8
幼い頃姫とよく読んだ物語の王子様が実際に現れたらこんな感じなんだろうか?とフィオナは扉の前に立つ男性をじっと見ながら思った。
男性もじっと自分を見てくる。少なくとも好意は感じられない、値踏みをするような嫌な目だ。
「大佐は軍議で遅くなるので、先に食事をと」
彼はひとしきりフィオナを値踏みした後素っ気なくそう言って、手近なチェストの上に食事ののったお盆を置いた。
「あ、ありがとうございます」
フィオナは慌てて立ち上がった。
「どうやって誑かした?」
男性はおもむろにフィオナに訊ねる。ひどく嫌悪感を含む声だ。
「どうやって取り入った?頼りなさげに見せて庇護欲を煽ったのか?敵国の人間といきなり結婚するなんて、そんなおかしい話があるわけないだろう?どうやって騙した?言いくるめた?姫付きの侍女だと言ったな?なんの利用価値もないではないか?お前なんか捕虜にすぎない、なぜ結婚など……、この魔女め!売女め!汚らわしい」
フィオナはその美しい顔から出てきたとは思えない言葉にただ驚き、その青い瞳を見ることしかできなかった。
「本当はうちの姉上と婚約するはずだったんだ。大佐は王の覚えもめでたく本当に素晴らしい方なんだ。お前なんかでは釣り合いが取れるわけないだろう。あの方の隣に並ぶのに自分が相応しいと思ったのか?図々しい女だな、自分が助かるためにあの方を騙したのか?さっさと処刑にでもなればいい」
その美しい顔を歪めヒステリックに怒鳴り散らして彼は乱暴に扉を開けると出て行った。
フィオナはこんな剥き出しの悪意に触れたのは初めてだった。城勤は辛いこともたくさんあった、姫のわがままと癇癪に途方にくれたこともあった、古参の侍女のいやらしい仕打ちに腹を立てたこともあった、ありもしない噂話や真実を歪めた話に傷つけられたこともあった。でも、人から死を望まれたことはなかった。
私が一体彼に何をしたのだろう……。
食事をとらなければいけないとは思ったが、あれだけ自分に悪意を持った人間が持ってきたものだと思うと食器に触れることさえもできなかった。
ソファに力なく座って、消えていく湯気を見つめる。
ヴィンフリートは祝福されたと言っていたが、あれは嘘だったのか。
彼の言葉を信じたわけではなかったが、ただ悲しかった。
当てはなかったができれば早く、どんな方法でもこの部屋から出ようとフィオナは思った。できれば今すぐ出て行きたかったが足に力が入らない。
どんな顔でヴィンフリートに会えばいいのかわからない。