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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
12章 瞬きの現し身
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6 迎えられた集落ですが


 結局、この招待を拒んでも此処を抜け出すには情報が足りない、という結論は誰もが同じで、私たちはバルの集落へ向かうことになった。


 追い払った魔物が再びやってくる気配はない。馬を沢山走らせた私たちは少し速度を落としてバルの集落へ向かう。乾燥した土地でも草は多少生えており、その草を食むことで馬は水分を摂っているようだった。


「集落へ着けば水を飲ませてやれるからな。もう少し頑張れ」


 バルは自分の馬にも私たちの馬にもそう話しかけ、馬たちはブルブルと鼻を鳴らして頭を振った。(たてがみ)が揺れ、手にパシパシと当たるそれをバルは笑って受け止める。悪い人ではないと私はそれを見て思った。


「もう少し行けば見えてくるぞ」


 バルの宣言通り、地平線の彼方にテントらしきものが見えて私は自分でも目が輝くのが分かった。砂埃を受けてテントは少し汚れていたけれど、活気のある様子が伝わってくる。テントの周りを子どもたちが走り回り、大人がその様子を見守りながら仕事をしている。それはビレ村で見ていた風景とあまり変わりがない。何処も同じなのだと感じた。


「此処はドナンマノ・イ。俺たちの集落だ」


 馬の上でバルは誇らしげに私たちに向けて言う。バルと見慣れない馬車が来たことで子どもたちや集落の人々が仕事の手を止めて集まってきた。


 皆、金の目をしている。陽の光を反射して美しいそれは私にとってはアルフレッドを思い出すもので、人ならざる雰囲気を感じて微かに息を呑んだ。


「誰ー?」


 子どもたちは好奇心旺盛なのかバルにすぐ尋ねていた。旅人だ、とバルは私たちを紹介する。旅、と聞き慣れないのか子どもたちは首を傾げたけれどその目に怯えはない。


「こんなところを旅する者がいるとは」


「そうだろう、俺も驚いた。トムに襲われていてな」


 バルの回答に驚いたのは大人も子どもも同じだ。無事だったのか、と私たちが無傷であることを確かめるように多くの目が向く。私たちは面食らいながら頷いた。


「あれは私たちの声を聞かない。あれに会ったら終わりだと言われているのに、バルに会えてあなたたちは運が良かった」


 バルよりもひと回り歳上に見える男性が私たちを労るようにそう言った。バルはこの集落の中でも腕が立つと。その腕が立つという表現は剣の腕ではないのだろうと私は察する。魔物使いの集落であるなら、そしてバルの話から魔物を傷つけることを良しとしないのであれば、それは魔物使いとしての腕なのだろうから。


「ええ、危ないところを助けてもらいました」


 ロディが調子を合わせるようににっこりと笑んで話を受ける。そうしておいた方が印象が良いと判断したのだろう。セシルがこっそりと息を吐くのが聞こえた。


「それにしても皆さん、よく似ていらっしゃる」


 ロディの言葉にあぁ、と男性は微苦笑した。私たちは家族なんです、と答える。この集落全部ではないけれど、親戚関係にあるらしいと聞いて道理でと私たちは頷いた。


「他にも私たちのように纏まって集落を形成している者はあります。交流も時折。あちらの方面は既に草を食んだから数ヶ月は開けた方が良い、向こうは新芽が出た頃だ、といったような」


「なるほど、動物たちのための情報ですね」


 ロディが目を細めると男性は嬉しそうに笑った。私たちは生き物に生かされている、と男性は言う。その感覚は私にも解る気がした。いつも感謝を、と私は司祭様から教わった。女神様がもたらす恵みに感謝し、日々を繋ぐのだと。


「生き物を優先して私たちは生きているんです。彼らが生きられるなら私たちも生きられる。この地は過酷です。人は助け合わなければならない」


「立派な心がけです。ボクらにできることならやりますから」


 お世話になるなら当然だ。私は大きく頷き、男性はまた嬉しそうに笑った。集落の全員が出てきているわけではないだろうけれど、彼が一番この中では歳上に見える。全体を纏める長かもしれない。それがもし、過酷すぎて長くは生きられないことの証明だとしても彼らは此処で力強く生きている。それをどうこう言うつもりは私にはなかった。


「この土地は見ての通り恵みが少ない。それでも僅かな命を頼りに私たちは必要な分を頂き、命を繋ぎます。ただ、客人はもてなさねば」


「お、ってことは宴か」


 バルが弾んだ声で確かめる。それにつられるようにして子どもたちも長と思しき男性をキラキラと輝く目で見つめた。男性はそれを微苦笑して受け止め、羊を一頭潰すようにと言い置く。歓声が上がり、私たちは恐縮した。


「羊一頭分のお礼なんて」


 私が慌てるとバルが良いんだ、と笑った。そういう時期でもあると。


「食べ頃の羊がいるのは事実だ。それを潰して皆で分け合えば体力もつく。育ち盛りの子どもたちもいるしな。招待客がいるのは口実だから気にしなくて良い」


 そう言うことなら、と私たちは顔を見合わせて頷いた。ラスの剣にチラチラと視線をやる人は多いものの、言及はされない。バルが約束を守ってくれたのか、それとも触れないでおこうとしているだけか、私には判らないけれど。心配したような当たりの強さは見られなくてホッと胸を撫で下ろした。


 ロディの描いた魔法陣から水が湧いて馬たちの水桶を一杯にした魔法は驚き、歓迎され、私たちは宴の準備を手伝いながら集落について知って行ったのだった。



2024/09/29の夕方:読み直していてびっくりしたんですけど、トムを全然違う呼称でバルが呼んでいたので修正しました。すみません、流れは大まかには決めてるけど名称とかは結構行き当たりばったりなので矛盾しやすくて…メモ取ってるんですけどね…そして流れも当初予定していたものとは全然違う方向に進んで行ったのでプロットとは(迫真)みたいな状態です!笑 わらいごとではないが!

失礼しました!引っ掛かりが少なくなったはず!読みやすくなっていれば幸いです!

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