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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
6章 絢爛の花園
146/359

11 促された役割ですが


 リアムに潜入していることが知られてしまったセシルはその後、大人しく過ごしているようだった。毎日のように聖堂へ顔を見せに来てくれるけれど他の生徒もいるからか、私に話しかけずに帰ることもあった。


 司祭様が担うはずの懺悔室にはロディがいて、生徒たちの相談や気持ちの吐露に付き合っている。ロディがいると知っていて授業で顔も合わせるのに生徒たちには結構人気で、まぁ中にはボクと話したいだけの子もいるよ、とロディは苦笑していたけれど。


 ハンナもセシルほどではないにしろ、昼休憩時間に顔をよく見せに来てくれた。私は聖堂から動けないからこうして会いに来てくれるのは嬉しい。


「学園生活はどう?」


「魔法、教えてもらったら少しできたの」


「凄い! できることが一杯増えてるのね」


 ハンナは順調に授業で学んだことを身につけているようで私は安心する。リカルドたちにも手紙を書いているという話だから、フォーワイトの面々も同じ気持ちだろうと思った。 


「声は、まだ聞こえる?」


 声を落として尋ねればハンナは微かに頷いた。そう、と私は其処まで上手くはいかないかと思いながら微笑む。でも、とハンナは言葉を続けた。


「お(まじな)いは続けてるから、少しずつだけどできるようになってると思う。きっといつか、教えてもらったみたいに自分で聞きたいとか聞きたくないとか、選べるようになるって信じてるから」


 うん、と私は頷いた。流石に魔力量の多い子しか入れないというこのシクスタット学園でもハンナと同じ特徴を持つ子はいないらしい。ロディがそれとなく学園長に訊いてみてくれたようだけど、聞いたことないですねぇという返答だったとか。だからかハンナも口外はしない。幸いにも一番近くにいる同室の子から聞こえてくる声は悪いものではないようで、その幸運にも私は感謝していた。


「ハンナ、そろそろ移動しないと次の授業に遅れるわよ」


 聖堂の出入り口でハンナに声をかける子がいた。ハンナと同室の一年上の先輩で、おっとりした雰囲気の優しそうな子だ。メイジーという名の彼女は遠目にも関わらず私に会釈をしてくれるから、私も小さく返した。


「は、はーい! それじゃお姉さん、また、ね」


「うん、いってらっしゃい」


「! いってきます!」


 ハンナは嬉しそうに笑うと踵を返して駆け出した。当初心配していた人見知りは彼女に対しては発揮されていないようで私はその姿を見て胸を撫で下ろす。この様子だとフォーワイトへ手紙を書く頻度も低くなっていくだろう。でもリカルドたちならその理由を知れば喜んでくれる筈だ。


「やれやれ、昼時間に懺悔室の解放なんてするものじゃないな」


 ロディが懺悔室から出てくる。私は振り返ってお疲れ様と彼を労った。生徒のほとんどは次の授業の準備のために聖堂を後にしている。ロディも次の授業の準備があるだろうに、のんびりしていて良いのかと私は首を傾げた。


「次はたまたま空いていてね」


 私の心を読んだみたいにロディが言うから私は驚いてしまった。ロディはくすくすと笑う。


「でも懺悔室は有用だ。学園で何が起きているのか、生徒たちが何を不安に思っているのか、よく分かる。予言を怖がっている子がほとんどだ。普段は顔に出さないようにしているんだろう、健気なものだよ。色んな噂があるようだけど、此処に来てキミの歌を聴くと安心すると言う子もいた。これからも頼むよ、ライラ」


「私の歌が?」


 私が目を丸くすると、そうだよ、とロディが頷いた。優しい表情で女神像を見るから私もその視線を追う。色硝子の柔らかな光を受けて女神像は今日も美しく其処に佇んでいた。生徒たちも女神様へ祈りを捧げに来るし、不安な今は更に心の拠り所でもあるのだろう。


「キミの歌に魔力はない。それは此処にいる生徒たちならすぐ気付くものだ。でも魔力がなくても魅力的な歌声というものがあるのだと生徒たちは知ったんだよ。魔力を乗せた歌を聴いてきた子たちなのかもしれないね。キミの真っ直ぐな想いだけが乗った声に生徒たちは安心している。だから連日、盛況だろう?」


「それは、ロディに話を聞いてもらいたい子が来るからよ」


 私は信じられなくて反論する。でもロディは首を振った。


「ボクが懺悔室を開けている期間は限られる。それに開いている日は生徒に開示されているからね、本当に懺悔室にしか用がないなら他の時間には来ないさ。キミと話してみたいと思っている子もいるんだよ。セシルやハンナを羨ましいと思う子もいる」


「まさか」


 驚く私にロディは微笑んだ。キミからも話しかけてみると良い、と続けて。


「キミも生徒たちの声を聞いてごらん。キミにだけ話してくれることもあるかもしれないし、生徒たちの不安を取り除くのも大切だ。セシルを中心に学園内のことはボクらで探してみる。でも情報収集はキミの方ができそうに思う。難しく考える必要はないよ。目の前の生徒に向き合うだけだ。キミがセシルやハンナにしたのと同じように、相手の話を聞くだけ」


 それならできそうだろう、とロディが女神像から私へ視線を移す。私は迷いながらも頷いた。


「あまり期待しないでね? ロディみたいにはできないもの」

「ボクみたいにする必要はないよ。キミにしかできない方法がある。あまり深く考えず、まずやってみたら良い」


 セシルやハンナにしたように、とロディは言うけれど、何か特別なことをした覚えはないから自信がないまま私は頷いた。



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