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食事を済ませ、勧められた通り風呂に入り、服は出されていたものの中から白いシャツを羽織った。ズボンも履いてみたが、長すぎて大きすぎてどうにもならなかった。シャツだけでも膝まで長さがあり、誰にも会うこともないなら十分かと納得した。着ていた服も軽く洗い干してある、乾き次第着替えれば問題ないだろう。
窓の外を見下ろせば、敵兵達が我が物顔で規律正しく動いているのが見える。
この城は落ちたのだなと改めて実感した。
姫は無事なのだろうか?ジェイドは今どうしているのだろうか?城にいた他の者達にしてもどのようになっているのだろう?
戦局はもちろん敵国が有利であろうが、国境近くにいる宰相達がいる軍はどうしていつのだろう?まだ戦っているのだろうか?
そして自分は?フィオナはそこまで考えて重たいため息をついた。
ヴィンフリートは悪い人ではなさそうだ。それでも敵兵に違いはない、それもとびきり上の方の。彼が結婚したいと言っているのがどういう意味でかはまだ判断ができない。言葉通りに捉える方がどうかしているだろう。とりあえずはジェイドのことも気になるし、敵兵だらけのこの城から無事に逃げ延びれるかもわからない状況では、ここにいるのが1番正しいはずだ。
ジェイドの状況を知ること、できれば彼をこの城から逃すこと、自分もこの敵兵だらけの城から逃げること、逃げる先はどこだろう、時間はまだありそうなので自分のない知識を振り絞り少し考えよう。
一通り頭の中を整理し、フィオナは窓から離れ、ソファにぽすんと座った。
それにしても起きて何もすることがないというのは落ち着かない。これまではずっと立ちっぱなし、動きっぱなしが当たり前だった。
こんなふかふかのソファに昼間から座り込めるなんて、なんて贅沢。自国が敗戦して自分の待遇が良くなるなど違和感しかない。
あの人の妻になったら、こういう生活が待っているのだろうか?
ふと頭の中にとんでもない考えが湧いてきて、フィオナは思いっきり頭を振った。
そんなことはない。上手くいって妾として大事にしてもらえるがいいところだろう。それも彼の気が変わるまでという期限付き。
城から出たことのない自分が市井で何ができるだろう。針仕事も料理も、家事一般ならそれなりにできる。どこかのお屋敷にでも侍女として雇われるのが一番望ましいがそう上手くは行かないだろう。女がつける仕事として一番に思いつくのが娼婦だが、それはできるだけ避けたい。この先まともな結婚ができるかはわからないが、そういうことをお金のためにしたいとは思えなかった。
あとは自決、さして生きたいとも思わないが、望んで死にたいとも思わない。だからこれは選択肢には入らない。
自分1人だ。どうにか生活などなるだろう。
無理やり前向きに結論を出した。これ以上考えると気分が悪くなりそうだ。
シーツの整っていないベッドが目に入り、思わず立ち上がりフィオナはベッドメイクを始める。細々とぞんざいに置かれたヴィンフリートの私物をなんとなく一ヶ所にまとめて整理する。すると棚などの埃が気になりだす、手近にあった布を濡らして拭きはじめるとあれもこれもと窓まで拭く。来賓用の部屋など最近掃除をする余裕もなかったのだろう、結構汚れが溜まっている。ひと段落した頃には薄暗くなっていた。
陽の当たるところに干していた服はずいぶん乾いている。汗もかいたので借りてた服を脱ぎ、乾いた服に着替える。借りてた服は軽く畳む。
ロウソクに火を灯す。
静かな部屋だ。昨日までの喧騒が嘘のよう。昨日までこの城は落とされる寸前で、どこかで誰かの怒鳴り声や悲鳴が聞こえた。空気も張りつめ何かの拍子に全て崩れそうで怖く、必死で姫の脱出の用意をした。
たった1日しか経っていないのに、全てが遠い。
ゆらゆら揺れるロウソクの火をフィオナはじっと見つめていた。
不意にガチャリと扉の開く音がした。
ヴィンフリートかと思い顔を向けると、そこには苦虫を噛み潰したような顔をした金髪碧眼の男性が立っていた。