表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
1章 炎の魔女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/366

12 作戦会議ですが


 猪に似た魔物達の足跡を追って少ししてから、ラスとロディは馬の歩を緩めて止めた。私も馬の背から首を伸ばして足跡の行方を追う。背の高い植物が茂る草原にどうも続いているようだ。


 馬に跨っている私の足首を背の高い植物がくすぐるほど伸びている。普通の猪よりも大きい体をしている彼らが隠れるには、確かにこのくらいの背丈がないと難しいのだろう。


「参ったね、下手に踏み込めば思いがけず遭遇することも有り得る」


 ロディがラスに話しかける。ラスも足跡の先を目で追いながら肯定した。


「こんなところで囲まれでもしたら厄介だ。どうしたものかな」


 ロディが思案するように呟いて黙り込む。私は踏まれて少し傾く草を視線だけで追いかけた。猪は草を素材に営巣するとロディが道中教えてくれた。春先の出産のために営巣することがほとんどだけど、魔物も同じかは判らない。特に一際大きな体をしていたあの魔物が隠れられるような巣なんて、巣の方が目立ってしまうことだって考えられる。山の自然にできた洞窟や穴蔵に身を隠す方がよほど建設的だと。


 同じ方向から魔物達はやってきたけれど、巣から出る度にもしこの草を踏んでいるなら獣道の標ができてしまう。何かが通っていると周囲に知らせることになり、それはきっと危険なことだと本能で理解しているだろう。だからいつも同じ道を通っているとは限らない。昨晩、あるいは今朝はこの道を通っただけのことで――。


「あんたの魔法でおびき出したりできないの?」


 ラスがロディに問う。風でかい、とロディは返して少し考えるが、かぶりを振った。


「下手に刺激すれば警戒して余計に出てこないだろう。かといって火を放つわけにもいかない。水も同じだし……」


「こんな時、あんたが土の魔法を使えれば……」


「スミマセンー」


 むくれて返すロディに、私は驚いて振り返った。弾みで髪が頬にかかる。口の中に入りそうになる髪の毛を指で耳にかけながら私は目を丸くしてロディに尋ねた。


「ロディにも使えない魔法があるの?」


 ぐぅ、とロディが喉の奥から聞いたことのないような声を出した。それを見て、あはは、とラスが明るく笑う。


「水みたいなヤツだからね。流されて流れて、周りも巻き込んで進んでいく。形あるものに収まることもあれば、岩肌を削って形を変えることもある。土からしてみればこんな厄介なヤツに力を貸すのは嫌なんだろうさ」


 ぐぅ、とロディがまた喉の奥で唸る。言い返したいけど言い返せない、そんな声なき声が聞こえてきそうだった。


「神童ロディにも使えないものがあるなんて安心するじゃないか。いくら天才と誉めそやされても魔法の方から三行半を突き付けられたんじゃ、流石のあんたでもどうしようもない」


 ラスが嫌みのない笑い方で笑い飛ばすものの、ロディは気にしているのかむくれてそっぽを向いた。


「土は堅実な者を好む。根を張りどっしりと構える土壌は守りに最適だが、どうやらボクは嫌われている。ボクは型にはまらないタイプだから水や火と相性がとても良いんだ。でもいつか、土の魔法だって使いこなしてみせるさ」


 魔法のことは私にはよく分からないけれど、ロディのその言葉には真摯な熱意がこもっていて、私は素直に応援したいと思った。


「ええ、きっとロディなら大丈夫」


 頷く私に、ロディは鳩が豆鉄砲を食らったような顔を一瞬見せたような気がしたけど、私が確かめる前に嬉しそうに笑っていた。


「ほら、ラス、聞いた? ライラはボクを信じてくれるようだよ!」


「はいはい、良かったね。それよりこの状況をどうするか考えないと」


 ラスから振ってきたくせに、とロディはまたむくれたけど、ラスはもう真剣に考え込んでいてロディの文句は聞こえていないようだった。


「馬を降りると視界が悪い。かといって馬のまま行けば何かあった時に不都合も起こりやすい。一頭ずつ捕獲なり仕留めるなりできれば一番良いけれど」


 罠を講じる時間も数で押すような方法も取れない。私も何か役立つことを思いつければと考えながら辺りを見渡したけれど、特に何か使えそうなものは見つからなくて肩を落とした。


「空腹だろうし気が立っていると思うから、ねぐらに近づかれたら怒って出て来るんじゃないかと思うけど」


 ラスがまだ言葉を続けていた。


「馬で駆ければ開けたところまでおびき出せると思う?」


 赤毛の下からブラウンの視線を投げかけられて、ロディはふむと思案した。


「やってみる価値はあるかもしれないね。それはボクらが請け負おう。ラスにはおびき出した魔物を斬ってもらった方が良いだろうから。

 ライラもそれで良いかな?」


 私は頷いた。ラスの傍にいても足手まといになる可能性の方が高そうだ。それならロディと一緒に馬上にいた方がラスは存分に剣を振るえるだろう。


「ボクらと馬には念のため風の守護を。万が一追いつかれて牙でやられたんじゃ、馬が可哀想だからね」


 ロディが早口で何かを唱えて杖を振る。頬を柔らかな風が撫でて髪を少しだけ遊ばせて通り過ぎた。昨日もかけてもらった風の魔法の感触が私は好きだった。


「さて、かなり速度を出すからね。振り落とされないようにするんだよ、ライラ」


 私は手早く髪の毛をまとめ、準備を整えた。ラスが思いついて数分で作戦は実行されようとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ