさで頬を緩めた。彼女にとっての原点だろうその思い出は、私にも覚えがあるものだった。両親が奏でてくれた歌が、聞かせてくれた物語が、魅せてくれた舞が私の原点だから。


「祖父は村で唯一の薬師だったから、祖父が亡くなった後は私が跡を継ぎました~。大抵のことは祖父の知識が私を助けてくれましたけど、ひとりひとりに合ったものを作る必要もあるから研鑽は欠かせなくて」


 それで今回の流行り病ですよ~とアメリアは苦笑する。村の半分近くが寝込んでしまって、早急に何とかする必要があると話してくれた。村の人は怯えている。これまでの薬や知識では対処ができないから、新しい薬を作らなければならない、そのために薬草を求めてやってきたと。


「村の半数近くの人のためなので沢山の量が必要なんです~。でも無理は言えないから、お仲間さんと相談して渡しても良い数量を決めてください~。お金も少しですけどありますし、手持ちの薬で何か交換して頂けるなら交渉させてほしいです~」


 遠慮がちに、でも譲れなさを持った声でアメリアは私に言う。申し訳なさそうに困ったような表情を浮かべているけれど、何としてでも薬草を持ち帰らなければならないと強い意志も感じさせた。


「絶対に持ってきます。私の村も流行り病で大変な思いをしたので、何とかなるならそうなるに越したことはないですし」


 私も力強く頷いた。アメリアは綺麗な緑の目を丸くし、眉根を寄せて微笑んだ。嬉しさと切なさが同居した表情だった。


「ライラさんも大変だったんですね~。それで歌姫として旅をしているんですか?」


 私は咄嗟に頷いていた。魔王側に狙われるかもしれなくて、なんて理由を話せるはずもなくて、ラフカ村でラスやロディが話していた理由に少し加味したことにして話を合わせる。アメリアははわわ~と目をキラキラさせた。


「もし良かったらロゴリの村にも慰問として歌いに来てほしいです~! 村がもう少し元気になってからでも構いません~! みんな怯えちゃってるから、元気づけてあげてください~!」


 そう言ってもらえることはとても嬉しくて、私もアメリアの手を取って是の答えを返した。アメリアも嬉しそうに笑う。その笑顔はお日様の下で育った薬草を感謝と共に摘む、同じようにお日様の恩恵を受けた温かだった。


「宿探しまで手伝って頂いてありがとうございました~。三日歩き通しだったから流石に疲れちゃいました。今日はゆっくり寝ることにします~」


 ある宿で宿泊手続きを取ったアメリアは部屋へ上がる前にくるりと振り返って私に頭を下げた。緑のフードから栗色の髪が一房ゆるりと垂れる。いえいえ、と私は胸の前で小さく両手を振った。


「また明日にでも薬草を持ってきますね」


 私がそう言えば、はわ~とアメリアは声をあげて一瞬顔を上げるとまた深々と下げる。


「お世話になりっ放しで……! あ、良ければこれ差し上げます~私が調合したお薬なんです~」


 ごそごそと腰のベルトに下げた袋を探ってアメリアは琥珀色の液体が入った小瓶を私に差し出した。受け取って、私はその綺麗な色に見入ってしまった。


「綺麗……」


 思わず口に出した私の言葉にアメリアは嬉しそうに笑う。


「喉にとても効くんですよ~。咳止めを作ろうと研究してたら予想外に人の喉にとても良い効果を持つ材料だと判ったので、喉が痛いと言う方向けに作ったんです~。歌われるならきっとお役に立てると思います~」


 とろりとしたそれは蜂蜜にも似ていて、確かに喉に良さそうな気がした。私は大切にポーチにしまってアメリアに礼を言う。良かったぁとアメリアは笑った。


「お気をつけて帰ってくださいね~」


 アメリアとその場で別れ、私はラスが待つ広場へと戻った。ロディが戻って来ていて、私は二人の名を呼んで両手を大きく振った。二人とも気づいて片手を挙げて返事をしてくれる。


「おかえり、宿は見つかった?」


 小走りで二人のところに行けば、ラスがそう尋ねた。私は頷いてロディを見上げる。


「ロディもおかえりなさい」


 ただいま、とロディは微笑んで言った。話は聞いたよ、とラスをちらりと見てロディは続ける。


「テオとエルマからもらった薬草は沢山あるから、相当数あげられるよ。キミがあげたいだけあげると良い」


 私は二人に礼を言ってアメリアの村のことを話した。慰問に来て欲しいと言われたことを口にした途端、ロディは眉根を寄せて難しい顔をする。


「三日歩いてということは大して離れた距離じゃない。流行り病がどう移動しているか知らないけれど、あまり此処にも長居しない方が良いかもしれないね」


 それから私を真っ直ぐに見てロディは言った。


「それにライラ、慰問に行くのはボクは反対だ」




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