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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
6章 絢爛の花園
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17 学園祭前の作戦会議ですが


「今回はアマンダとは関係ない。断言できる」


 学園祭まであと数日、という頃。私たちは聖堂に集まって情報を持ち寄っていた。開口一番にセシルが切り出す。相当な自信の現れに私は驚いた。そう、とロディが小さく頷く。


「となると、どう来るか予測が全く立てられないことになる。彼女が噛んでいると分かった方が楽だったんだけどね。こればかりは仕方ない。セシルの言うことを信じよう」


 ロディがすぐ信じたことにはセシルの方が面食らったようだった。微妙な表情をしてロディを見る。何か、とロディは穏やかな目をセシルに向け、何でもない、とセシルが逸らす。


 私はそれを神妙な気持ちで眺めていた。セシルと同じ感触だった。ロディがセシルを信用すると本気で言っているのか掴みかねる部分があったからだ。でもあの森の中の出来事を許すことはできなくても、仲間としての信頼は育つかもしれない。ロディもセシルを信じてみようと踏み出している期間とも考えられる。セシルが嘘を吐く利点がないから、私もセシルの言葉を疑ってはいない。


「何かあるなら学園祭当日だろう。一番星とやらに選ばれる生徒が危ない、というのが教師陣の中では一番の不安のようだね。そうだったら困るという類のものだけど」


 ロディの言葉にラスが頷いて後を継いだ。


「できないわけじゃないけど、学園祭は一般開放されるから対処しづらくはなる。用心棒だってひとりだ。あたしらも警護につくとはいえ、多くの人が来るんだろうから簡単なことじゃない。一般開放を止めることはできない。学園側が噂に屈したことになるし、優秀な生徒の未来を閉ざすことにもなってしまうって学園長が聞かないのさ」


 一応進言はしたんだけどね、とラスは苦笑した。ロディも苦笑して頷く。前にロディが聞かせてくれたように、一番星として優秀な生徒と学園側が認める唯一の機会だ。それに選ばれることで将来の道が開けるなら、学園側も生徒だって予言があるからといって首を縦には振らないだろう。


「それに、そんな噂を跳ね除けた優秀な一番星ならより引く手数多だと言う教師もいるくらいだ。手に負えないよ」


「生徒の安全には代えられないのに」


 思わず口を衝いて出た私の不満に、その通りさ、とラスは頷いた。優秀な生徒は確かに対処できるのかもしれないけれど、他の生徒が巻き込まれない保証はない。そもそも何が起こるか分からないし、死人が出る、としか言われていないのだからもっと慎重になった方が良いと思う。ひとりだけとも限らない。


「正論だけでは成り立たないのが大人の世の常でね。色んな利権も絡んでくる。嫌なら他の生徒と同じく休むという選択肢があったんだ。学園側としても今回のことで生徒の未来を狭めるようなことはしたくないんだよ。良い悪いは別として、ね。各地から要人も集まる。一番星に限らないのもキミには解ると思うよ、ライラ」


 ロディに(たしな)められるように諭されて私は口を噤んだ。ロディの言うことも確かに解る。メイジーのこともあるし、可能性はひとつではない。私も関わった劇が生徒たちの不安を払拭する可能性、演者たちが劇団の目に止まる可能性、それ以外にだってきっと色々な可能性を秘めている。生徒もきっとそれを期待している。それを起こるか分からない予言があったというだけでなくしてしまうのは、確かに不満も出てきそうだとは思う。


「でも、死者が出る、なんて」


 予言の内容は命に関わるものだ。不満が出るのは承知で止める責任がそれこそ大人にはあると思うのだけど、どうもそう上手くはいかないものらしい。口を尖らせる私にロディは苦笑した。


「そうならないようにボクらがいる。もし本当に何かが起きた時はライラ、キミの出番だからね。キミの歌で皆の不安や動揺を鎮めて欲しい。その手伝いはボクがするとも」


 色々な場所でそうしてきたように。それが弔いの歌でないことを私は願う。女神様の祭日に命を失うような事態にはなって欲しくなかった。


「問題はその予言が外から来るとは限らないってことだよ。学園の中が安全だなんて保証はない」


 セシルの指摘に私はハッとする。そうなの、と頷いてハンナから聞いたことを皆に伝えた。学園の中に悪い出来事を楽しみにしているような声がするとハンナが言っていたこと。もしもそれが予言を引き起こす者であったとすれば。


「セシルの言う通り、気をつけなきゃいけないのは学園祭の日に外から入ってくる人だけじゃないと思うの。中にもいて、外から仲間を引き入れるのを計画していたりとか」


 私が言うとラスもロディも難しい顔をして考えこんでしまった。有り得る、とラスが小さく呟く。


「アマンダならどうする?」


 ロディの質問にセシルは眉根を寄せた。先ほどアマンダの線はないとセシルが断言したのに、どうしてアマンダの方法を訊くのだろうと私も首を傾げる。


「……アマンダなら罠を張る。あらかじめ対象の場所にいくつも罠を仕掛ける。どれかひとつでもかかれば良い、くらいの小さなものだ。ひとつひとつは脅威じゃない。占いと称して(そそのか)すくらいのものだよ。ウルスリーでエミリーの相手をして欲しいと言われた時には、彼女がそうなるように仕向けたんだろうって思ったし」


「あぁ、うん。そうだろうとは思っていたよ。今回キミはその罠が見当たらないから彼女は違うと断言するんだね?」


 ロディが念を押すように尋ね、セシルは頷いた。


「噂は生徒たちを不安がらせるには充分だろうけど、でもそれだけだ。誰かが怪我をしたとか、寝込んでいるとか、そういうのは一切ない。普段からそういう回りくどい方法を取るアマンダが今回は手法を変えたとは思えない」


「そうだね。それなら納得だ。ということは、学園内に罠はない。起こすなら当日、大きいことをする。混乱に乗じてだろうな。

 実はね、今年の一番星は有力視されていた生徒が予言を気にした親御さんが反対したことでまだ休暇中なんだ。教師として潜り込んで分かったけど、生徒たちはあの手この手で教師陣から今年の一番星は誰になりそうかって情報を得ようとする。まだ決まりきっていないことくらい、生徒たちの間では知れ渡っているかもしれないね。

 だから、ボクならそうだな、何か事件を起こしてそれを解決し、土壇場で点を集めて一番星になるな」


 ロディの言葉に私たちは皆揃って目を丸くした。そんなことを考える生徒がいるとは思えなかったし、思いたくなかった。


「当日の応用力が試されると思っていた方が良い。冒険者としてやってきたボクらなら、そういうの、得意じゃないか」


 ロディの言葉に私は益々、不安を強めたのだった。




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