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19 それぞれの旅立ちの時ですが


 翌朝、旅立つパロッコを全員で見送った。商人たちのパーティでも護衛はいるらしく、剣士が何名か一緒についていくようだった。


「素敵な贈り物、ありがとうございました」


 もらった花の髪飾りを早速飾ってお礼を伝えた私に、パロッコはにっこりと笑う。


「その髪飾りはね、魔力を溜めることができるの。溜めた魔力はいざという時に放出されて持ち主の身を守ってくれる。再度魔力を込めれば何度でも利用可! しかもこれの凄いところは、魔力を込めなくても空気中から微量の魔力を集めて溜めてくれるところなの。時間はかかるかもしれないけど、時間が経てば必ずまた使えるようになる。魔力のないお嬢さんにも安心設計の優れものよ」


 ぱちん、とウインクをしてパロッコは言う。私は驚いて目を丸くした。


「そ、そんな。きっとお高いものでしょうに……」


 あはは、とパロッコは笑う。勿論、無料じゃないわよ、と。


「でもそれはね、商人としてのあたしの投資。だから出世払いで良いわ。お嬢さん、ぜひ大成してね。サービスであたしの魔力、込めといたから」


 私の身を案じてくれる彼女に、私は素直にお礼を伝えた。良いのよ、と笑う彼女の笑顔がこの先の旅でも曇らないことを私も願う。お互いにお互いの旅路の加護を願い、彼女がこれまで過ごしてきたパーティメンバーとの別れも終わると、パロッコはいざ旅立って行った。


「僕らも、出発しようと思う。気が向いたら手紙を送って。旅の報告、楽しみにしているよ」


 モーブとキニ、ハルンの三人もパロッコの出発からあまり時を空けず、故郷に向けて出発していく。とても軽い、またいつでも会えるすぐ隣町に出かけるような別れだった。


 別れ際、モーブに目で、二人を頼んだよと言われたような気がした。あの夜に交わした言葉を思い出し、私は微笑む。それを受けてモーブも爽やかに笑った。


「さて、と」


 宿の前で三人を見送り、残った三人だけになってしまったパーティを振り返ってロディが口火を切った。ラスがロディを見る。私も彼を見上げた。


「ボクらだけになってしまったね。行く当ても特にないけど、何処か行ってみたいところはあるかな」


 ロディの言葉に、え、と私は驚いた。


「この街の後に何処へ行くかって決まってなかったんですか?」


 私はこの街に送り届けてもらうだけだった筈だから、そういう話は聞いていないだけだと思っていた。それぞれの進路が変わってからも特に行き先は変わらないものかとも勝手に想像していた。でもラスとロディが顔を見合わせた様子から察するに、どうやら違うらしい。


「そうだね、行こうかと話していたところはあるにはあるんだけど」


 歯切れの悪いロディがラスを窺いながら言葉を探す。首を傾げる私に、ラスが思い切ったように言った。


「あたしらは当初、魔王討伐を目的にしていた。だから次の目的地もおのずと魔王に関係する噂のあるところになる。だけどライラ、あんたまで魔王討伐に向かう必要はないんだよ。いくら勇者の適性があるからと言っても、みんながみんな魔王討伐に赴くわけじゃない。旅を続けざるを得なくさせてしまったのは、あたしらだ。だけど魔王討伐まで引き継ぐ必要はない。あんたが行きたいところがあるなら、其処に行った方が良いと思う」


 二人で話し合ったのかもしれない。答えが出ないまま、今日を迎えてしまったのかも。私よりも年上で、沢山の経験をしてきた二人が申し訳なさそうに私を見るのは何だか不思議な感覚だった。私を尊重してくれるのは嬉しい。だけど。


「気遣ってくださって、ありがとうございます。でも、仲間外れにされるのは寂しいです」


 二人はきょとんとして目を丸くした。


「お二人ばかり私のことを気遣ってくれても、私それで良いとは思いません。負い目のようなものを感じてるのかもしれないけど、でもそれは戦力にならない私も同じです。ついてきてもらえることを嬉しくも思うし、申し訳なくも思います。ええと、あの」


 上手く言葉にできなくて私はコホン、とひとつ咳払いをした。二人は私が何を言うのかと気にして目を向けてくれている。


「つまり、私、旅は初めてで全然頼りないし役に立つこともないかもしれないけど、でも自分にできることは頑張りたいので、その、私も旅をする仲間として数えて欲しいんです。私を尊重してくださるのは嬉しい。でも、だからこそ私もお二人を尊重したいって思うんです。対等に扱ってほしいなんて厚かましいですけど、でも、どうかお願いします」


 私が言い切ると、ラスもロディも目を真ん丸にして、お互いに顔を見合わせた。それから、ぷっと二人で破顔する。今度は私がきょとんとして目を真ん丸にする番だった。


「これは失礼なことをしたね、ラス」


「そうだね。ちょっと舐めていたかもしれないね、あたしら」


 庇護する対象として、とラスが続ける。守るのではなく不足分を補うと考えよう、とロディが言うとラスが同意した。私は二人の顔をどちらかが話す度、その方向へ向ける。ロディが優しく笑った。


「とりあえず中に入ろう。地図を持ってきて、それから、色々と伝えないといけないね」


 まずは情報の共有だ、と言うロディに私の言いたいことをくみ取ってもらえたことを感じて、私は笑顔で頷いた。




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