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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
6章 絢爛の花園
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2 学園の予言ですが


「スノーファイの街へようこそ!」


 ヤギニカと同じで大きな街になると出入り口を守る警備兵がいるようだ。にこやかに迎え入れてくれた警備兵は馬宿は何処、と教えてくれる。ラスはお礼を言ってひとまず馬車を停められるところ、宿の確保を優先することを私たちに告げた。当然異論はなくて、私は頷く。


 荷物を部屋に置いて、私たちは買い物に出る。リカルドからもらった依頼料もあるし、懐は温かい。


「ライラ、あんた見直しておきたい装備はないの?」


 ラスに声をかけられて私は自分の身につけている装備を改めて見直した。ヤギニカでロディに見繕ってもらった装備は旅路を経て汚れがついたり綻びたりしている部分はあるものの、まだまだ丈夫で着られるものだった。パロッコにもらった髪飾りも魔力を十分に蓄えているし、問題はない。そう返せば、それじゃハンナの制服を買いに行くのに付き合って、と誘われて二つ返事で頷いた。


「ボクは杖の宝石を見てくるからまた後で」


 ロディは手を振って雑踏に消えていく。


「僕別に見たいものもないからお姉さんについてって良い?」


 セシルの言葉にも二つ返事で頷いて、私たちはシクスタット学園の制服を買いにハンナと連れ立って歩き出した。私はハンナと手を繋いで通りを進む。ヤギニカでは怖い思いをしたけれど、ラスもセシルもいるし、あの頃よりは私も強くなった、筈だ。


 リカルドが話してくれたようにスノーファイは貧富の差が大きい街のようだった。大きな通りは明るくて人通りも多くて煌びやかだけれど、ふと覗き込んだ細い路地裏ではボロボロの服を着た人が座り込んでいることもある。何もしてあげられなくて私はただ目を伏せた。


「いらっしゃいませ。シクスタット学園の制服をお買い求めですね」


 訪れたお店はガラス張りで綺麗だった。貴族の令嬢も来るお店なのだろうから納得ではあるのだけど、私もハンナもただただ圧倒されて緊張してしまう。ラスは場数を踏んでいるからなのか臆せずに店員さんと話していた。


「あちらのお嬢様が。さあさ、こちらにいらっしゃい。採寸しましょうね」


 ハンナは肩を震わせたけれど私がそっと背中を押すと採寸台の方へ歩いて行った。話しかけられて四苦八苦しながら答えるハンナは頑張り屋さんだと思って私は微笑む。


「入学時期はもっと前だから引き受けてもらえるか心配だったんですが、助かりました」


 ハンナへの助け舟のためにラスが店員さんに話しかける。店員さんは巻尺をぐるぐるとハンナに回して測りながらラスに返した。


「今年はあんな噂があったでしょう? 戻ってくるお嬢様も入学されるお嬢様も少なくて。遅れて入学されるお嬢様もいらっしゃるから、お気になさらなくて大丈夫ですよ」


「あんな噂?」


 気になって尋ねた私に店員さんは話しづらそうにする。聞いたことがないなら、と話が打ち切られそうになるのをラスが留めた。


「あぁ、ライラは聞いたことがなかったかな。やはり噂を気にする人は多いんですか? それでも遅れて入学する子もいる?」


「……えぇ、まぁ。学校側も守りを強めたと言いますし。先生方さえ中には逃げ出して休暇を取った方もいるという話ですから手が足りないとは思いますけど、でも優秀な先生方でしょう? いくら死人が出るなんて予言がされたとしても、ねぇ?」


「そうですね。あの学園はさる筋の令嬢もいると聞いていますし、守りは盤石でしょう」


 死人、と私は絶句してしまった。ハンナも青ざめている。セシルは目を細めた。ラスだって初耳だろうに動揺を全く出さずに平然と話している。


「学園も何でも腕の立つ用心棒を雇い入れたという話ですよ。魔法も剣技も、教師に回ってもおかしくないほどの腕前だとか。それにやっぱり発表される学園祭の一番星には恩恵があるでしょう? それに生徒たちも防衛術を学ぶんですもの。腕に自信があるお嬢様は戻られますね」


 でも嫌な噂は流れますね、と店員さんは苦笑した。


「予言者は何でも当ててきた人だという話もありますからね。不安な気持ちは分かりますよ」



* * *



 暗い面持ちで制服を受け取ってお店を出たハンナが深い溜息を吐いた。先行きが突然暗いものになってしまって溜息を吐きたくなる気持ちも分かる。どう励まして良いか私には判らなかった。


「お姉さん、僕、お願いがあるんだけど」


 セシルに服の袖を引っ張られて私は耳を傾けた。打ち明け話をするようにセシルは私の耳に口を寄せる。


「僕も学園に行きたい」


「え」


 驚いてセシルを見ると、真剣な表情のセシルが私を真っ直ぐに見ていた。嵐のような灰色の目に冗談は含まれていなくて、私は何と言ったものかと思って口籠ってしまう。


「予言者の話、アマンダの可能性がある」


「アマンダが」


 ウルスリーの村で会った綺麗な占い師を私は思い出す。本業は呪術師で、解呪のために必要な道具を集めるように指示した人。幼いセシルの面倒を見てくれたという人。予言もするの、と問えばアマンダは何でもするとセシルは答えた。


「アマンダは自分の目的のためなら死にまつわる予言だって行える。彼女が噛んでるなら一筋縄ではいかない。でも僕ならある程度、彼女の手の内を知っている。罠を仕掛けるのに効率的な場所、効果的な場面、そういうのの見当はつくと思う。僕は魔力も多い方だから入学する条件はクリアしてると思うけど」


「でも学園は女性限定で」


「声変わりもまだしていない僕の声とこの顔なら、誤魔化せると思わない?」


 なんてことを、と思うけど女の子の服を着てしまえばセシルが本当は男の子だなんて判らないだろうとは思った。天使のように綺麗で可愛らしい顔立ちをしているから、意識して振る舞えば疑われることはないんじゃないか。


「とにかく、私だけじゃ決められないわ。皆にも相談しましょう」


 私はそう言うと向こうからおーいと声をかけて手を振り歩いてくるロディの姿を認めて手を振り返したのだった。



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