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4 自己紹介ですが


 少し時間をもらって準備を整えた。荷物は大してない。肩掛けの小さな鞄に身の回りのものや、せめてもの護身用に果物ナイフを持つ。分けてもらっていた食料はある程度を紙袋に詰めて冒険者さんたちに差し入れして、残りは教会に持っていって司祭さまに家のことも含めて後を頼んだ。


 私の急な旅立ちに、村の人たちは仕事の手を止めて見送りに来てくれた。


「ライラの歌が聴けなくなると思うと寂しいわ。元気に頑張ってね」


「おめぇならぜってぇ大丈夫だからよ、体に気を付けろよ」


「つらくなったら戻ってきても良いんだからね。護衛を頼むお金ならみんなで出せば何とかなるだろうから村に着いたら払うでも良いのよ」


 口々に心配され激励され気にかけてもらって、私は少し涙ぐんだ。


「ありがとう。私の名前と歌がビレ村にも聞こえるように頑張るからね」


 そして精一杯の笑顔を浮かべて。


「行ってきます!」


 見送られて私は冒険者の皆さんと村を後にした。最初の曲がり角を超えて村が見えなくなった頃、さて、と赤にも青にも見える不思議な紫色をした大きな宝石が嵌めこまれた杖を持った青年が声をあげ、自己紹介をしようと言いだした。


「ボクらの名前、教えていなかったね。短い旅の間とはいえ、一晩お世話になったのに名乗らないのは失礼にあたると思う。モーブ、良いかな」


 もちろんだ、と爽やかに笑う青年の是の答えで私は冒険者さんたちに名前を教えてもらうこととなった。


「じゃあ言い出しっぺのボクから。ボクはロディ。職業は魔術師。攻撃もできるしこのパーティの回復役まで担っている。健康管理を任されていると言っても過言ではない。得意な魔法は水と炎系、ボクは才能溢れる天才だから回復魔法も使えるよ。暑い時や寒い時、怪我をした時はぜひボクを頼るんだよ」


 銀がかった宝石のように綺麗な金の髪の下で整った顔立ちのロディが饒舌に話す。にっこりと笑うロディは少しだけうさん臭く見えたけど、ほぼ初対面でそんな感想を言うわけにいかないから私は曖昧に笑って頷いた。


「あ、意中の人ができた時もぜひ頼ってくれたまえ。手取り足取り何なら告白の練習までボクが相手になって請け負うからね!」


「黙んな、童貞」


「いきなり手痛いなぁ、ラス! キミだって別に経験豊富じゃないだろうに! ダイしか知らないはず……」


 鋭い一声を発したのは赤毛の女剣士だった。彼女が背中の剣を抜こうとするように手を動かすと、ロディがいやいや冗談と掌を返した。


「悪いね、あんまり気にしないで。こいつ童貞のくせに軟派だから引っかかんないでね。あたしはラス。剣士だよ。……あれ、ロディみたいに詳しく言った方が良い?」


 名乗った後に少し考えて仲間に尋ねたラスは少し天然なのかもしれないと思って私は小さく笑った。私より年上に見えるけど、とても可愛い人のようだ。


(きょう)(ざつ)。名前だけで良い筈」


 頭の天辺で美しい黒髪をひとつに括った少女が鋭い視線と共に言った。そっか、良かったとラスがホッと胸を撫で下ろす。


「自己紹介なんて久々すぎてやり方忘れちゃったよ」


「無用。……ハルン」


 私をじっと見てそう言ったそれが彼女の名前だと気付くまで少し時間が必要だった。なるほど、と思ってよろしくと私は微笑む。


「キニ、格闘家だ」


 その後ろでよく似た鋭い眼差しをした黒髪の青年が続けた。パーティのリーダーらしき青年が、二人は兄妹なんだよと教えてくれる。


「愛想は悪いけど二人ともとっても良い奴だから、誤解しないであげてね」


 兄妹二人がむっとするのと、幌馬車の中から顔だけ出したパロッコが、あー! と声を挙げるのはほぼ同時だった。


「モーブったら、情報はお金になるって言ってるでしょー! どうしてそうすぐ教えちゃうのよー!」


 パロッコが駄々を捏ねるように頭を振った。雛鳥の羽根のような彼女の短い髪がふわふわと跳ねるようについてくる。


「隠すことでもないじゃないか。それとも何かまずかったかな?」


 パロッコとキニとハルンの表情を見て困惑する青年に、まぁ良いけどさーとパロッコが返す。


「そこがモーブの良いとこでもあるし」


「同感。それに言ってしまったものは仕方がない」


 あはは、と笑って青年は私を真っ直ぐに見た。


「パロッコはさっき紹介したから、最後は僕かな。僕はモーブ。剣士をしているけど、魔王討伐のために勇者とも名乗っている。このパーティは魔王討伐を目的としたものだから武骨なところがあるだろうけど、腕には自信があるから安心して欲しい」


 勇者、と聞いて私は目を輝かせた。吟遊詩人だった父が語るお話にはいつも勇者さまが出てきた。


「勇者さま! 初めて見ました! 行商人の護衛には流石に勇者さまはいなかったから……ずっとお話の中にしかいないのかと思ってました」


 今度はモーブが目を丸くする番だった。何を言うんだ、と本気で驚いている様子だ。


「ボクには分かるぞ。キミだって、勇者適性があるだろう?」



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